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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ642

「貴方、高仁智に会ってどう思った?」その夜、妻のジアエとホテルの部屋へ入ると開口一番に困る質問をしてきた。妻とは言え外国軍の士官に自衛隊の諜報活動を知られて良いはずがなく、少し保全意識が甘くなっているのかと反省した。
「高中尉から日本人ジャーナリストが取材に来たって手紙が届いたのよ」「それに俺の名前が書いてあったのか?」「ううん、そこは妻としての直感だわ」ジアエの説明に半分だけ安堵して質問に答えることにした。
「高中尉は拙いね」「やっぱり・・・」「カソリックの倫理をイスラム教徒の入院患者に強要しているんだ。それでかなり地元住民の反発を買っているよ」夫の厳しい評価を聞き、ジアエは唇を噛んだ後、残念なニュースを話した。
「これは軍内部の秘密なんだけど、アフガニスタンで我が軍の女性兵士が集団レイプされて恋人の男性兵士が銃と弾薬を強奪した事件が起きたの」「それは白上等兵と田上等兵か?」「そうだけど流石ね」これでは夫婦揃って守秘義務違反になってしまう。しかし、岡倉の胸に倉庫で愛を確かめ合おうとしていた若い2人の顔が浮かび、親近感の裏返しの同情が湧いてきた。
「高中尉はあまりにもイスラムの戒律を蔑視し過ぎているよ。あれではイスラム過激派の武装ゲリラに襲撃されても仕方ないな」夫の酷評を聞きながらジアエは高中尉が手紙に書いてきた反発を思い出した。
「それにしても韓国人の宗教観と言うのは極端だな」「・・・」珍しく夫が韓国に対して厳しい言葉を投げかけたのでジアエは真顔になって見つめた。
「何にしても他人を尊重する余裕がないんだよ。だから相手の信仰を否定した上で自分の宗教を強制してしまう。これがヨーロッパ人なら他人の信仰には立ち入らない余裕がある。どうも韓国は儒教の感覚の上に宗教が載っているみたいだ」この見解にアメリカ人を加えなかったのは9・11以降、見続けてきたアメリカの狂気に対する軽蔑だった。
「確かにそれは言えてるわ。私の父はカソリックの神父の家で育ったからヨーロッパ式の宗教観を持っているの。だから母も父からカミの愛と許しを学んだのよ」ジアエの率直な自己分析に岡倉は納得したように深くうなずいた。
「その点、高中尉はただの信者だから伝統的な儒教道徳で自分を縛っている上にカソリックの戒律で締め上げている。それで心が身動きできなくなっているのね」日本でも江戸時代の武家は儒教倫理で凝り固まっていたが、庶民は佛教で方向づけだけをされていた。ところが明治以降は儒教を請け売りする国家神道が社会規範となったため批判どころか疑問すら許されない狂気が国を蔽い、滅亡に向けて突き進んだのだ。
「松念院の和尚は儒教が大嫌いだったけどこうして考えると碌なものではないな」「儒教の道徳は人間を型にはめるばかりで私たちのカミのような愛情が感じられないのよ」夫婦揃って儒教を批判したところで岡倉は取材先での珍事を思い出した。
「そう言えばアフガニスタンには中国の業者がイスラム教の玩具を売りに来て、住民に町から追い出されたそうだぞ」アメリカ政府が「タリバーンを壊滅させた」と宣言して間もなくアフガニスタン国内に中国の業者がアッラーやムハンマドの人形を売りに現れ、偶像崇拜が禁じられているイスラム教徒の怒りを買い、各地の町や村から追い出されたのだ。
「へーッ、そう言うのって儒教の道徳には反しないのかしら」「逆に野放しにすると何を仕出かすか判らないから雁字搦めにしようとしたんだろう。全く効き目はないみたいだけどな」今夜はこれが落ちになったようだ。
ベッドでジアエを抱きながら岡倉は「あの時、出会ったのが高仁智だったなら」と考えていた。あの頑なな人間性も男女の快楽と愛情で少しは溶かすことができたのだろうかと。
続・亜麻色の髪のドール・モリオ理美 イメージ画像
  1. 2016/11/17(木) 08:52:51|
  2. 夜の連続小説8
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