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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ434

「ニィニ、ネェネの事件知ってるねェ」突然、かつての義弟・松真から電話が入った。
「ネェネって矢田美恵子さんか?」私の中で美恵子は他人になっているので呼び方もこうなる。すると松真も心に冷水を浴びたようで声のトーンを落として話を続けた。
「はい、僕の姉の美恵子です・・・一昨日の夜、米軍に集団レイプされたって言うのさァ」「ふーん、そんな事件、新聞には載ってないけどな」私は自宅で産経新聞、職場で中日新聞を読んでいるが、どちらにも載っておらず朝のニュースでも報道されていなかった。
「こっちの北陸新聞でもそうさァ。だけど沖縄の新聞には載ったんだって」松真は今も小松基地にいるらしい。しかし、どう考えても新聞好みの事件のはずなのに本土の新聞には載らず、沖縄の地元紙だけが報じていることには首を傾げるしかない。
「おカァから電話があったんだけど、ネェネは米兵だって言ってないのに新聞が勝手に書いたらしいのさァ」「ふーん、判ってきたぞ」要するに米軍と自衛隊を敵視する地元紙が捏造した記事であり、全く確証がないから本土の新聞やテレビは取り上げないのだろう。
「ところが陸上自衛隊が問題なのさァ」「我が社が何をやったんだ?」松真の口調が重くなったので、私も受話器を握り直した。
「今度の旦那の中隊長が、米軍が関係しているのなら告訴しないように言っているらしいのさァ」美恵子が再婚して4年経っているのだから、そろそろ「今度の」を付けなくても良いだろう。そんなことを思いながら松真の訴えに対する答えを考えた。
「それは中隊長クラスによくいる小心者の考えだな。米軍は個人の犯罪は個人が処罰されるべきだと考えるから犯人が米兵だとしても告訴したからって日米関係が悪くなることはないよ」「ふーん、やっぱりニィニは違うさァ」松真との義兄弟の縁が切れてからも4年になるが、やはり信頼は維持してくれているらしい。
「問題は矢田の立場では中隊長に逆らって美恵子さんに告訴しろとは言えないことだが、美恵子さんが米兵じゃないと思うなら告訴させる方が米軍の潔白を証明することになるはずだよ」こう説明しながら松真はそれを私から矢田の上司の中隊長に言わせようとしているのかと勘繰ったが、航空自衛隊はそこまで深謀遠慮ではないことを思い返した。
「それでおトォがこの機会に別れろって言いだしたのさァ」「ふーん、それは大変なことだねェ」私の反応はあくまでも他人事だ。美恵子に対しては幹部としての可能性を潰された怒りの方が強く、かつて妻だったことは思い出したくもない。
「まァ、傷ついた妻の気持ちも考えないで、職場の上司の言うことに盲従するような男とは別れた方が良いのかも知れないが、美恵子さん自身が選んだ相手だからな」「・・・モリヤ1尉はやっぱり姉のことを許してくれていないんですね」「いや、もう縁が切れているんだ。許すも何もない」この言葉をかつての義弟がどう受け止めるかは判っている。しかし、私が守るべきは佳織と築き上げている今の家庭であって、美恵子とのオママゴトではないのだ。
「お忙しいところ有り難うござました」「はい、さようなら」それで電話を切った。
  1. 2016/04/23(土) 09:40:17|
  2. 夜の連続小説8
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