fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ60

「判るさァ。俺たちもそうだったもん」三島3曹は言葉を続けながら、隣りの席で眠っている赤ちゃんを抱いた奥さんの顔を見た。
「考えてみろよ。沖縄と北海道だぞ。お前の愛知の倍も離れているんだ。賛成してくれる訳ないじゃないかァ」江島3曹は奥さんに笑いかけた。
「まァ、気長にやることだよ。お前も来年はアドバンス、それがすんで独り立ちにはもう1年」そこで美恵子が「アドバンス?」と小声で訊いたので私も小声で「上級整備員課程」と答えた。
「まァ、2年もすれば彼女も床屋で1人前、2人とも1人前で親も根負けでメデタシ、メデタシと言う訳だ」三島3曹はそう言いながら「飲め」とビールを注いでくれた。今度は奥さんが話を続けた。
「本土の人は沖縄の人よりも少し複雑だけど、結局は一緒さァ」美恵子がうなずいた。
「私も随分泣いたけど、今ではこの子の顔を見に北海道からワザワザ来てくれるのさァ」そう言うと奥さんは赤ちゃんと三島3曹の顔を順番に見て、三島3曹は赤ちゃんの顔を見ていた。奥さんの声に赤ちゃんが目を覚ました。赤ちゃんは泣くこともなく御機嫌で奥さんが美恵子の顔を見ながら訊いた。
「おきたから抱いてみる?」「わーッ、いいんですかァ」美恵子は嬉しそうに席を立って奥さんの腕から赤ちゃんを受け取った。その時、美恵子の目が潤んでいることを私は気に留めなかった。

「お父さん、お母さん、反対してるの?」三島3曹の家からアパートへ帰るタクシーの中で美恵子が前を見たまま訊いてきた。
「うん、美恵子のことじゃないよ。前から沖縄の娘とは結婚させないって言ってるんだ。そんなことを言うと美恵子は心配するだろう」私の言い訳に美恵子は黙ってうなずいた。

アパートへ帰ると、その夜は初めて美恵子の方から求めて来た。私は少し酔っていたので迷ったが、結局、美恵子を抱いた。
「今日は大丈夫だからいっていいよ」美恵子の言葉に私は中で果てた。
た・岡田奈々イメージ画像
  1. 2015/04/15(水) 09:11:58|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<羽柴秀吉=三上誠三さんの死去に思う。 | ホーム | 4月15日・6号潜水艇の事故で佐久間勉艇長以下14名が殉職した。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/2311-e7ce13db
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)