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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ155

春、松真が航空自衛隊の新隊員として防府南基地に入隊した。
「ニィニ、よろしくお願いします」松真は入隊前日、私たちの家に泊った。
「やっぱりニィニは頭いいさァ。俺、曹候学生は1次試験も受からなかったさァ」松真はそう言うと妙な尊敬の眼差しで私の顔を見る。
「ニンジンさんはアンタとは違うのさァ。いつも勉強してるもん」そう言いながら美恵子がお盆にのせた飲み物を持ってきた。
「今年も受ければいいよ、現職からだと2次試験は受かり易いのさ」「学科はもっと頑張らないとね」折角の私の励ましに美恵子は水を差す。しかし、美恵子に言われると何故か元気がもらえるような気になるから不思議だ。弟もそうなのか、黙ってうなずいた。
「ニィニ」「うん?」「ニィニはどうして自衛隊に入ったんねェ?大学にいってたんでしょ」松真の真顔での質問に私は美恵子が隣りにいることを忘れて答えてしまった。
「大学の時、彼女がいたのさァ。その子に見合いの話が来てな、でも学生じゃあ何も言えないだろう。だから手っ取り早く就職するために自衛隊を受けたのさァ」「ふーん」松真は意外そうな顔でうなずいた。
「で、その人どうしたの?」「合格通知を持って『結婚してくれ』って言いにいったけど駄目だった」その時、私は横でメラメラと燃え上がる赤いオーラを感じた。
「ニンジンさん、初めて聞いたさァ」私は「しまったァ!」と思いながら恐る恐る見ると美恵子は涙ぐんで怒っている、
「ごめん、昔の話さァ」私はドッと汗をかきながら謝った。しかし、美恵子はしばらく横を向いて鼻をすすっていた。
「淳ちゃん」松真は困った顔で脇の布団で寝ている淳之介をあやし始めた。
「ぶーッ」淳之介は嬉しそうに叔父さんの松真の顔を見ている。玉城家の大らかさもあり、入隊前日でも松真にはあまり緊張感がないようだ。
「本土の人はシマンチュウみたいに大らかじゃあないから始めはみんなに合わせてな」私の苦し紛れのアドバイスに、松真は「仕方ないなァ」と言う顔でうなずき、私とまだ鼻をすすっている美恵子の顔を見比べた。
それにしても独身時代の私は彼女が途切れたことがなかった(極めて真面目なつき合いだったが)。これも「女たらし」と言うのだとすれば淳之介の将来が心配になる。
外7・青木江田・82・3・5勝手に使ってスミマセン
  1. 2015/07/19(日) 08:54:17|
  2. 夜の連続小説8
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