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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ584

インチョン(仁川)国際空港からニューヨークのジョン・フィッシュランド・ケネディ国際空港までは秋季の風力(太平洋上の偏西風の強さ)では約14時間かかる。したがって昼過ぎの出発では到着は翌日の深夜だ。
岡倉はアフガニスタン以来の疲れと昨夜の不眠が重なりエコノミー席で熟睡していたが、突然、満席の機内で歓声が起こり目を覚ました。
「ようやく決定しそうだな」「これで悪を滅ぼすことができる」「我が国も出遅れてないようにないと」機内には韓国語の叫び声が沸き起こっている。ようやく意識が戻って画像スクリーンを見るとNATOが集団的自衛権の発動を決定する見込みであることを伝える衛星ニュースが流れていた。
映像としてはNATO内で指導的立場を果たしているイギリスのトニー・ブレア首相が熱弁を奮っている姿とニューヨークの貿易センタービルへの旅客機の突入シーン、そして湾岸戦争の記録映像を織り交ぜて編集されているようだが、これで開戦は時間の問題になった。
ジアエの話では韓国も軍を派遣することが決まっているようだが、今回は湾岸戦争以上の国が同調するだろう。
「自衛隊の派遣は法案を国会に提出する前に総理府の官僚に説明する必要があるから、まだ間に合うな」岡倉の任務は自衛隊の派遣を決定する上での現地情報の提供だが、本来であれば「後手」以外の何物でもない。しかし、それが政府の情報専門組織ではない非合法な集団の限界ではあった。
何にしても今の岡倉には防衛庁が総理府の外局である日本の異常な組織制度や周囲の顔色を窺いながらでしか前に進まないお役所仕事がかえって有り難く思えた。

ニューヨークに到着した岡倉は朝一番で報告できるようにワシントンに向かった。野中将補への取り次ぎは自分にアフガニスタン行きを命じた工藤に依頼してある。
岡倉は地下鉄の出口で待っていた工藤と一緒にタクシーで日本大使館に向かった。
「ご苦労さん、睡眠不足で大丈夫か?」「こちらへ向かう機内で熟睡してきましたから大丈夫です」工藤も唐突に何の情報も与えず命令したことを気にしているようで、珍しく気遣いの言葉をかけた。それに答えながら岡倉は頭の中で口頭報告を組み立てていた。
「島村くん、ご苦労だったな」野中将補は岡倉の顔を見ると握手をして出迎えてくれた。
「私も東京に呼ばれて今夜、出発するんだ。間に合ってくれて良かったよ」そう言いながら野中将補は2人にソファーを勧め、盗聴機を妨害するためのBGMをかけた後、「コーヒーが来るから報告は待て」と注意しながら自分も座った。やがて金髪の中年女性がコーヒーを持ってきて、退室したところで報告が始まった。
「タリバーンへの国民の支持は強固なものがあります」野中将補や工藤もアメリカ政府の主張に疑問を持っているらしく、この冒頭には反応しない。
「アフガニスタン国内には明確な軍事拠点は見当たりません。そもそもタリバーンは軍事組織ではなく基地や駐屯地を持たないのだから当然です」これも同様だった。
「彼らはソ連との戦争で鍛えられていますから、ゲリラ戦には熟練しています。若し地上部隊が侵攻すれば国民の支持・協力の元に執拗なゲリラ戦を展開するでしょう」要するに欧米の後押しで新政府が樹立され、クラウゼヴィッツ的な定義での勝利を掴んでも戦闘は延々と散発し続け、やがて疲弊した欧米の正規軍は撤退しなければならなくなる。それどころか9・11式の自爆テロが世界規模で展開されることになるだろう。
「要するに陸自の派遣は止めるべきだと言うのが結論だな」野中将補の理解は適切だった。
  1. 2016/09/20(火) 09:27:08|
  2. 夜の連続小説8
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