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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ643

首都・トバラの街中と幹線道路の整備が進み、流通が盛んになってくると妙な若者たちも顔を見せ始めた。トバラ市内の治安維持はオランダ軍が担当しているのだが、旧宗主国から残留した警察官の再教育も同時進行しているため監視の眼が行き届かないのは仕方なかった。
「あの若者たちはアルカーイダに憧れてNATO軍の一員であるオランダ軍とスペイン軍に攻撃を加えるつもりのようです」ある日、独立を前に業務が多忙になり、顔を見せなくなっているUNTANK司令部の若手外交官が指揮所にやってきて説明した。
「ふーん、やはりアルカーイダは壊滅ではなく拡散したんだな」「それは予想されたことでしょう」群長と指揮所長の会話に全員が揃ってうなずいた。
「おまけに中国も安全保障理事会の常任理事国であることで狙われているのですが・・・」「が・・・」ここで言葉を濁した若手外交官の顔を警備担当の3科長が覗き見る。その視線に促されて話しを続けた。
「彼らは自衛隊を中国軍だと誤解しているようです」「しかし、宿営地や車両にも国旗を掲げているじゃないか」今度は1科長が疑問を挟んだ。自衛隊の車両には両側のドアや前後に白地に赤丸の国旗が描いてある。隊員のヘルメットや防弾チョッキの胸と背中、迷彩服の肩にも国旗が張り付けてあるのだが、それを外国軍は「このデザインは射撃の標的のようだ」と心配してくれていた。
「それが何故か日章旗を中国の国旗だと教えられているみたいで」「一体、誰から?」2科長が形式的に質問したがそれは言うまでもないだろう。
「何にしろ警備を強化しないとまずいな」「新たな射撃許可基準も検討しましょう」3科長と運用訓練幹部の意見に群長もうなずいて同意した。
「ところで街中をうろついている日本人たちへの注意喚起は大丈夫なんですか」ここで私が若手外交官に声をかけた。井戸の掘削の前に地鎮祭を行うと必ず顔を出し、遠慮なく写真を撮っているジャーナリストたちの態度にはウラマー(聖職者)からも苦情を言われているのだ。
銃撃戦、技術教育、抗議デモに続き彼らの狙いは「自衛官が宗教活動」と言う問題かも知れないが、イスラム教のウラマーと友好的に実施している上、お布施はもらっていないのでそれは無理だろう。
「阿部さんにはせめてスカーフを巻くように注意しましたが、首筋を隠すところまではやってくれていないようです。他の男性たちはホテルで酒を飲んで騒ぐのを止めてくれません」唯一の日本人女性である阿部真理さんは体の線を隠しているムスリマ(=女性イスラム教徒)たちの中をTシャツにGパンと言う露出的な服装で歩き回るため作業員たちも注目している。本来であれば女性としての色気を発散する首筋にスカーフを巻いて隠さなければならないはずだ。
「そう言えば先日のデモの後、作業員たちが『自衛隊を応援するデモだったが効果はあったか』と訊いてきたからウチの隊員が『抗議の横弾幕だった』と教えたら怒っていたよ」1科の総務幹部の説明に幕僚たちは顔を見合わせた。
「それではイスラム教徒はジャーナリストに敵意を持ってしまわないか」「イスラム教でも嘘は許されていないんだろう」幕僚たちの質問に私が答えた。
「イスラムの戒律では18条に『本人が知らないところで悪口を言い、恥を流布すること』、27条に『他者の中傷を流布し、嫌悪を扇動すること』とあります。さらに24条には『アッラーの言葉を故意に偽ることや偽証すること』26条には『正義を故意に妨害すること』を禁ずるとあります。これらに該当するか抵触するでしょう」スラスラとイスラム教の知識を披露した私に若手外交官は唖然としていたが、副業を知っている自衛官たちは別に驚く様子も見せなかった。
「民間人を守ることはオランダ軍に頼むしかないな」この群長の言葉が我々の現実なのだ。
  1. 2016/11/18(金) 09:31:52|
  2. 夜の連続小説8
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