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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ191

検定が終われば後は楽しい時間だ。ただし、部隊の名誉を担って入校している陸の同期たちは「上級指導官」になれるかも大問題で互いに評価し合っては一喜一憂している。
教官たちもそれは分かっていて気分転換になるように軽作業を与えていたが、そこでまたまた陸上自衛隊気質を目の当たりにした。
グランドの周囲に植えてある桜並木の落ち葉の掃除をした後、教官が「穴を掘って埋めろ」と指示して帰ってしまった(この時も陸の隊員たちは「帰って成績を決めるんだぞ」と心配を始めていた)。
こうなると施設部隊から入校している同期が工兵魂を発揮するのだが、その穴のサイズが問題だった。私から見れば集めてある落ち葉の量から判断すれば良いと思うのだが、陸上自衛官たちは「教官が指示されなかった以上、作業中止を命じられるまで止めることはできない」と掘り続け、縦横深さ2メートルの大穴を作ってしまったのだ。
そこに教官が「悪い悪い」と言いながら戻ってきたが、私ともう1名が底を掘り、他の隊員が紐をつけたバケツで土を出している穴を覗き込み唖然としていた。

校長閣下を始め自衛隊体育学校の首脳陣を招いてオリンピック要員専用の食堂で昼食会が行われたが、会食準備も陸上自衛隊式だった。
机の配置、椅子の位置を一直線にするのは航空自衛隊でも同じだが、それをテーブルの端に顔をつけて見通して確認するのは射撃のようだ。
さらに盆にご飯とオカズ、汁と副食、湯呑を並べるやり方も全く違う。航空自衛隊ならモデルを1つ作り、「このように並べろ」と指示すれば隊員が自分で考えて始まるが、陸上自衛隊では全員が陸曹であっても、指揮官が「飯はこの位置」「オカズはこの位置」「湯呑は・・・」と指示し、隊員はそれだけを載せたお盆を持ってテーブルの上のお盆に並べていくのだ。それも盆を持つ係と器を並べる係の2人掛かりだった。
私は呆れ半分、感心半分で眺めていて、「ボーとしていないで働け」と怒られてしまった。

作業が終われば仕事が終わる。そんな普通の生活が戻ってきた。レンジャーや空挺の経験者も入校していたが、朝から晩まで格闘漬け(寝言で「ヤーッ」と気合を入れる者もいた)の3ヶ月間は訓練を耐えればすむ別の課程とは違う厳しさがあると言っていた。
「おい、朝霞の名物コースを走りに行こうぜ」同期の中でも若い3曹が提案した。どうやら助教から「円谷コース」について情報を仕入れてきたらしい。「円谷コース」と言うのは悲劇のヒーロー・円谷幸吉3尉が存命の頃、朝霞駐屯地内に丁度10キロのコースを作り、毎日何周も回っていたものだ。
陸上競技班の長距離走の選手たちの間では「1人で走っていて円谷選手の足音が聞こえれば次のレースは勝てる」と言う伝説があるらしい。しかし、最近の体育学校勢の成績では足音は聞こえないだろう。勿論、私たちにも聞こえなかった。
  1. 2015/08/24(月) 09:10:40|
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