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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ255

私の歓迎会が市内の料亭旅館で開かれた。体育学校では幹部に気を遣う宴会に戸惑ったが、今回は私が上席に座ることになった。それでも両脇に座っている中隊長と1小隊長に気を配り、酒を注いだり注がれたりしなければならない。
こうして和室での宴会を眺めていると酒が進むうちに陸曹・陸士たちは上席に座っている幹部3人と反対側に固まって盛り上がっている。時々、こちらを見ているのは幹部の噂をしているのだろう。それでも上級陸曹たちが交代で酒を注ぎに来るので、幹部だけ隔離されている訳ではない。そんな1曹の1人が訊かれたくない質問をしてきた。
「先ほどの自己紹介によればモリヤ3尉は曹学(一般曹候補学生)出身とのことですが、大学には行っておられないんですか?」一般の隊員にとって部外出身の幹部は大卒と言う認識があり、その出身大学でレベルを測るのは航空自衛隊も同じだ。
「大学は中退したんです」「へーッ、中退でも部外に入れるんですね」「はい、学科試験に合格すれば」気がつくと両側の幹部たちまで聞き耳を立てている。
「それでどちらの大学ですか?」「愛大です」「それじゃあ、四国は慣れていますね」「へッ?」「四国ではトップの国立大を中退したのか・・・勿体ないなァ」1曹の話に中隊長まで同調したが、私は訳が分らなくなった。
「私が止めたのは愛知大学ですが・・・」「何だ、愛媛大学じゃあないのか?」「愛大って言えば愛媛大学だろう」言われてみれば愛媛大学の頭文字を取ると愛大になる。
本州の人間は金毘羅詣の香川県が四国の顔だと思い込んでいるが、妙なことで人口、産業、文化などの中心は愛媛県だと言うことを学んだ。

私が善通寺に赴任して間もなく駐屯地の少林寺拳法部員が2人で勧誘に来た。
「モリヤ3尉は那覇航空隊支部で全自大会にも出ていましたよね」「確か初・2段の部で最優秀だったでしょう」「うん、まぐれだったけどね」少林寺拳法の大会は試合ではなく、組演武で競い合うため優勝ではなく最優秀と言っている。私の人事記録は整備小隊長の三谷2尉が勘違いして記入したのだ。
「どうです。ここでも続けませんか?」「御存知のように善通寺駐屯地が少林寺拳法を発展させたんですよ」開祖・中野理男が多度津で少林寺拳法を始めた時、善通寺の隊員たちが入門し、彼らが北海道に転属したことで全国へ広まったと言われている。
「ワシは体育学校で少林寺の癖が抜けなくて上級指導官を逃したんだ。やるなら日本拳法にしたいね」「それでも上の段を取らないと勿体ないでしょう」「ここから先の段位なんて使いもしない特殊な技ばかりで興味ないな。少林寺が乱取りを解禁したならやっても良いけど」「・・・」「折角、四国に来たんだから芦原会館を再開したいんだけど道場は知らんかね?」「知る訳ないでしょう!」こうして少林寺拳法を再開しなかった私はランニングの後で体育館のサンドバッグを叩く以外は練習らしい練習もせずに格闘指導官としての技量を維持することになった。
  1. 2015/10/27(火) 09:05:51|
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