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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ195

無事、自衛隊体育学校曹格闘課程を卒業して懐かしくはない防府に帰った。そして迎えた正月休暇に私は防府で冬物の衣類を買い込み、沖縄へ家族を迎えに行った。
実家の座敷で義父母と百里から帰省した松真の4人で泡盛を飲んだ(美恵子はウーロン茶)。淳之介は祖父母に遊んでもらい疲れたのか義母の横に並べた座布団でよく眠っている。
「ニィニ、入れ替わりなんて残念さ」松真は今度こそと曹候学生に合格したのだ。
「自衛隊さんは本当に頑張るねェ」「学校に入って勉強して、鍛えられてばかりだもんねェ」義父母は感心した顔で私と松真の顔を見比べる。
「ニィニの教育は面白そうだって楽しみにしてたのになァ」「お前、ついでに面倒も見てもらおうって思ってたんだろう」義父がからかうと松真は「図星」と言う顔をして、それを見て全員で笑った。
「だけど何で陸上なの?」松真は不思議そうな顔で私を見る。一応、一般幹部候補生に合格はしているが航空教育隊では部内にも合格させようと躍起になっており、年明けには2次試験の合宿が始まるらしい。それでも義弟には自分の正直な気持ちを説明した。
「航空教育隊の訓練は陸上の請け売りさァ、どうせやるなら本物を極めてみたいのさァ」「教育隊の班長だったらプロじゃない」「航空じゃあ使う場がないのさァ」私の説明に松真は日頃の勤務と重ね合わせて納得した顔でうなずいた。
「でも陸上は馬鹿ばっかりなんでしょ?」「うーん、だから幹部は安心なんだろ・・・」そう答えながら昨年入校した自衛隊体育学校格闘課程の陸上自衛隊の同期たちの顔を思い出した。確かに体力馬鹿も多かったが世帯が大きい分、色々なタイプがいたような気もする。逆に陸の隊員たちからは「航空は頭が良いんでしょう」と嫌味を言われていたのだ。そんな陸上自衛隊の話は脇に置き、私は後輩になる義弟に精神教育を始めた。
「ノーブレス・オブリュージェ」「何それ?」「選ばれた者の義務。曹候学生は選ばれた者だから新隊員の手本にならないとな」「ハイ、先輩」「そんな難しいことアンタにできるの」「曹候って新隊員より厳しいよォ」私の言葉に真面目にうなずいた松真を今度は義母と美恵子がからかい、また全員で笑った。
「オトォ、オカァ、本土へ来て松真とニンジンさんの入校式の梯子をすればいいさァ」美恵子の提案に義父母は顔を見合わせて目で相談した。
「防府と久留米は同じ福岡空港ですし、久留米へは家族連れですから泊まる所は心配いりませんよ」私の補足説明に義父母もその気になってきたようだった。
「松真、オトォとオカァの交通費はウチラで割り勘だな」「エーッ、俺、金ないさ」私の提案に真剣に反対する松真にまたまた全員で声を上げて笑い、その声に義母の隣で淳之介が眠ったままビクッと伸びをした。

帰りの飛行機に乗るため空港に送ってくれた義父母はお礼を言う私に何故か「申し訳ありません」と詫びを繰り返していた。機内で美恵子に理由を訊いてみたが「知らないさァ」と正調化したシマグチで答えただけだった。
  1. 2015/08/28(金) 09:43:12|
  2. 夜の連続小説8
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