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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

続・振り向けばイエスタディ683

「今日は最終回と言うこともあってとても沢山のメールが届いています。陸上自衛隊の皆さんは駐屯地に帰ってメールが解禁されたんですね」郷土を侵略されてもそれを「解放」と歓迎している反戦平和団体からは「大本営発表」と揶揄されている自衛隊と北海道庁の公式発表のニュースを終えると雪うさぎは番組を始めた。
これまで陸上自衛隊は部隊の展開地と隊員個々の所在位置を秘匿するためスマートホンと携帯電話は着信メールのみを許していた。家族はメールが既読になることで無事を確認していたのだ。その後、駐屯地に戻って交代で休暇を取るとラジオの聴取者が減っていたが部隊生活が再開すると戦場での恐怖を克服する力を与えてくれていた雪うさぎに感謝するメールが急増した。確かに雪うさぎは即応予備自衛官として稚内に派遣されてからは音信不通になっている夫・森田謙作予備2曹を思いながら番組を作っていた。
「最初のメールは・・・やはり部隊名、駐屯地名は言いません。人妻でも良い俺の女房になってくれさんからです。困ったなァ、私、旦那にゾッコンなので絶対に無理です。ごめんなさい。それに私、2人の子持ちですよ。失礼しました」メールが多いので番組の進行も早目にしなければならないのだが前置きが長くなってしまった。雪うさぎはマスター・コントロール・ルーム=主調整室からガラス窓越しに覗いている男性ディレクターの顔を見て舌を出して肩をすくめた。
「雪うさぎさん、長い間、激励の放送を有り難うございました。僕はウクライナやパレスチナの戦争のニュースを見て悪者は殺さなければいけないと思っていましたが、引き金を引いて殺した敵は僕と同じ年頃で同じ赤い血を流して死んでいました。そんなことを悩んでいた時、雪うさぎさんが『北海道を侵略者に渡さないで。私たちの祖先が苦労して開拓した土地は私たちが守らなければいけない』と訴えているのを聞いて戦争の意味を考え直しました。人間同士が敵味方に分かれて殺し合うのが戦争なんですね」雪うさぎは屯田兵として岩手県から旭川に入植した広橋家代々が開拓した現在の牧場をロシア兵に奪われないために夫は出征し、両親や叔父たちも乳牛の生命を守るために残っていることを思いながら訴えたのだがやはり前線にまで届いていた。
「リクエストです。番組のオープニングで流れる『雪の進軍』を1番から最後まで聞かせて下さい」これは意外なリクエストだった。「雪の進軍」をオープニング曲に選んだのは避難所に入所して間もなく北海道庁から郷土防衛の任務に当たっている自衛隊を激励する番組の企画を持ちかけられて東北地区太平洋沖地震の後、仙台市が放送した全国のローカルFMラジオ放送の人気DJを集めた被災者を激励する番組で一緒になった岐阜県の自衛隊OBの昭和一郎=島田信長元准尉に相談して推薦されたのだった。
「この歌は日本陸軍の永井建子(けんし)軍楽長が日清戦争での体験を元に作詞作曲した作品です。映画『八甲田山』で唄われて有名になったそうですけど私は夫が父からもらったDVDで見ました。それではどうぞ」今度は前置きのウンチクは控え目にした。
「雪の進軍氷を踏んで どれが河やら道さえ知れず 馬は倒れる捨ててもおけず・・・そろりそろりと首絞めかかる どうせ生きては帰らぬつもり」「この4番の終わりの歌詞は『どうせ生かして還さぬつもり』と歌う別バージョンもあるようです」雪うさぎとしても最終回でオープニング曲を流すことができて安堵した。昭和一郎はローカルFMラジオ番組を統括している市役所が市民からの抗議に過剰反応するため8月に軍歌特集を企画しても許可されないそうだが、流石に北海道知事肝入りのこの番組は別らしい。
「それでは最後の曲になります。これはリスナーさんからのリクエストではなく私の選曲でロシア語の歌をお送りします。実は愛媛に住む夫の両親がたまたま見た対岸の山口県の国営放送で在日ロシア人の女性が飛来したナベ鶴を見ながら異国で死んだロシア軍兵士の追悼のために唄ったのを聞いて感動したそうです。そこで特集番組を録画して送ってくれました。ダゲスタンの民謡でジュラヴリー=鶴と言う曲です」本当は「ナベ鶴とタンチョウ鶴の違い」「ダークダックスが唄っていた」などのウンチクのネタがあったのだが曲の最後まで流せるか不安な時間になっていたので控えた。
「ムニョ カジ ツァ パロン・・・」エレナの歌は国境の島である北海道にまで届いた。
お・音無響子イメージ画像
  1. 2023/11/30(木) 14:57:34|
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続・振り向けばイエスタディ682

北海道ではロシア軍が攻撃を加えた稚内から網走までのオホーツク海沿岸と北方領土の対岸の根釧台地を除く地域の住民の避難=疎開が解除された。一方、これらの地域には北部方面隊が師団・旅団隷下の各戦闘施設大隊と第3施設団隷下の第12、13、14施設群を投入して地雷の撤去と破壊された公共施設の復旧に当たらせている。
北海道知事としては新潟の復興作業で収容された遺骸から上陸したロシア軍の大半は北朝鮮軍の兵士であることが判明していてウクライナ侵攻で消耗した戦力が回復できておらずミサイル技術の供与と引き換えに動員したとの推察から「再度の侵攻の危険性は低い」と見て自衛隊の仕事が終わり次第、全道民の避難を解除するつもりだった。
「根釧地区の対人地雷の撤去はまだ完了していません。兎に角、ロシア軍がヘリコプターで大量にバラ撒きましたから。新型兵器なので処置する隊員も未経験なんです・・・・」札幌駐屯地の北部方面隊総監部には帰宅できない住民からの問い合わせの電話とメールが殺到し、中には駐屯地に押しかけて警衛隊の歩哨相手に押し問答する道民も続出している。このため不眠不休の戦闘の指揮を終えて交代で休暇を取るはずだった総監部の隊員たちは想定外の電話とメールの対応で総動員されていた。
「来年の耕作の準備をしなければならない農家の皆さんの事情も良く判ります。しかし、現時点でも畑から対人地雷が見つかっていますので自衛隊としてはまだ『安全だ』とは言えないんです」陸上自衛隊の施設部隊は日本のPKO活動が他国のような停戦監視や治安維持ではなく公共施設の復興工事を主任務にしているため戦場だった地域に派遣されて本物の地雷の撤去にも熟練してきたがウクライナでロシア軍が使用しているPOM3は人間が歩く振動を小型のセンサーが感知して作動するため作業に当たる隊員は徒歩による移動にさえ細心の注意を払わなければならない。
北部方面隊の施設部隊は最初のカンボジアPKOにも第2次派遣隊として参加したがポルポト派と政府軍の双方が相手の動きを遮断するために大量の対人地雷を埋設していた。それでも自衛隊の活動地域は主戦場から離れていたので作業現場での探索と処置も武勇伝として語る実戦経験程度で済んだ。あれがPOM3であれば国際連合カンボジア暫定統治機構=UNTACにも犠牲者が出たはずだ。
「こんばんわ、こんばんは、こんばんわ。もう1つおまけにこんばんわ。雪うさぎです。札幌からお送りしてきた私の北海道を守る自衛隊さんを応援するFMラジオ番組も今日で最後になりました。自衛隊の皆さんだけでなくこちらに避難して来られていた道民の皆さんも長い間聴いていただいて本当に有り難うございました」道知事の要請で雪うさぎ=森田照子が担当することになったFMラジオの自衛隊向けの番組も最終回を迎えた。
多くの旭川市民は自宅に戻り、子供たちの学校も再開されたので両親と叔父たちが守ってきた牧場に帰るのだ。旭川では放送局が無事だったこともあり、ローカルFMラジオ番組の再開の準備は整っている。ただし、屯田兵=即応予備自衛官として戦闘に参加した夫・安川和也予備2曹は旭川市郊外の小中学校に設置された捕虜収容所で勤務していたらしいが、学校が再開されるため閉校になった山間部の学校に移動したらしい。ただし、戦闘態勢にある自衛隊からは一切説明がない。
「番組を始める前に道(自治体としての北海道)からまだ帰宅できていない避難者の皆さんに連絡があります。ご存知のようにロシア軍は占領していた網走市周辺や上陸した根釧地区に大量の対人地雷を敷設していて現在、自衛隊が撤去作業に当たっています。早く畑の耕作準備を始めたいと言うお気持ちは十分に理解できますが万が一、対人地雷が爆発すれば極めて危険です。ご協力をお願い申し上げます」照子の番組では取材に入った記者が自衛隊の陣地の位置を暴露し、情報を漏洩したため立ち入りを禁じてからは推測と捏造で「自衛隊が劣勢だ」「敗北は近い」と報道していた東京の大手マスコミとは別に北部方面隊と北海道庁の公式発表を放送してきたため絶大な信頼を獲得している。捕虜の証言ではロシア軍も日本語ができる兵士が通訳して戦友たちに放送内容を解説していたそうだ。樺太や北方領土で勤務していたロシア兵は日本のテレビやラジオを視聴できるので国営放送のロシア語講座で逆に日本語を学んでいるらしい。
  1. 2023/11/29(水) 19:22:34|
  2. 夜の連続小説9
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続・振り向けばイエスタディ681

それからの高仁智少佐は悩み苦しんでいた。あの夜、シャワーを浴びていて足元に投げ込まれた小さな缶が噴出するガスを吸って意識を失い、翌朝にベッドで目が覚めるまで記憶が跳んでいた。しかし、普段は下着を付けてパジャマに着替えて寝ているが、あの朝は全裸にバスローブだった。性器に異物を挿入された感覚がある以上、性的暴行を受けたことは間違いない。つまりカソリックの戒律通りに「結婚するまで」と50年以上守ってきた純潔を奪われたのだが相手が誰なのか判らない。最近は生理が来なくなっているので妊娠する可能性は低いが、カミと教皇の戒めを破った事実は自分が負わなければならない背徳の罪だ。ただし、記憶がない以上、背信ではない。
かつて学士士官学校の同期の李知愛が結婚する前に男性と肉体関係を持ったと言う噂を聞いたことがあった。李知愛も敬虔なカソリックの信者で信仰の真剣味で言えば数段上を行っていた。しかも女性も認める美貌の持ち主で男子の同期はおろか独身の教官たちも色目を使っていたが言い寄ることを躊躇うような毅然とした雰囲気を発していた。その聖女が戒律を破って肉欲に溺れたことを知って高仁智中尉(当時)は心から軽蔑したが、軍事裁判の検察官補佐として再会した李知愛は幸福そうで女性としての自信に満ち溢れていた。それに比べて今の高仁智少佐は喪失感だけを噛み締めている。
「何・・・この感覚は何なの・・・嫌、汚らわしい」目覚めにシャワーを浴びていた高仁智少佐は経験がない身体の変調に硬直してしまった。いつもの手順で手で顔を洗い、首筋から乳房に下げて行った時、下腹部に火が点いたような衝動が起こった。それは子宮が心臓のように鼓動を始めたような感覚で女性器が焼けたように感じた高仁智少佐は無意識にシャワーの湯を下から吹きかけた。すると意識が遠のき、シャワールームのオレンジ色の照明が光沢を帯びた輝きを放って床を叩く水音に怪しいエコーがかかった。
気がつくと高仁智少佐は床に崩れ落ちて座り、性器にシャワーのノズルを押し当てて自慰行為に耽っていた。勿論、高潔な信仰生活を送る高仁智少佐はそのような快楽を求める下劣な行為を忌み嫌って試みたことはない。
高仁智少佐は立ち上がってシャワーを止めると曇った洗面所の鏡を手で拭って自分の上半身を注視した。すると乳房の形が変わっているような、乳首の色が濃くなっているような感じがした。顔を上げると目つきは何時になく敵意に満ちて肉体だけでなく魂までも悪魔に奪われたような恐怖心に駆られた。
「さて彼らがほかの弟子たちのところに戻ると大勢の群衆がその弟子たちを取り囲んで、律法学者が彼らと論じ合っているのが見えた・・・するとイエスは言われた。『この種(=悪魔)は祈りに依らなければ何によっても追い出すことはできません』・・・アーメン」高仁智少佐はその場に跪くと両手を固く組んで新約聖書のイエスによる悪魔払いの場面を描いたマルコの福音書9の14から29を唱え始めた。
この章では悪魔に憑依されて泡を吹き、痙攣を起こす息子を「助けてくれ」と懇願する父親に応えてイエスが「口を聞けなくし、耳を聞こえなくする霊、私はお前に命ずる。この子から出ていけ。2度とこの子に入るな」と叱責して悪魔を祓っている。しかし、プロテスタントの医官=隊長は「単なる癲癇だろう。カウンセリングで治る病気じゃないよ」と冷笑している。そのため診察を受ける気にはならなかった。
「うッ・・・」その日も高仁智少佐はバス停の目の前のスーパーマーケットに寄った。生活用品の棚で室内香料に手を伸ばした時、背後から耳に息を吹きかけられた。すると最近はシャワーを浴びる度に起こる肉体の変調が始まってしまった。その変調を始めて経験した時には無意識に自慰行為に耽っていた自分を嫌悪していたが今では癖になって身体に潜んでいるスイッチを探しながら女性器に茄子などの野菜や細長い容器を差し込むようになっている。今日も試したことがない胡瓜を籠に入れた。
そこに今、耳もスイッチだったことを思い知らされた。高仁智少佐の下半身では炎が燃え上がり、足が小刻みに震え始めた。おそらく女性器からはヌルヌルとした体液が溢れ始めている。振り返ると夜なのにサングラスを掛けた初老の男が薄笑いを浮かべた口にマスクを上げたところだった。レジを終えるまでは衝動と闘わなければならない。
  1. 2023/11/28(火) 15:52:08|
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続・振り向けばイエスタディ679

「さて仕事だ・・・」シャワールームは中央に洗面台を挟んでいるので日本式に言えば3畳ほどの広さがある。そこにバスマットを敷いて高仁智少佐を横たえると全身を脱衣場に置いてあったバスタオルで丁寧に拭いた。その間も意識はなく乳房や股間をタオルで擦っても全く反応せず柔らかい等身大の人形を手入れしているような気分だった。
岡村は薬剤を渡された時、杉本から「念入りな愛撫でどんな行為に反応するかを確認してくれと言われている」とイギリス側からの依頼を伝えられた。開発者のシェリーにとって性行為はあくまでも人体実験であって材料になる同性に対してはモルモット以上の認識は持っていない。人体実験に使われたことを知って激高した小弥太に犯された時もシャリーは冷静に観察していて部屋に戻ると服を着る前に記録をメモしていたと現場に立ち会った杉本は言っていた。その後、日本の百里まで出向いて小弥太と同棲生活を始めたのも単に副作用の確認だったようだ。
「口づけはしたくないな」仕事を始めるに当たって岡倉は知愛との夫婦の営みとは一線を画すことにした。不思議なことに古今東西を問わず娼婦や女郎には「商売で肉体を売る相手とは口づけをしない」と言う不文律があり、口腔性交で男性器を咥えることはあっても口づけは絶対に許さず無理に奪おうとすれば激しく暴れて抵抗するそうだ。
心理学者の意識調査でも女性にとっては性器が結合される性行為よりも口づけの方が愛情を実感できて快楽を覚えると言う回答が多数派だったと発表されている。実際、性犯罪でも泣き叫んで激しく暴れて抵抗する女性が唇を奪われた途端に脱力して諦めたように身を任せることがあると言う。性器による結合を求めるのは男性の勝手な本能らしい。
岡倉は前戯として高仁智少佐の腹の両脇に膝を下ろして上から乳房を揉み始めた。これはあくまでも円滑に挿入するための手順に過ぎない。続いて肌色の乳首を舌で転がし、強く吸っても、前歯で軽く嚙んでも反応はない。ニューヨークで同居してからの知愛が歓びの表情を見せるようになった愛撫・前戯を次々に試してみたが変わりはなかった。
「下手すると不感症なのかも知れないな」一向に女性器に愛液が分泌されないことに焦った岡倉はシェリーに「女なら自分の身体で確かめろよ」と言いたくなった。
「まだ起っている間に終わっておかないとな」万策尽きた岡倉は男性更年期の治療剤の薬効が残っている間に仕事を終えることにした。コンドームが体温で乾いてしまっているので床の水で軽く湿らせた。本来であればこの段階で薬剤を塗布するべきだったが初めて使う岡倉は手順を間違えてしまった。
「まあ韓国陸軍なんて野獣の群れの中で30年も勤務しているんだ。いくらカソリックの聖女を気取っても発情期になった連中が放っておくはずがない」仰向けに寝かせている高仁智少佐の両膝を腰で押し開いた岡倉は罪の意識よりも知愛に対する謝罪のつもりで言い訳を口にした。その野獣の群れの中で知愛は純潔を守っていたが、それも軍人であるが故に日本の海外情報要員である岡倉に同じ手段で奪われた。
数年前、イギリスのBBCが陸上自衛隊のWACが「性的嫌がらせを受けた」と上官3人を告発したことを大きく報じたが、少し躾が良い野獣の群れである陸上自衛隊に志願して入隊した以上、受けるべくして受けた経験に過ぎない。ただし、あのWACの場合、「反自衛隊の政治団体とマスコミに利用されている」と言うのがニューヨークの職場でBBCの放送を見たWACの先輩・本間郁子と松山裕実1曹の見解だった。
「ウッ」岡倉が剣道の諸手(もろて=両手)突きのように身体に押し入ると高仁智少佐は意識を取り戻さないまま大きく仰け反って苦痛に顔を歪めた。腰を前後させ始めても拷問を受けているように苦悶の表情を激しくするばかりだ。
「まさか・・・」岡倉は知愛の純潔を奪った時を思い出して動きを止めた。指で結合している性器を確かめると間違いなく出血している。つまり高仁智少佐が50歳を過ぎるまで守ってきた純潔を奪ってしまったのだ。高仁智少佐が前戯に反応しなかったのは肉体が性的に開発されていなかったからに他ならない。然も女性器はイギリスの諜報機関の研究所が開発した性的興奮剤を吸収している。間もなく高仁智少佐の吐息が荒くなり、苦痛の表情を浮かべながらも無意識に腰を動かし始めた。
美杉麗子イメージ画像(「ワル」より)
  1. 2023/11/26(日) 14:50:38|
  2. 夜の連続小説9
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続・振り向けばイエスタディ678

「今時、シリンダー錠なんだな。久しぶりだ」高仁智少佐のマンションに立ち入った岡倉は玄関とエレベーターの前に設置されている監視カメラの前では大き目のマスクをはめて眼鏡も昔使っていた太い黒縁に替えた。ところが玄関の鍵はカード式が普及したニューヨークでは見なくなったシリンダー式だった。これでは開錠作業をするのに近眼用の眼鏡では手元が見えず遠近両用に戻さざるを得ない。開錠の作業は陸上自衛隊の△□学校だけでなくイギリスの諜報機関でも教育を受けたがこの錠前なら数分の仕事だ。
シャー・・・。間もなく渡り通路側の曇りガラスに淡いオレンジ色の電灯が点き、シャワーを使い始めた音が聞こえ出した。開錠した後、非常口の外に潜んでいた岡倉は気配を察するとドアを開けて足音もなく中に入った。
韓国ではシャワールームの中にトイレがあるので外は洗濯機が置いてある脱衣場になっていた。脱衣場の床にはスリッパと帰宅して着替えたらしいスウェットの上下に靴下、下着が脱ぎ捨ててある。知愛がシャワーを浴びる時には下着まで畳んで脱衣籠に入れるので同様の経歴を有する高仁智少佐の粗雑さに少し呆れてしまった。
「ルルルル・・・」気持ちが解れてきたのか高仁智少佐の鼻歌が聞こえてきた。最近の韓国の流行歌らしく聞いたことがない曲だ。知愛は寝言でも讃美歌を口ずさむことがあるがアフガニスタンであれ程まで頑ななキリスト教=カソリック絶対主義を主張していた割には精神面の信仰心が身についていないらしい。
ジャブ、ジャブ・・・・岡倉はシャワーの音で髪を洗い始めたのを確認すると小さくドアを開けて催眠ガスのボトルを中に転がして素早く閉めた。すると中で高仁智少佐の「えッ、ムオッ(何?)・・・」と呟き声が聞こえ、数秒で床に崩れ落ちるような音がした。シャワーの湯は身体に降り注いでいるようで床を叩く音はしていない。
「換気扇が何分でガスを排出するかだな」岡倉は脱衣場で裸になりながら腕時計で時間を計り始めた。この時の岡倉の脱ぎ方は手前から着る順番に下着と靴下を置き、ズボンは履く側を上に向けて立て、ワイシャツは前を広げて敷き、ネクタイはスーツのポケットに畳んで仕舞い、出口に靴を置いている。つまり緊急に脱出する時の準備だ。
シャワールームに入ると当然なことながら高仁智少佐が全裸で倒れていた。岡倉は先ずシャワーを止めると改めて知愛の肉体と見比べてしまった。子供を1人出産している知愛と独身で軍人を続けている高由那少佐では乳房や下半身の張りが多少は違うようだ。ただ乳首の色が周囲の肌に近く始めて知愛を抱いて純潔を奪った時を思い出させた。
「さて仕事だ」岡倉はこれも杉本から入手した男性更年期の治療剤を非常口の外で飲んできた薬効で強制的に臨戦態勢にした男性自身にコンドームをはめてイギリスの諜報機関の薬物研究所が開発した女性用性的興奮剤を塗った。女性を性的に興奮させる媚薬は古今東西の上流階級が化学者・薬師(くすし)に研究させていたが、それを実用の薬物として完成させたのはナチス・ドイツだった。ナチス・ドイツは戦争中にも関わらず社交を続ける旧プロシアやオーストリア貴族の女性たちにこれを飲ませ、送り込んだ貴族出身の美男子の軍人たちとの肉体関係に溺れさせることで奴隷化した。岡倉が知愛を抱いた時に杉本が手渡したのはこのナチス・ドイツの性的興奮剤だった。しかし、岡倉は最終的に理性を失わせる薬剤は使わず人間としての愛で知愛の純潔を奪った。
一方、今回はイギリスの研究所のシェリーが開発した新薬剤で麻黄から抽出したエフェドリンの水酸基を除去したペンゼドリンが主成分だ。これが女性器から吸収されると強度の性的興奮状態に陥るらしい。かつてシェリーはイギリスで研修中だった自衛隊の必殺仕事人部隊の塩谷2曹=小弥太を男性用興奮剤の人体実験に使って懲罰として犯されたが今回も利用するつもりらしい。勿論、イギリスでも実験しているはずだが。
スパイ映画の「007」では主人公と女性諜報員の恋愛劇で暗示しているが、実際の諜報活動では性的関係は常套手段だ。それは軍事スパイに限らず日本を含む外交官も性的テクニックを磨き、時には夫に影響力を持つ要人の妻を寝盗って肉欲に溺れさせることも外交手段になっている。だから杉本、岡倉、松本も海外では仕事として街角の売春婦を買ってその国の裏事情を調査してきた。それを浮気や女遊びとは言われたくない。
  1. 2023/11/25(土) 13:26:10|
  2. 夜の連続小説9
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