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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ250

富士学校では就職できない美恵子の機嫌を取るよう私は家庭サービスに励むようになった。その手始めに富士サファリパークへ出掛けた。
駿東郡小山町の官舎から富士サファリパークまでのコースは富士山を下って御殿場市に入り、さらに裾野市に向かうため富士山を半周する感じだ。
防府からも秋吉台のサファリパークへ行ったことはあったが、日本一のサファリパークだけに期待は膨らみ、淳之介は昨晩から興奮気味で中々寝つかなかった。
「お父さん、サファリパークまだァ?」出発してすぐから淳之介は何度も聞いてくる。
「ううん、訓練場につながっていたらお父さん、ライオンに食べられちゃうよ」私の答えに後ろの席の美恵子が笑ったのが判った。
裾野の市街地に入ると交差点ごとにサファリパークの看板があり、あとは案内通りに進むだけだ。
「僕、ライオンバスに乗るの?」淳之介は看板にあるライオンバスを指さして訊いてくる。
「うーん、車で来てるからそのままだね」ライオンバスからは猛獣に餌をやることもできるらしいが料金が判らない。
「でも、この間、テレビで車がライオンに引っ掻かれて壊れたって言ってたよ」美恵子が言ったことは私も新聞で読んでいた。
「へー、ウチの軽4じゃあバラバラにされるな」「象なら踏みつぶされるさァ」父母が冗談を言い合っていると淳之介は真剣におびえた顔をして「怖い」と言った。
「大丈夫、お父さん強いから」「でも、ライオンに食べられるっていったもん」美恵子の言い訳にも淳之介は先ほどの私の台詞を覚えている。
私は我が子が成長すると親も言動に気をつけなければいけないことを学んだ。

それから美恵子は毎週のように日曜日の朝1番の高速バスに乗って東京へ出かけ、最新の流行を探索し、夜に帰ってくるようになった。その費用は美恵子が防府の理容店で稼いだ給料だから文句は言えないが、入校中、必要最低限の小遣いで過ごした私の苦労は何だったのだろうか。
「東京って凄いさァ」帰ってくると美恵子は異様に光る眼で状況報告する。
「山手線に乗っても、ずっと那覇や福岡や小倉に広島くらいの街が見えるんだよ」「ふーん」私は都会が嫌いなので生返事を返すだけだ。それでも美恵子は興奮して報告を続ける。
「それに歩いている人が雑誌に載っているのと同じ髪型をしているのさァ」「へー・・・」私は心の中で「だからどうした」と呆れていたが、美恵子は禁句を口にした。
「私、東京の理容店に勤めたいさァ」「何ィ?」私の卒業序列がかなり後退した原因は美恵子が無断で就職したことだ。しかし、これから幹部としての勤務で家庭にも負担を掛けることになる以上、美恵子の心証も尊重しなければならない。
国家と家庭、公私共に防衛の任務を遂行することができて幸せだ。かなァ・・・。
富士サファリパーク
富士サファリパーク(並走するライオンの巨大さにビビッた)
  1. 2015/10/22(木) 09:50:09|
  2. 夜の連続小説8
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