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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

9月24日・幕府がシーボルトに国外退去を命令した。

文政12(1826)年の明日9月24日(太陰暦)に幕府がオランダ商館付医官のシーボルトさんに対して国外退去命令を出しました。おそらくこれが日本初の公式な外国人を対象とするスパイ事件でしょう。
シーボルトさんの名前はドイツ人の友人によると「ズィーボルト」と発音するそうなので、今回はそれで通します。なお、本人については10月18日の命日に語ることとします。
ズィーボルトさんはオランダ人ではなくバイエルン(=ドイツ)の医師の家系の出身で、祖父と父親は大学教授を務める名医だったためズィーボルトさん(祖父と父親もズィーボルト姓ですが)が20歳の時、貴族に列せられ「フォン」の称号が付きました。
ズィーボルトさんは医学だけでなく理科系では解剖学、生理学、生物学、植物学、地学、文科系でも地理学、民俗学、歴史学、言語学などを学び、飽くなき探究心と強烈な好奇心からヨーロッパでは未知の秘境になっていた日本に興味を抱いたのです。そんな折、オランダで長崎・出島の商館付医官の募集があり、迷わず応募するとその学識・経歴から「日本の国家としての実態調査」と言う特別命令を受けることになりました。
と言う訳で長崎に赴任した27歳のズィーボルトさんですが、長崎の通詞(=通訳)はオランダ語の発音が変であることに気づき、仕方なしに「オランダの山岳地帯の出身だから訛っている」と言い訳したのです。若し通詞が「オランダに山岳地帯がない」と言う地理の知識を持っていれば嘘がばれるのですが、そこは職務以外の知識を持つことを余事(野僧もこれで第1教育群司令・S1佐に嫌われました)とする日本人の特性で難を逃れました。
こうしてスパイとしての活動を始めたズィーボルトさんは、先ず出島以外に活動拠点を確保するため「西洋医学を広めたい」と長崎奉行に申し出て、私塾兼診療所の鳴滝塾を建てることに成功しています。鳴滝塾と言う名称をズィーボルトさんの愛妾・滝さんの名前に由来すると勘違いしている人もいますが、これは江戸初期の長崎奉行がつけた所在地の地名です。
こうして全国から集まってくる医師たち(卵と言うよりも開業医)に医学だけでなく西洋科学などを教えながらオランダ語の実習を名目にして出身地や見聞した土地の歴史風土の論文を作成させ、長崎を動かずに日本全土の情報を収集していきました。
さらに5年に1度行われる商館長の江戸出府に同行すると道中で度々駕籠を下りて植物採取やスケッチだけでなく、海岸線や富士山の測量も行っています。
江戸では押し掛けてくる人たちが鳴滝塾以上で、相手を厳選して言葉巧みに情報収集を実施しました。中でも幕府天文方の高橋景保さんとはロシアの探検家・クルーゼンシュテルンの「世界一周記(世界地図が入っている)」と伊能忠敬さんが作成した「大日本沿海実測全図」の筆写を交換したのですが、これは幕府が指定した最高機密だったのです。
これを長崎に持ち帰ると鳴滝塾でも成績優秀だった岡研介くんと高野長英くんに地名のオランダ語化を命じ、翌年に迫った帰国の前に収集品でも大きな物を定期便で送ることにしました。
ところが文政11年の8月9日(太陰暦)に九州を縦断した台風で収集品を載せていたハウトマン号が座礁したため長崎奉行所の検索を受けることになり、積み荷の中に膨大な禁制品があることが発覚したのです(刀剣や甲冑、弓矢などの武器類も国外持ち出しが禁止されていたが美術品として含まれていた)。
当然、ズィーボルトさんは取り調べを受けることになりましたが、その場で日本への帰化を申請してスパイ容疑を不成立にし、収集品はあくまでも個人的趣味として協力者の罪を免じるように申し出ました。
長崎奉行所は想定外の申し出には幕府の意向を確認しなければならず、使者が江戸との遠路を往復する間にズィーボルトさんは伊能地図の筆写を完成させていたのです。結局、伊能地図を没収された上で国外追放になりましたが、筆写した地図はオランダで確認・保存されています。
日本人はズィーボルトさんを西洋医学や科学を紹介した恩人のように考えていますが、スパイとしても極めて有能だったことを知っておいても良いでしょう。同時代の日本最高のスパイ(公儀隠密)・間宮林蔵とは江戸で対面していますが、何が語られたのかは一切が不明です。
  1. 2016/09/23(金) 09:04:56|
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