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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ558

佳織と志織はアメリカ陸軍指揮幕僚大学校があるカンザス州カンザス市に到着した。カンザス州はアラスカとハワイを除くアメリカ本土のほぼ中央に位置し、大平原以外の風景はない。
「マミィ、蒸し暑いね」「うん、そうやね」カンザスシティ空港に着いて外に出た途端、志織が呟いた。大陸の中央部に位置する州であればモンゴルやオーストラリアのような乾燥した気候を想像するが、アメリカ大陸は大西洋と太平洋に挟まれているため両側から強力な季節風が吹き、夏の湿度が高い地域も多い。ただし、カンザス州でも西側半分は砂漠に近い乾燥地帯だ。
カンザス州では日本人が珍しいようで、2人の姿を通り過ぎる人たちが興味深そうに見ていく。佳織は久しぶりの右側通行に懐かしさを感じながら道路を渡り、タクシー乗り場に向かった。
借家はCGSに留学する自衛官の申し送りだ。アメリカの借家は家具つきであり、家電製品などは長期レンタルですませ、移動は衣類や食器などの日用品だけにする。
こちらに向かう旅客機の中で志織はアメリカ人の子供たちと英語で談笑していた。そんなところにも初めて海外生活をする娘を思い、あらん限りの力を注いでくれた夫の存在を感じ、佳織の胸は熱くなっていた。

「OK、2年生です」翌日、転校手続きのため地元の小学校へ行くと校長と担当教師は志織に各科目の質疑応答を繰り返す面接と筆記試験を行い決定を下した。佳織としては日本の小学校を半年しか経験していない以上、1年生になっても仕方ないと考えていたが、ここでも夫の努力の成果が認められた形だ。
「日本のオフィサーは子供をワシントンの日本人学校へ入れてカンザスには夫だけで住んでいることが多いですが、メジャー(少佐)は娘さんにアメリカの教育を受けさせるのですね」校長の話は留学が決まった時、経験者から助言として聞いていたことだ。中には家族を日本に残して単身赴任することも珍しくないらしい。
「メジャーはハワイ生まれなんですね。大学もアメリカだ」校長は机の上に広げている佳織の履歴書を担当教師に見せた。アメリカの学校も個人情報の保持には厳しいが、日本のように過剰な制限はしない。家族の個人情報も必要なことは申告させ、関係者とは共有する。
「ならば国籍はアメリカと日本の2ヶ国ですね」「日本だけです」日本では20歳までに国籍を1つに絞らなければならないが、他国では複数の国籍を認めていることが一般的なのだ。。
「シングル・マザーですか」「いいえ、夫は日本に残っています」ここで「兄と一緒に」と答えようか迷ったが、「淳之介は沖縄へ行くことになるから」と口をつぐんだ。
「それではシオリの英語はメジャーが教えたのですね」「いいえ、勉強を教えたのは夫です」佳織の答えに国際性に乏しい日本人のイメージが崩れ、2人は困惑したように顔を見合わせた。

「モリヤくんです。本土から来ました。挨拶しないさい」日本では淳之介が玉城村の中学校に転校した。8月も後半に入ってからの手続きで、久居市の中学校には大変な迷惑をかけたが、受験生としての立場を考えれば2年の2学期はギリギリの限界線だろう。
「ハイサーイ」淳之介は「ちゅらさん」で覚えた沖縄式の挨拶をしたが、教室には白けた空気が発生する。それでも構わず続けるのが空気を読まない淳之介だ。
「僕はモリヤ淳之介って言うのさァ、母はシマンチュウだからナイチャアとシマンチュウのハーフさァ」ここまで来ると同級生の一部が苦笑を始め、淳之介はそれを「受けた」と思いさらに追い討ちをかけた。
「部活はバスケットさァ」「はい、ありがとう。みんな分からないことは教えてやってくれ」教師が言う「分らないこと」とは沖縄の流儀・作法からになる。前途は多難なようだ。
  1. 2016/08/25(木) 09:13:10|
  2. 夜の連続小説8
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