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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばフライディ317

7月18日の衆議院選挙で自民党は大敗したが、既成野党も勝利とは言えず国会は極めて不安定な状況になっている。結局、マスコミが作り出した新党ブームで議席を確保した何の実績もないイメージ政党がどちらにつくかで政権が決まる異常な事態になっていた。
「まったくどうなっちまうんだ」「まさか社会党や共産党が政権を握るなんてことにならないだろうな」月曜日に出勤すると隊員たちは寄ると触ると溜息混じりの政治談議で蜂の巣を突いたようだった。朝礼前、中隊長が声を掛けてきた。
「モリヤ2尉が先月言っていたような結果になったな」「実はあの時、言えなかったんですが・・・」「おッ、何か面白いネタがあるのか?」中隊長は訓示のネタを期待したようだ。
「日本新党の細川って言うのは地元の評判は最低でして?」「でも、選挙区は熊本だろう」「はい、庶民には男前のお殿様ですが、政治を知っている人たちには世間知らずな馬鹿殿なんだそうです」これは前川原で熊本出身の同期や8師団の部隊から入校していた部内の候補生たちに聞いた話だ。
「しかし、戦国武将・細川忠興の末裔だぞ」「むしろ母方の祖父である近衛文麿の血が濃いらしいんです」「近衛かァ。それは意外だったな」実際、細川氏は熊本県知事として失政を繰り返しながら名前に傷がつく前に椅子を投げ出した無責任な人物で、「功績は県立美術館に家宝を寄付したことだけだ」と酷評されていた。

8月1日付で守山・第35普通科連隊への転属が発令されたが、1日は日曜日なので前日の7月31日に申告、駐屯地朝礼での紹介になる。この2カ月間、「妻が海外派遣中に不倫した悲劇の男」と言う役柄が「愛人を妊娠させて妻を追い出した悪役」に変わっていたが、それでも淳之介を抱えながら明るく楽しく懸命に父子生活を送っている私を官舎の奥さんたちが認め、励ましてくれるようになっていた。
送別会には淳之介も呼んでもらい、特注のお子様ランチを食べさせてもらった。
「モリヤ2尉、こう言っちゃあ何だが、あの悪妻とは別れて正解だったよ」中隊長は私に酒を注ぎながら思い掛けないことを口にした。
「前川原の助教をやっている北海道時代の部下に色々訊いたんだが、君の卒業序列が悪かったのは女房が勝手に仕事を始めたことが原因だったらしいな」「それは私の監督不行き届きでした」「いや、妻は夫に従うものだ。それが判らないような女に結婚する資格はない」「それは少し時代が」「時代が変わっても軍人の職務に変わりはない。乃木閣下は奥さまが職場へ近づくことを禁じておられたから、用事がある時は途中の松の木のところで待っておられたくらいだ」その史跡は善通寺市内に残っている。
「君の人一倍のやる気、特異な能力があの悪妻によって潰されたかと思うと残念でならん」そう言って中隊長はさらに酒を勧める。しかし、私はその悪妻も心から愛していたのだ。何にしてもこの中隊長には公私共に大変なお世話をお掛けしたようだ。
  1. 2015/12/28(月) 08:52:19|
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