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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ579

淳之介は転校して早々に教室で暴れたことで教師から「問題児」と言うレッテルを貼られてしまった。勿論、騒動の後に面接を受け母の件を訴えたのだが、沖縄の人間である教師にはそれがどれ程、心を傷つけるかが判り切れていなかった。部活を終えて家に帰ると教師から電話で説明を受けたらしい祖父に居間へ呼ばれた。
「教室で暴れたそうだが、本当にお母さんのことを言われたからなのか?」祖父は目の前に正座をしている孫を見ながら静かに訊いた。
「お母さんがアメリカ兵に集団エイプされた何て嘘を言うから腹が立って・・・」孫の返事に祖父は黙って何かを思案した。淳之介には祖父が作るこの短い間(ま)が安心感を与えている。
「それは半分だけ事実なんだ」「えッ?それじゃあお母さんはアメリカ兵にレイプされたの」淳之介が大声を出すと祖父は手でそれを制しながら言葉を続けた。
「アメリカ兵と言うのは新聞が勝手に書いたことだけど、男に集団で強姦されたのは本当なのさァ」淳之介には「ゴーカン」と言う単語の意味が判らなかったが前後の脈絡から理解した。
「お母さん、それで離婚したの?」淳之介は母が自分を捨ててまで結ばれようとした相手と別れた理由が判らないでいた。しかし、祖父は黙って首を振った。
「それは違う。でもどれもこれもお母さん自分で播いた種子なのは間違いないさ」祖父の厳しい言葉に淳之介は返事ができないでいる。そんな孫に祖父は教えを垂れた。
「お前も自分で沖縄へ来ると決めたのだから、良いことも悪いことも受け入れないといけないさァ。お母さんもモリヤさんや息子を捨てて別の男に走った結果を自分で受け止めているんだよ」淳之介の胸に愛知県の祖父母の言動が浮かんできた。愛知の父の両親は二言目には「世間の目」と口にしていた。それは「自分で決めること」を頭から認めない態度であり、この祖父のような「自己責任」と言う考え方ではない。
「僕、お母さんの所へ行きたいんです」「それは無理さァ。お母さんは忙しくてアパートにも寝るために帰るだけみたいだからな」祖父の説明にこちらに来て一度だけ会った母の顔が浮かんだ。随分と落ち着いた雰囲気だった母に会って「今後のことを相談したい」「父が話してくれなかった別れた理由も確かめたい」それが沖縄での事実受け入れる第一歩になるはずだ。
「それじゃあ、髪が伸びたらお母さんの店で散髪してもらうことにしよう」「うん、決まったァ」淳之介が歓声を上げたところへ祖母が「夕食の用意ができた」と呼びにきた。

「淳之介、早く来るさァ」9月11日の夜、母が使っていた部屋で勉強をする振りをしてマンガを読んでいた淳之介を祖父が呼んだ。
「どうしたの?」「良いからテレビを見ろ」祖父の厳しい口調に淳之介がテレビの画面を見ると1機の旅客機が超高層ビルに突っ込んでいく光景が映し出されていた。
「これ何、特撮?」「世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだのさァ」祖父の説明に淳之介の頭の中では「世界貿易センタービルはニューヨークにある超高層ビル」と言う乏しい知識が浮かんだもののその情報と映像の事実が結びつかないでいた。居間の重い空気に台所から顔を出した祖母は廊下で立ち止まっている。そんな中で祖父が思いがけない言葉を発した。
「これではアメリカが戦争を始めるな。沖縄も大変なことになるさァ」この祖父の重い言葉は過去の歴史に裏づけられている。復帰前のベトナム戦争の時には戦地に赴く恐怖から逃れようと泥酔して暴れ、通りがかりの女性をレイプする米兵が後を絶たなかったのだ。
「今のお母さんは妹を連れてアメリカに行っているんだろう。住んでいる場所はニューヨークから近いねェ?」祖父は淳之介の母として父の新たな妻のことまで心配してくれていた。淳之介には父が自分の両親よりも沖縄の元義父母を尊敬している理由が判ったような気がした。
  1. 2016/09/15(木) 08:35:41|
  2. 夜の連続小説8
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