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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ645

「モリヤ1尉、オランダ軍の捜索隊に連絡要員として同行してくれ」防衛庁からの派遣許可命令が届くのを待っていたかのようにUNTANK司令部から派遣要請が届いた。それを受けて群長は副群長と1科長の顔を見回してから視線を私に留め、命令を下した。
「オランダ軍の車両が出迎えに来るそうだ」「判りました」私は指揮所の入り口脇の席から立ち上がると一番奥の群長と副群長の前に歩み寄り「連絡要員」としての申告をした。
「任務はオランダ軍の動向を逐次通報すること。被害者を保護した場合は事情聴取と関係部署との調整を実施すること。最悪の事態が確認されれば・・・」申告を終えた私に指揮所長である副群長は回覧されたばかりの機密文書を読み上げて任務付与に代えた。
私は自分のロッカーから防弾チョッキを取り出して着込み、銃を保管している大型金庫からMー6短機関銃と実弾を込めた弾倉を4本、弾帯につけた弾納に納めた。
「モリヤ1尉を迎えにオランダ軍のジープ?装甲車が来ました」宿営地の門衛所から連絡が入ると間もなく指揮所の外から聞きなれないエンジン音とタイヤが石を踏む音が聞こえてきた。
「モリヤ1尉、いつもの小道具は忘れていないな」出掛ける私に1科長が声を掛けてくる。私は返事の代わりに戒尺と数珠、線香とライターを入れた雑納をさすって見せた。

「犯人はトバラ市以外の土地からやってきたネオ(=新)・アルカーイダのようです」「ネオ・アルカーイダ?何時そんな物ができたんだ」「ブッシュが敵視すればする程、イスラムの若者には英雄に思えてくるようです」オランダ軍の偵察車両・フェネックはドイツのクラウス=マッファイとオランダのダッチ・ディフェンス・ビーグル・システムが共同開発した新型車両で、3人が横並びに座る。私は真ん中に座っているため両側から話しかけられた。
「しかし、実際は無法者が暴れる口実に名乗っているだけでしょう」「この車両なら奴らの銃火器くらいにはビクともしないがね」右側に座っているオランダ軍のモールス大尉は左側の運転手のノールデルメール軍曹と自慢げな視線を私の前で結んだ。確かにフェネックはアメリカ軍のハンヴィー・ジープに比べて装甲が厚く防弾性に優れているようだ。2人は交互にフェネックの優れた性能を自慢してくるが、英語にオランダ語の単語が混ざるため理解が難しかった。すると私があまり関心を示さないことを察したモールス大尉が仕事の話を始めた。
「犯人は市街地で写真を撮られたことに激情して女性を車両に押し込み、それを止めようとした男性も一緒に乗せて走り去ったようです」「被害女性は若いようなので性的暴行を受けている可能性が高いでしょう」海外のジョークではオランダ人は同性愛者にされることが多いのだが、この2人も阿部さんがレイプされることに全く感情を挟まない。私としても2人が生存していることだけを願いながら視線を通過する市街地の路地に向けた。
「了解、こちらも不審車両は見つけていません」モールス大尉は捜索本部と無線連絡を取り合っている。周波数は自衛隊の指揮所やUNTANK司令部とも共通にしているので傍受できているのだろう。やがて捜索範囲は郊外に拡大された、
「あの車両は何だ!」市街地を抜けて郊外の耕作地に入って間もなく右側で双眼鏡を覗いていたモールス大尉が叫んだ。そのまま車両が前進すると1台のワゴン車が路肩に放置されているのが見えてきた。車体の後部には黒字に黄色い丸のアルカーイダの紋章が手書きしてある(実際はアラビア語の文字も入っている)。当然のようにナンバー・プレートはない。
「うん、手配署にある車両の特徴に酷似しているな」「犯人が乗車している可能性がありますが接近はどうしましょう」不審車両の200メートルほど手前でフェネックを止めたノールデルメール軍曹はモールス大尉に指示を仰いだ。
  1. 2016/11/20(日) 09:14:47|
  2. 夜の連続小説8
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