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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ635

「北キボールで銃撃戦かァ」淳之介が学校から帰ると新聞が茶卓の上に置いてあった。玉城家には夕刊の代わりに本土の新聞が届く。それは美恵子のレイプ事件の時、本人の証言もないのに「アメリカ兵による犯行か?」と言う記事を掲載したことで祖父の松栄さんが地元紙の購読を拒否したからだ。父がPKOに行っているらしいことは聞いているが、その現地で銃撃戦が起きたとなると読まない訳にはいかなくなった。
「PKO法の派遣基準が破れた以上、政府は早期撤退を決断すべきである」制服を着替えずに居間で新聞を読み始めた淳之介に廊下から祖母が声をかけてきた。
「淳之介、新聞は着替えてからにしなさい」「チョッとこの記事だけ」「お父さんの話ねェ」祖母も新聞には目を通しているらしく、その場で理解した。すると祖父が庭から帰ってきた。
「おジィ、お父さんは日本に帰ってくるねェ」最近は淳之介もシマグチ(沖縄方言)に染まってきている。祖父は座卓のリモコンでテレビを点けかけたが止めて淳之介の方を見た。
「帰ってこないだろう」「どうしてねェ、新聞に書いてあるさァ」中学3年生の淳之介には新聞に書いてあることは教科書と変わらない真実のように思っている。
「この程度のことで帰ってくるなら自衛隊が行く必要はないさァ。危険なことが起きてもやり抜くから自衛隊なんだよ」祖父の話を聞いていると淳之介には愛知の祖父母よりも玉城家の祖父母の方が父の実の両親のように思えてくる。おそらく愛知の祖父であれば「隊員が死ぬ前に帰ってこさせるのが国の責任だ」と言いながら不機嫌になるだろう。
「でも自衛隊は戦争に行ってはいけないんでしょう」「戦争はこっちがやりたくなくても攻められたら始まってしまうのさァ」父の下を離れて1年近くなり、最近は淳之介も沖縄の教師の思想に染まり始めているのかも知れない。ところが祖父は父と同じ考えのようだ。
「先生は『沖縄に自衛隊があるから攻められる』って言ってるさァ」「宮古島にも軍隊はいたさ。それでも攻められなかったぞ。本島が攻められたのはそこがアメリカ軍にとって重要だったからさァ」次第に祖父の声が大きくなってきて、気がつくと淳之介は正座していた。
「今度、清明(シーミー)祭の夜、松泉(しょうせん)伯父さんの話を聞いてみるさァ」「松泉さんって僕が来た時、挨拶に行った人ねェ」松泉さんは祖父・松栄さんの長兄でありモンチュウ(門衆=親族)の長でもある。
「伯父さんは鉄血勤皇隊の生き残りなのさァ」「鉄血勤皇隊って沖縄の生徒を日本軍が戦争に使ったんでしょう。女子の姫百合部隊と同じさァ」祖父は孫・淳之介を引き取るに当たって危惧していた沖縄の教員による反日教育の影響を思っていた以上に受けていることに愕然とした。
鉄血勤皇隊と姫百合部隊は陸軍・第32軍の協力要請を受けた県知事の承認の下に動員された14歳から16歳の生徒たちだが、当時の軍法でも17歳未満の徴兵は志願者に限られていた。しかし、沖縄の学校では沖縄戦を本土防衛の捨て石にされた悲劇であり、本土の政府を恨め、許すなと教えているので、故郷を守るために鉄血勤皇隊や姫百合部隊を志願した生徒たちの遺志は「無知ゆえに軍隊に利用された犠牲者」として踏み躙られている。
「それじゃあ、お前はお父さんや叔父さんの職業をどう思っているねェ」祖父は孫が身内まで敵視するようになっていないかを確認することにした。
「お父さんは災害派遣で活躍する国家公務員さァ。叔父さんは国家公務員の航空機整備員だね」ここで沖縄の教師が自衛官の子供たちに言わせている「軍隊は人殺し」「自衛隊は軍隊」「だから自衛隊は人殺し」を口にすれば殴るつもりでいた祖父はホッと溜め息をついた。
「日本の平和はお父さんや叔父さんが守ってくれているんだ。お父さんはアフリカの国の建設に行っている。そのことを忘れてはいかん」祖父の強い言葉に淳之介は曖昧にうなずいた。
  1. 2016/11/10(木) 08:55:44|
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