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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ57

基地じゃあ、いつも通りにね。みんなに知られちゃうとモリヤくんも困るでしょう」授業を終えて2人でシャワーを浴びた後、私を基地の手前まで送ってくれた車の中で森山2曹はそう指示した。あくまでも教官としての態度に徹している。
「それから私とは今回限り、個人授業は終了よ」そう言うと森山2曹は赤信号で止めた車の中で私の顔を見詰めた。私は思いがけないこの出来事をどう受け止めればいいのか判らなかった。
「本当に有り難うございました」私はあらたまってお礼を言っていた。それは大切なこと教えてくれた個人授業に対する礼儀のつもりだった。森山2曹は信号が変わらないことを確かめると、また私の顔を見詰めた。
「モリヤくんらしいな、一度、抱くと自分のモノって顔をする男が多いけど・・・」折角の森山2曹の誉め言葉だが私はそのような人間的な感情に欠けていることを指摘されたような気がした。大学時代の彼女に見合いの話がきて「断る理由が欲しい」と言われたのに対して、私は「学生では責任が持てない」と答えてしまったことがある。彼女は傷ついて故郷へ帰り、私はそれでようやく彼女の大切さに気づき曹候学生の合格通知を持って福井の実家に彼女を訪ねたがもう間に合わなかった。それが「女性を愛すること」「大切な人を守ること」の意味を知った出来事だった。
「もっと会ってくれませんか?」無意識のうちに私はそう言っていた。私の突然の申し出に森山2曹は驚いた顔をしたが信号が青になったのを見て前を見て車を発進させた。
「そんなに気持ちよかった?若い女の子なら私よりも綺麗でもっといいよ」森山3曹の返事に私は自分が彼女に言った言葉と同じ響きを感じた。
「卒業試験はないんですか?」「短期講習だけでは駄目なの?あとは実習あるのみ」私が何時になく食い下がると森山2曹はそれが本意でないことを見通しているように横顔で笑った。
「そうそう補習だけど、相手がバージンだったら自分の快感は捨てて優しくゆっくりね。だけど最後は痛がってもキチンと決めないと駄目よ」「はい」私は返事をしながら「そんな相手と出会うのだろうか」と考えていた。
基地が近づいて私は手を鼻に近づけ、シャワーを浴びて洗い流してしまった森山2曹の体臭を確かめてみたが石鹸の匂いしかしなかった。

大会当日、広い某基地の体育館は選手と応援の隊員で混み合っていた。
「続いて那覇基地支部、大村初段、モリヤ初段」と呼び出されて立ち上がり、私は開始線まで進み、少林寺拳法の作法としてお互いに合掌し、呼吸を合わせながら構えた。この時、多くの声援の中に聞き覚えがある声が耳に届いた。
「モリヤく―ん、頑張ってーッ!」私は組演武の最初の回し蹴りを腹に入れてしまい相手は悶絶し、イキナリこけてしまった。
  1. 2015/04/12(日) 09:09:47|
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