fc2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ248

一般課程の解散式=卒業パーティーが久留米市内のホテルであった。今回は「弱い兵隊の乗り物」=ホテルのバスで駐屯地から運ばれるので安心して呑めそうだ。
私は先日の職種発表で普通科に指定されている。区隊長からは元航空機整備員としての経験を活かすため航空科を勧められたが、それでは航空機整備幹部と同様に現場の粗探しのような仕事になると思い歩兵第22旅団長だった曽祖父に倣い普通科にしたのだ。
本当は区隊長と同じ特科で海軍陸戦隊が陸軍以上の強さを発揮した秘訣である敵の動きに合わせて着弾地点を決める迎撃的砲射撃を研究したかったのだが、区隊長は賛成しなかった。やはり陸上自衛隊の特科も日本陸軍の砲兵と同じように前方の敵に一斉射撃する制圧射撃に固定されているのかも知れない。
パーティー会場には卒業式に出席する陸上幕僚長以下の来賓もおられ、気軽に我々学生との談笑の応じてくれる。区隊長は私を「航空自衛隊からの献上品です」と来賓に紹介してくれた。この辺りは陸曹・空曹の格闘課程とは少し違うようだ。
ただ東北大学出身で通信幹部のこの幕僚長は3月に交代される予定で、後任はいよいよ防衛大学校1期生の北部方面総監が就任するらしい。

そんな楽しくも騒がしい会場から離れ廊下のソファーで休憩しているとトイレから帰って来たらしい伊藤佳織候補生が隣に座った。
「みんな飲ませ上手で酔っちゃいました」伊藤候補生はそう言うと赤くなった顔で笑う。確かに会場では同期だけでなく来賓や教官たちからも酒を注がれ大分飲まされていた。
「モリヤ候補生、長いこと有り難うございました。次は富士学校ですよね」私の職種・普通科は富士学校の幹部初級課程(BOC)に入校することが決まっている。
「うん、伊藤君は通信だったよね」「はい、NTTに就職します」そう言うと伊藤候補生は自分のジョークに自分で受けて笑った。
その時、廊下にも流れている軽音楽がムードのいいブルースに変わった。
「モリヤ候補生、踊りませんか?」伊藤候補生は酔った目で私の顔を見つめると突然なリ
クエストをしてきた。これは盆踊り大会の時の約束でもある。
「いいけど酔ってるだろう、大丈夫か?」「ダンスでも私を酔わせて下さい」伊藤候補生の台詞にはいつも洒落たセンスがあり、私はそれが好きだった。
私は立ち上がると伊藤候補生の前に立ち、手をとって立ち上がらせた。
「お嬢さん、私と1曲お願いできませんか」「はい、よろこんで」ここで音楽はスローなブルースから軽快なタンゴに変わった。私と伊藤候補生は廊下でステップを切りながらタンゴを踊ったが酔っているだけに息が上がってくる。これではダンスで酔わすのではなく酒が回るだけだ。時々、伊藤候補生は足元がふらついて、すがりついてくるので私は腰にまわした腕で腰を支えた。そんな様子をトイレに行く出席者たちが感心しながら眺めて通り過ぎて行った。
  1. 2015/10/20(火) 09:41:27|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<10月21日・悪徳官僚・海原治が死んだ日 | ホーム | 逝去・追悼の記事が重なりました。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/2712-a6881ae3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)