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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ641

今回、岡倉は帰国の途中、韓国に立ち寄って防衛駐在官の林1佐に直接報告することになっている。林1佐もこの牧村と名乗る自衛隊員の態度にかなり自信がついているように感じていた。
「今の韓国のニュースは戦時中の日本みたいなんだよ」林1佐は開口早々に事実を渇望している胸中を吐露した。ただし、アフガニスタンでの組織戦そのものは沈静化しているので昭和17年代の占領地での地元民との友好な関係を報じていたニュース映画の話のようだ。
「それはアメリカのニュース映像の流用でしょう。日本も当事者ではないだけで似たようなものですよ」そう言いながらも岡倉が日本のニュースを見たのは数年前までだった。
「それで実際の状況はどうなんだ」「酷いもんです」岡倉の即答に林1佐は身を乗り出した。
「遠隔誘導の航空機による空爆は識別不十分で事実上の無差別爆撃になっています」「アメリカのニュースではパイロットを危険に晒すことなく戦果を上げていると宣伝しているがね」「それは企業のコマーシャルです」岡倉の皮肉に林1佐は軽く笑った。
「北部同盟軍はタリバーンに比べて規律が低く国民の信頼は全く得られていません。逆に盗賊まがいの略奪が横行しているようです」「それもニュースでは言っていないな」林1佐の合いの手のような返事に岡倉もうなずいた。
「地位協定も未締結で占領軍と現地行政組織との役割分担が機能していません」「それで韓国軍は上手くやっているのか」ここで林1佐は導入に続き本題に入るように促した。
「韓国軍の衛生部隊はかなり地元民の反発を買っています」「やはりな」林1佐は特別な感情を交えることなく同意した。
「その原因は」「イスラム教の戒律の否定だな」「そうです」林1佐も韓国軍の高級士官の言動・態度にイスラム教への理解不足を感じているようだ。
「具体的には・・・」ここで岡倉は診療所で見聞したイスラムの戒律を否定する場面と現地の住民から聞いた苦情を具体的に説明した。その日本的な常識では考えられない内容に林1佐も流石に困惑した顔になっている。
「韓国軍はアメリカの言うイスラム教の破壊と抹殺を本気で信じているのかな?」「少なくとも現地部隊はキリスト教の倫理を国際常識として定着させようとしているようでした」岡倉の説明に林1佐の顔は益々険しくなる。これでは最近、頻発しているNATO軍への攻撃が韓国軍に向かう可能性も否定できないだろう。
「何よりもクリスチャンを中心に派遣要員を選抜したのは完全に間違いです」「それでは佛教徒の方が良かったと言うのか?」「少なくともキリスト教対イスラム教のような対立は生まないでしょう」確かにこれは正論だが韓国軍では衛生職種にはクリスチャンが多く、更に志願により派遣要員を選抜したためこのような結果になったと聞いている。さらに韓国国内ではバーミアンの石佛が爆破されて以降、佛教徒の間でも激しい反イスラムの声が上がっており、この牧村が言うような効果は薄いのかも知れない。そんな林1佐の顔を見て岡倉は自己の所見を開陳することにした。
「問題なのは韓国人に個人主義の考え方が身についていないことです」「個人主義が?」思いがけず報告が観念論になったため林1佐は怪訝そうに訊き返した。
「欧米人は個人主義が身についているので互いの宗教や倫理道徳を不関与にし合うことができますが、韓国人は他を否定して過剰に自分の考えを押しつけることが多いようです」それが儒教の倫理なのかは判らないが、そのような面は林1佐も感じている。
「韓国軍の方にこの件を話される時には、このままでは反イスラムの敵としてNATO軍以上に憎悪の対象になる恐れがあると伝えて下さい」「うん、かなり言いにくい話だがそうしよう」林1佐は渋い顔をしてうなずいた。
  1. 2016/11/16(水) 09:36:32|
  2. 夜の連続小説8
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