最終話は東北地区太平洋沖大震災の時の松島基地の対応についての話でしたが、何故、F-2(複座式=練習機として使用)戦闘機をはじめとする航空機を発進・非難させなかったのかと言う疑問は、震災報道のネタが一巡した頃から取り上げられていました。
確かに大震災直後の現地ではテレビが受信できず、電話は不通になっていたため情報が届かず、震源地が判らなければ津波の危険性も推測の域を出ませんでした。
さらに2700メートルある滑走路に亀裂などがあれば、高速度で滑走する航空機が離陸に失敗する可能性があり、飛行前点検なしでの発進では尚更でしょう。その意味では航空機よりも人命保護を優先した松島基地司令の判断は極めて常識的な責任あるものでした。
ただし、それはあくまでも通常の判断であって、非常事態に於いてそれが正しいかは別の問題です。野僧が仕えた旧軍出身・空自第1世代の司令であれば、救難隊のヘリから状況を確認しつつ、滑走路を飛行管理隊のジープで点検させると同時にエンジン始動と可能な限りの点検をした航空機を発進させたでしょう。
あの世代の幹部たちは航空自衛隊の戦闘機は国を守る掛け替えのない力であり、人命の重さとは別の価値を認めておられ、多くの戦闘機を失うことは国の安全を脅かすことであり、任務のために隊員を殺す覚悟もない平和ボケした現在の幹部自衛官とは危機意識が違うのです。
大規模災害の混乱に乗じて侵略することは戦術の常道であって、「失った航空機は後で買えばよい」など言うのは単なる役人の発想です。
野僧が司令部の幕僚であれば強く意見具申するのですが、被害確認や災害派遣準備の報告が錯綜する混乱の中では司令に耳を貸してもらうこと自体が無理かも知れません(防府で阪神大震災を経験した時、「忙しい時に余計な事を言うな」と滅茶苦茶に怒られましたから)。
現場の頑張りを否定するつもりは毛頭ありませんが、トモダチ作戦に参加した米軍の友人たちの話でも陸自を中心とした大震災時の上級指揮所の能力不足は再三指摘されていました。
ところで矢本町民がブルーインパルスを大歓迎していましたが、浜松での墜落の事故の後、矢本町ではブルーインパルスの移転、飛行停止を求める激しい反対運動が巻き起こりました。
しかし、空軍(ブルーエンジェルスは米海軍)のアクロバットチームは本来、航空機の操縦技術の研究と限界を追求することを目的としており、その醍醐味は「あんなことができるのか」と言う驚きと共に「危ない」「落ちる」「ぶつかる」と言うスリルです。
ですから安全優先の美しさだけを目指した演技では単なる芸能に過ぎず、命を掛けて限界を追求する男の美学に酔っている戦闘機パイロットたちは、全国の航空団を空中戦で行脚する飛行教導隊(アグレッサー)に憧れるようになったのです。
ところで槙典子(旧姓・柚木)さんが生んだ女の子に旦那は「航子」女房は「空子」と言う名前を考えるシーンがありましたが、実際、息子に「航(わたる)」「空(たかし)」と名づけていた友人がありました。
別のパイロットの友人の男の子は「鷲(しゅう)」「鷹(じゅん)」、女の子が「文(ふみ)」で、「娘さんには鳥の名前をやめたんですね」と言うと「猛禽類は止めたが、文鳥の文だ」そうです。
「空はつながっている」と言うのは野僧の保健婦の彼女が八重山の離島に赴任した時の台詞で、「スクランブル機のジェット音が聞こえると貴方だと思って空を見上げてしまう」と言われたことを思い出して号泣してしまいました。
空井くんと稲葉さんは「誰と一緒に生きたいか」に気づき、駆け出しましたが、野僧がそれに気づいたのは彼女が勤める離島からの一日一便の定期船が出港し、波止場で手を振っていた彼女が顔を拭ったのを見た瞬間で、飛び込んで泳ぐと言う選択もありましたが、野外訓練で八重山へ行っていたのでそれは無理でした。
それにしても空井くんはあそこまで全力疾走して膝は大丈夫なんでしょうか?おまけにリカさんを抱き上げたりして、同じく膝が悪い野僧としては本当に心配してしまいます。
鷺坂さんは「お前たちに諦めて欲しくない」と空に向かって呼びかけましたが、野僧の上司は酒をすすめながら「本当に諦められるのか?」でした。野僧は酔って泣きながら「あの家の子ですから仕方ないです」と答えましたが、その上司は親が命じた相手との結婚式に「那覇空港で沖縄の女性に刺されないように気をつけろ」と祝電を打ってきました。それは野僧の親に対する抗議の代弁だったのでしょう。
このドラマは忘れかけていた航空自衛隊を思い出させ、緩くなりつつある涙腺を全開にされましたが、「見ろ」と連絡をくれた友人たち、特に元小隊員の元希くんに感謝します。
最後にブルーのメンバーの前で空井くんが説明していた「空自を題材にしたドラマ」って「空飛ぶ広報室」のことですよね。
おまけですが、比嘉さんは1年前に曹長になっていました。若いのにすごいです。
- 2013/06/25(火) 10:16:05|
- 「空飛ぶ広報室」解説
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今回は自慢話から始まることをお許し下さい。
いきなり警備小隊が歩哨犬と使って侵入者を捜索、捕獲する場面から始まりましたが、これを航空自衛隊に持ち込んだのは野僧なのです。
警備小隊長だった時、米軍がベルジャン・マラノイ(最近はベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアと呼んでいるそうです)と言う犬種を使っていることを知り、横田基地の米空軍憲兵隊まで研修に行ったのですが、それにドラィバーとして同行した入間基地の歩哨犬訓練所の教官は、犬種だけでなく自衛隊と全く違う運用法にカルチャーショックを受けていました。
自衛隊では歩哨犬を重要警備地点のランニングチェーンにつなぎますが、米軍はそのような番犬式ではなく、常に隊員が同伴し命令で不審者を捜索、威嚇、攻撃、捕獲させるのです。
米軍はその実施方法まで実演して見せてくれましたが、野僧の通訳で具体的な質問もできたので、教官は満足し、空自でも導入に向けて研究すると言っていました。
その後、野僧は警察で米軍式の使用法が日本国内でも違法ではないことを確認し、自分の基地でも研究を始め、航空祭で実施しましたが、犬は本来、人の殺傷を目的とした武器ではないため、その使用により相手が怪我をしても武器使用にはならないのです。これが結実していることを知り非常に感激しました。
ちなみ「歩哨犬が2等空曹」と言うのは「旧陸軍の軍用犬が兵隊よりも上の伍長だった」との風説を踏襲したものですが、実際は高価格品、つまり物品扱いです(詳しくはブログ「航空自衛隊怪僧記」、小説「続・亜麻色の髪のドール」にてどうぞ)。

次にブルーインパルスが登場しましたが、野僧は東京オリンピックの開会式で空に五輪を描いたF-86F、通称「86(ハチロク)ブルー」からT―2ブルー、そして現在のT―4ブルーを見たことがあります(86ブルーは渥美半島沖の太平洋上空で訓練していました)。
T-2ブルーは、スマートな機体で見栄えはよかったものの急旋回、低速度、低空での飛行性能が劣り、曲技飛行には向かない機体で、演技をしてもそのまま視界から消えてしまう欠点がありました。このため8機編成にして6機の編隊飛行の合間に2機の演技でつなぐ変則的な構成にしていました。ところが浜松基地での下方開花(編隊で垂直に急降下しながら地上寸前で引き起こして開花する)中に墜落事故を起こし、さらに松島での訓練中にも墜落事故を繰り返したため、安全対策として演技の項目の大半が削除され、ただ編隊を組んで上空を通過するだけになっていました。
続いて登場したT-4ブルーですが、上昇力、旋回性能には定評があり、まさにアクロバット用に設計したような機体であるものの、運輸省・国土交通省に提出した安全対策を取り下げることは許されず、可能な範囲で演技を作る試行錯誤が続けられていました。
ですから大画面のビデオとは言えブルーエンジェルス(米海軍&海兵隊)、サンダーバーズ(米空軍)、スノーバーズ(加空軍)、レッドアローズ(英空軍)、バトルイユ・ド・フランス(仏空軍)、フレッチュ・トリ・コロール(伊空軍)などの映像を見馴れていた野僧にとってT-4ブルーの演技は、やはり安全管理の縛りがあって演技の難度が落ちるように思います。
一例をあげれば編隊を組んだ時の機体の間隔が広く(86ブルーや他のアクロチームは翼が重なって当たっている)、また急降下しながらの演技も殆どなく、横向きにアレコレやっていますが、機体がミルミル迫ってくる迫力には敵いません。
米空軍のサンダーバーズも編隊が全機滑走路に突っ込む事故を起こして演技に制限が加わりましたが、あちらは軍内の自己規制ですから公務員労組が反自衛隊の立場で足を引っ張る日本の運輸省、国土交通省の意図的な妨害とは違います。
ですからパイロットの憧れと尊敬はブルーインパルスよりも本当に極限まで飛ぶことができるアグレッサー(飛行教導隊)に移っているようです。

T-2ブルー

下方開花

墜落
ちなみにブルーインパルスはパイロットスーツだけでなく、整備員の作業服も特注です。
ところでチャンバー(飛行資格)の検査・訓練を入間基地で受けると言っていましたが、チャンバーの航空医学実験隊は立川分屯基地あると思います(4ケ所にあるとのことなので、新たに出来たのかも知れませんが)。
気圧を急激に下げて鼻をつまみ耳に空気を吹き込んで鼓膜を押し出したり、低酸素状態の中、酸素マスクを外して簡単な作業をしたり、遠心力で圧を加えて高いG状態を体験したりと1日でクタクタになりますが、これがパスできないと上空で空気圧が下がり鼓膜が破れ、低酸素で失神することもあります。
最後に鷺坂室長が「定年退官後はしばらく亡き妻が行きたかったであろう場所を旅する」と言っていましたが、退官後に引き続き就職しないと防衛省、自衛隊の就職支援を受けられなくなり、保証人もなく自力で探すことになります。
同じ自衛隊員でも自衛官は階級ごとに定められた年齢の誕生日の前日、事務官、技官は60歳に達した3月31日付で退官になります。これは自衛官の雇用基準を定める法令が年齢しか規定していないことによります。
その点、米軍は身体検査と体力測定の基準さえクリアできれば何歳までも勤務できます。
おまけに米軍の士官・将校は立候補した者だけで競わせて昇任させますから(ただし、3回立候補して昇任できないと予備役編入です)、今の階級、役職で満足しているのなら健康と体力を維持できれば何歳までも勤務すればいいのです。
空井くんが「美しいから飛べるんです。飛行機は」と言っていましたが、航空機は無駄を徹底的に排除して設計されていますから、究極に洗練された機械なのです。
ある機体は後から加えた電子機器を収めるための約10センチの出っ張りがあるため空気抵抗が増大し、大幅に燃費が落ちました。そこで出っ張り部分を滑らかな傾斜にすると燃費は改善したそうです。航空機の美しさはこうして作られるのです。
現在、空自内では登場人物のモデルは誰かと言う推理が流行っているそうですが、モト冬樹さんが演じている浅野空幕長は野僧の親分・平岡裕治閣下で間違いないでしょう。
顔、口調がそのままであることも勿論ですが、浅野空幕長の胸にはウィングマーク(パイロットの徽章)がなく、パイロットでなかった空幕長は最近では平岡閣下くらいしか思い当たりません。
今回気になった場面ですが、いつもは「先輩」「柚木3佐」と呼んでいる槙3佐が柚木3佐に「お前が泣いてどうする」と言っていました。2人の仲はかなり進展しているようです。
次回の最終回は2年後の話ですが、果たしてゴールインしているのか?

平岡裕治閣下です。どうですモト冬樹さんよりも男前でしょう。
野僧の退職の決裁を1ヶ月間保留され、「まだ説得できないのか?」と繰り返しておられたそうですが、間に挟まっていた第6高射群第22高射隊長と第6高射群総務人事班長が辞めさせたがっていましたから、「将来、部内出身初の将官になれ」と言う閣下の期待を裏切ることになってしまいました(それは車力で机を並べた曹候学生の後輩に託しています)。
- 2013/06/18(火) 11:24:41|
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今回は航空自衛隊にとっては日常茶飯事の話です。
陸は演習場、海は洋上で活動しますから一般の国民の目に触れることは滅多にありませんが、空は訓練にとどまらず、緊急発進(スクランブル)や救難隊の災害派遣で時間を問わず基地を発進するため騒音と言う批判の口実を与えざるを得ないのです。
このため航空自衛隊は陸海以上に国民の理解を得ようと広報活動に力を入れているのですが、それをマスコミは「宣伝に協力してやっている」と恩に着せており、少しくらいの行き過ぎた批判は帳消しにできると思っているようです。
番組の中で空井くんが警察や消防と自衛隊を比較して鷺坂室長から「意味がない」とたしなめられましたが、野僧のマスコミ関係の友人たちは「自衛隊ほど叩きやすい組織はない」と放言していました。何故なら警察、消防はニュースのネタを提供してもらう「商品の生産者」であるのに対して、自衛隊は報道してやる「サラ金の借り手」に過ぎないのです。
さらに誤った報道をして自衛隊が反論してくれば、旧軍の言論弾圧を引き合いに出して批判すれば済み、選挙にマイナスになると思えば自民党の政治家はいつでも寝返ると踏んでいました。
実際、御巣鷹山への日航機墜落事故で夜間の山岳地帯にヘリコプターを飛ばす危険性から夜明けを待って出動した慎重な対応を「初動対処の遅れ」とマスコミ各社が一斉に批判したことに、当時の佐藤守空幕広報室長(野僧の師匠の一人です)が文芸春秋誌で「いわれなき批判に反論する」と言う論文を掲載したことに対して、田岡俊次朝日新聞編集委員が「お前を飛ばすことなど簡単だ」と恫喝した件では、加藤紘一防衛庁長官は「宮沢政権に好意的な朝日新聞との関係悪化は避けたい」と火消しに奔走しました(この件については後述します)。
また潜水艦・なだしおと遊漁船・第1富士丸との衝突事故では「まだ海上自衛隊に落ち度があったとは確定していない」と謝罪を拒否していた東山収一郎海上幕僚長を瓦力長官は制服を着せて負傷者の見舞いに連れ回し、世論を決定づけてしまいました。
確かに自民党の防衛族の政治屋や制服の飼い主を標榜する防衛官僚の間にはマスコミを敵に回して事態を長引かせるよりも、制服に責任を押し付けて国庫から賠償した方が後腐れがないと言う認識が共有されていて、「自衛隊の活動は人殺しの練習」と言う稲葉さんの台詞は自衛隊反対派だけの常套句ではなく、防衛族や防衛官僚から投げつけられているものなのです。
尤も野僧にとって最大の批判者は本当の身内にありました。父親は「自衛隊は憲法違反の存在悪」と明言し、野僧が大韓航空機撃墜事件で実戦とも言うべき対処をして帰った時には、ねぎらうどころか「お前らは勝手に戦争を始める気か」と激怒し、自衛隊体育学校に入校して過酷な訓練の末、格闘指導官の資格を取得した時は「自衛隊は体育で遊んでいても給料がもらえるのか」と嘲笑しました。
さらに親が押し付けた同居人(嫁?)は、結婚直後に「自衛隊なんて馬鹿か不良の集まり」と言い放ち、健康を害して職務の継続に悩む野僧に「貴方の仕事なんてあってもなくても一緒なんだから辞めればいい」と頭から否定しましたから、赤の他人が何を言っても「仕方ない」と諦めることは簡単でした。おかげで反対派の人たちともすぐに友達になれましたが。
ドラマの中で阿久津チーフを鷺坂室長が訪ねるシーンがありましたが、その理由が「稲葉さんが困った立場に追い込まれていないか心配して」と聞き、阿久津が唖然としていたのは民間企業と自衛隊の人間関係を象徴していて面白かったです。
自衛隊の上司と部下は単なる職務上の関係にとどまらず生活面、精神面にまで及びます。何故なら出動となった時、生活の乱れは能力の低下を招き、後顧の憂いが任務に集中する妨げになりかねないからです。何よりもその隊員のミスにより部隊が損害を被ることがあれば、その損害とは多くの場合、死を意味しますから、心情把握と生活指導は部隊を指揮する上での基礎なのです。
一方、民間企業では収益を追求するため社員は給与に見合う仕事をすることだけを求められ、生活上の理由で会社に損益を与えれば給与などから賠償することになります。
社員が乱れた生活をしていて飲酒運転などの不祥事を起こしても、それで免許を取り消されて仕事に支障をきたしたり、会社のイメージを損なうことがなければあくまでも個人の責任であり、兎に角、定時に出勤して給与に見合った仕事をこなしていれば好いのでしょう。
今回のドラマの最後に稲葉さんが泣くシーンがありましたが、野僧には親に無理やり引き裂かれた沖縄の彼女(昨日のブログに記載)が別れ際に泣いていた姿に重なってとても辛かったです。
今時、嫌いでもないのに別れさせられる辛さを味わう人はそうはいないでしょう。
やはり新垣結衣さんは沖縄の人ですから共通する雰囲気があるのです。
余談・航空自衛隊VS朝日新聞
佐藤守空幕広報室長と田岡俊次編集委員の対立を伝え聞いた(中には文芸春秋の記事をコピーして配る幹部もいました)航空自衛隊は朝日新聞との全面対決を覚悟していたのですが、加藤長官は航空幕僚長を呼んでなだめ、それでも部隊が収まらないと内局を通じて長官通達と言う指導を加えて収束させようとしましたが、日頃の朝日新聞、テレビ朝日の報道姿勢に怒り心頭に達していた部隊はそれでも納得せず、最後には「予算配分を削減する」と恫喝してこれを抑えました。
しかし、部隊の怒りは水面下で沸き続け、その欝憤を晴らすべく基地内の隊員クラブではアサヒビールの売り上げが激減し、自動販売機コーナーでは若い隊員がアサヒのジュースを買おうとすると「これアサヒだぜ」と言い合って、さらにアサヒ生命の小母ちゃんたちは勧誘しても「アサヒは嫌だ」と断られるようになったそうです。
ジュースも生命保険も朝日新聞とは全く別の会社ですが、そのくらい怒っていました。
後年、アサヒスーパードライが大ヒットした時でさえ宴会の幹事は店に「アサヒビールは出すな」と釘を刺していました。
- 2013/06/11(火) 10:19:55|
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毎回、正確な番組作りに感心していましたが、今回はやや下調べ不足だったようです。
先ず、芳川秋恵士長は26歳と言うことなので入隊して8年間、3等空曹に昇任できておらず、バブルが弾けた直後なら兎も角、現在ではあまり優秀とは言えません。
次は浜松で出会ったと言うのは、浜松基地はかつて南北別の基地に分かれていたのを滑走路の西をトンネルでつないだだけで、パイロット教育の北地区と航空機整備員、電子整備員、高射の教育の南地区では殆ど交流がなく、パイロットと整備員の雛鳥が出会うことはまずありません。
さらに浜松市内(防府市でも)では自衛官だと判ると女の子の方から「北基地、南基地?」と訊いて逆軟派してくるくらい北基地のパイロットの学生はもてますから、ワザワザWAF(女性自衛官)を軟派することはないでしょう。北地区勤務の可愛いWAFは別ですが。
そもそも航空学生(パイロットの卵)は防府北基地に入隊し、半分はそのまま防府、半分は静浜基地でプロペラ練習機、続いて芦屋基地、そして浜松基地に来る訳ですから22歳のおそらく2等空曹が18歳の2等空士を相手にすることは・・・空井君がそう言う趣味なら別ですけど。
航空機整備員の特技レベルの話が出てきましたが、3レベルの間は整備作業の後、必ず7レベルのベテランのチェックを受けなければならず、実務訓練(OJT=on the job training)を終え、さらにAPTと呼ばれる特技検定試験に合格して5レベルになってようやく独り立ちと言うことです。さらに7レベルになるには先ず空曹に昇任し、浜松の上級整備員課程(アドバンス)を修了した上、OJTを終えてAPTに合格しなければなりません。
またこの特技レベルは航空機整備員だけでなく全ての職種に適用されており、5レベルでは2等空曹までしか昇任できないことになっていました。
WAFの航空機整備員は確かに狭いところへ入る作業には重宝しますが、手が小さく握力が弱いため、部品の交換をするのに始めから工具を使わなければビスを緩めることができません。
航空自衛隊では整備時間を短縮するため、米軍のように機体をバラバラにしませんから、頭が入らないような狭い空間に付けられている装置の交換作業も多く、時には手の感覚だけでセフティーワイヤー(ビスの緩み止めの針金)を切り、ビスを外し、装置を下ろすこともあります(切ったワイヤーで腕がズタズタになり血が流れ落ちてきました)。装着する時には片手でセフティーワイヤーを締めますが、工具を使うことが限定されますからWAFには無理でした。
ただ航空機整備の作業は多種多様ですから、活躍できる場面も多いはずです。
今回は無理やりのように気象隊が出てきましたが、航空自衛隊の気象隊は基地周辺と訓練空域の高度別の気象観測と予報を行っていて、横風や雷雨を予報すれば飛行場が閉鎖され、それで他の基地に向かった戦闘機が燃料切れで墜落した事故では予報を外した予報官が処罰されています。
野僧も兵器管制幹部の頃、気象隊のウェザーレポートを毎朝、各レーダーサイトに流していましたが、高度ごとに現れる雲の種類、風の向きと強さ、さらに雲の成分(氷粒の大きさなど)まで詳細で特殊な内容でした。それでも雷雲が発生すると緊急レポートが入ります。
気象隊には気象予報士の資格を取得する隊員が多いのですが、航空自衛隊で予報官を勤める気象幹部は知識が高度な上、専門的過ぎてかえって合格できず、番組にも登場していたベテランの空曹の方が合格率は高いそうです。医師が救急救命士を受けるようなものかも知れません。
そう言えば全国の気象隊では地元の漁師や農家に伝承されている「あの山に雲がかかったら雨」などの天気予報の説話を収集して実証に励んでいましたが、大学で学んできたインテリな予報官が揃っている気象庁では「伝説の類」と馬鹿にしているそうです。
最後に川崎重工が開発した傑作機であるC-1輸送機についてですが、STOL(短距離での離着陸能力)や低高度での運動性、貨物の搭載、卸下、投下の優れた機能などは当時のC-130輸送機にはない画期的な点が多く、米軍も導入に向けて検討したそうですが、欠点とされたのがペイロード(搭載量)の少なさで、普通の人員なら60名(空挺隊員なら45名)ですから、現在のCH-47ヘリコプターと変わりがありません。
これも大量輸送を可能にすると周辺国に脅威を与えると言う政治的な配慮があったためと言われていますが、こんな話ばかりです。
おまけの豆知識を一つ。番組でよく「ロックオン」と言う単語が出てきますが、これはレーダーで敵機を確実に捉え、ミサイルにもデータを送り、何時でも発射できる状態になったことです。ただし、パイロット用語としては「ジュディ」と言い、これは女性の名前ですが米軍のパイロットが敵機を恋人に例え、「ジュディ、お前を落としてみせる」と叫んだのが発祥と伝えられています。
ちなみに敵機を肉眼で確認したことは「タリホー(狩猟用語)」、射撃することは「ブロー」、命中させたことは「ビンゴ」で、これはゲームと同じです。
用法としては、相棒(エレメント)と飲み屋に行って可愛い女の子を見つけたら「タリホー・ターゲット(目標発見)」。隣に座って声を掛ける時には「ジュディ」。そして軟派に成功したら「ビンゴ」と祝杯を上げるのです。この場合、先にタリホー・コールをした方に優先権があります。
- 2013/06/04(火) 08:46:40|
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今回は航空救難団でしたが、救難員、通称メディックは番組の中で「陸海空自衛隊の中で最も過酷」と言われていた通り、陸の空挺(パラシュート)とレンジャー(山岳戦闘)、海のフィロッグマン(蛙男=潜水)と言うそれぞれが誇る3つの資格の上、衛生員の技能(多くは救急救命士)も有している精鋭中の精鋭です。
航空救難隊の本来の任務は撃墜されて脱出したパイロットを敵地から救出することですから、山中でも海上でも捜索して駆けつける必要があり、負傷したパイロットに応急手当てをして、時には捕獲、殺害にくる敵を制圧しながら救出しなければならないのです(野僧は北朝鮮の拉致被害者の救出作戦も実施できるのではと考えています)。
これには並外れた体力だけでなく特別な適性も必要で、熊本工業高校から2度甲子園に出場した野球部員が救難員を希望して課程に入ったものの、空挺とレンジャーはクリアしながらフロッグマンの水中でマスクを外されるテストでパニックになって卒業できずに断念しました。
メディックの教官をやっていた同期と数年ぶりに再会さたのですが、元々人間離れしていた顔や体格が完全に妖怪・モビルスーツ化していました。
またレスキュー(救難)パイロットも空井2尉のようなファイター(戦闘機)とは別の高度な技量を有しています。
友人のレスキュー・パイロットは、ファイターからの転換者の教育をやっている時、海上で「できるだけ低空で飛んでみろ」と言いました。するとファイター・パイロットは自分の腕をひけらかそうと波の上を掠めるように飛んで見せたのですが、友人は「救難で低空と言うのはな・・・」と言うと「こうだ、こうだ、こうだ」と叫びながら波だけでなく海面に沿ってギリギリを上下しながら飛んだのです。航空機は海面に突っ込めば墜落しますからファイター・パイロットは「ウワーッ、ギャーッ、デェーッ」と悲鳴を上げるばかりだったそうです。続いて山の稜線でも同じことをやったそうですが。
それほどの実力を持つ航空救難隊ですから山岳救助隊、消防、警察、海上保安庁(=海猿)では対応できない場所、気象状態での出動が多く、パイロット、メディックともに2次災害ギリギリの任務になります。
友人のメディックは「救助する人の順番をつけなければならない時が一番辛い」と言っていました。波と船体、風と山肌の状態を見れば全員を救助し切れないことは判っていますから、後の順番をつけることは死を宣告するのと同じ意味を持ちます。全員を助けられればいいが「もう一度」と降下した時、船体が波で横転することや強風で吹き飛ばされ断崖へ転落していくこともある。海上保安庁や警察、消防の救難ヘリではそこまで切羽詰まった状況はないでしょう。
それでも映像を撮影しているのは同行している海上保安庁、警察、消防のヘリなので、ニュースでは「画像提供・海上保安庁(警察、消防)」と言うことになり、国民の皆様には「海猿」の手柄と思われるのです。
さらに野僧が沖縄に勤務していた時、救助されたサーファーの本土からの大学生は航空救難隊と知って、「何で海上保安庁じゃないんだ。誰が自衛隊に助けてくれって頼んだ」と機内で手当てを受けながら散々に文句を言い、その後、挨拶もなかったそうです。それが航空救難隊です。

ところでドラマで紹介されていた京都市八幡の飛行神社のお守り、お札ですが、確かにワザワザもらいに行く方もいますが、奈良基地の幹部候補生学校の知り合いに頼むことが多いようです。
幹部候補生学校の隊員も航空自衛官なので同僚や部隊の無事を真剣に祈りますから大丈夫なのです。ちなみに西部航空方面隊では太宰府天満宮の飛び梅の故事に由来する「飛行安全」のお守りが一般的です。
もう一つ、対領空侵犯処置のスクランブル(緊急発進)ですが、最近は300回前後を推移しているものの、野僧が空曹をやっていた昭和の時代には800回を超えていました。
当時は戦闘機の航続距離が短く、一度の日本領空への接近に対して複数回、戦闘機を上げることも珍しくなかったのです。ついでに言えば、その800回はソ連機に対するのみの緊急発進数です。尤も、あの頃の中国空軍には日本まで飛んでこられる飛行機はありませんでしたから。
最後に「家族がいながら危険に飛び込むのは」「妻の死に立ち会えなかったこと」を問う場面がありましたが、それで迷うようではパイロットが地上の安全の確認もせずに脱出してしまいます。
航空自衛官は雫石上空で高速の最新鋭旅客機に追突された旧式の練習機のパイロットが生き残ったことで受けた受けた「国民を殺してのうのうと生きている」などと言う不条理な批判と運輸省から受けた存在そのものを全否定するような訓練空域、方法への制限を加えられたことを忘れていないのです。
野僧も課程教育の最終段階を果たすため、唯一絶対の理解者だった師僧(祖父)の死に立ち会いませんでした。しかし、常に「一期一会(生涯一度の出会い)」の覚悟を以て接していましたから、師僧は「それでいい」とうなづいていたそうです。
ところで鷺坂1佐の亡くなった奥様の人間性は、野僧が愛していた沖縄の彼女にそっくりでした。
「貴方の仕事が知りたい」と航空雑誌を読んで野僧よりも詳しくなっていたり、「顔を見ていれば好物はわかる」と居酒屋で本土の料理を研究していた彼女。あの女性と結婚できていれば、健康を奪われることも仕事を失うこともなかったでしょう。親は選べませんから仕方ないですけど。
- 2013/05/28(火) 08:08:35|
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