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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ639

「白一日上等兵、銃器と弾薬の強奪容疑で逮捕する」診療所の前で2人の憲兵は拳銃を突きつけて白上等兵の背から放心状態の田智賢上等兵を下させ、肩に吊ったM2小銃を没収した。そこに診療小隊長の高中尉と警備班長の金軍曹が駆けつけてきた。
「一日(イルイル)・・・」地面に転がるように寝かされた田上等兵は目の前で手錠をはめられた恋人の名を弱々しく呼んだ。その様子に高中尉は田上等兵を、金軍曹は白上等兵を凝視しているしかなかった。
「田上等兵はレイプされたようだな。それも複数の男だろう」金軍曹が田上等兵を抱いて診療所に運ぶと回診のため残っていた医官が診断した。
「レイプを?白上等兵との性交ではないのですか」「いや、女性器の陰部に強姦による裂傷が見られる。前戯の後であれば体液が分泌されるからあのような傷にはならん。残置していた精液の量から犯人は3名以上だったようだ」医官の説明は具体的だったが高中尉自身は経験がないので想像するしかない。そんな高中尉の顔を見て医官は軽く肩をすくめると話を続けた。
「何よりもレイプされた精神的ショックは深刻なので当分は発作的に自殺する可能性もある。しばらく常時監視が必要だろう」医官の助言を聞きながらも高中尉は「汚された女」と言う嫌悪感が胸に湧いてくるのをどうしようもなかった。
「とりあえず処置は終わったから避妊薬を処方しよう」「避妊薬を?それは断ります」突然、血相を変えた高中尉の顔を医官は驚いたように見た。しかし、そのままの顔で理由を説明した。
「薬物による避妊はバチカンが許していません」「それではまだ若い田上等兵には見も知らずの男の子供を妊娠する可能性が生じてしまう。彼女はカソリックなのか?」医官の質問に高中尉の顔が強張った。クリスチャンばかりで編成されているこの診療所でもカソリックとプロテスタントは半々だ。カソリックの高中尉にとってプロテスタントの兵士たちの自由奔放な振舞いは我慢の限界に近づいていたのだ。
「確かに彼女はプロテスタントです。しかし、私の部下であることは間違いありません。例え妊娠することになってもそれはカミが授け賜った生命です。国費で購入した薬品でカミに背かせることはできないのです」この頑なな態度に医官も表情を変えた。
「私は少佐、貴女は中尉だ。処方した避妊薬を田上等兵に服用させることを命ずる」高中尉は黙ってうなずいた後に胸の前で十字を置いた。

「白上等兵、あの銃で何をするつもりだったんだ」白上等兵はPKO派遣部隊司令部が入っている建物の1階にある憲兵隊で取り調べを受けた。そこは小部屋の窓に鉄格子を取り付け、机を挟んで椅子が2つ、部屋の隅にも筆記用の机と椅子が置いてある。
「実弾まで持ち出したんだ。誰かを殺すつもりだったんだろう」憲兵たちはまだ2人に何が起こったのかを知らないようだ。その時、取り調べ室のドアがノックされた。
「何だ?」「診療所から電話がありまして」取り調べに当たっている軍曹ではなく部屋の隅で供述を記録していた中尉が問いかけると廊下から返事が戻ってきた。そこで中尉が立ち上がり、ドアを開けて立ち話をした後、白上等兵と軍曹が向かい合っている机の横に立った。
「彼女は集団レイプされたようだが、お前はその男たちを殺そうとしたんだな」この言葉に軍曹の脳裏にはこの被疑者の背中で動かなかった女性兵士の姿が浮かんだ。それは拳銃を突きつけた時、ベテランの憲兵も「死体ではないのか」と疑ったほどだった。
「理由は何であれ軍の銃器と実弾を強奪した事実に変わりはない。当然、軍法会議になるが、情状酌量の余地はあるな」中尉の言葉に白上等兵は頭を垂れて号泣し始めた。
その夜から白上等兵は地下倉庫に設置された拘置室で過ごすことになった。
  1. 2016/11/14(月) 09:07:44|
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