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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ650

指揮所の判断を受けて、念のためUNTANK司令部にも通報することにした。
「ピース、ピース、ディス イズ、キツネ、キツネ(2度呼べば2度名乗る)、レディオ(=ラジオ) チェック ハウ ドゥ ユー リード ミー オーバー」軍用通信のコールサインは4つ以下の音の単語になっているため(キャ、キュ、キョやオッ、ヘーなどは1音とするのでトップガンのマーベリックも可)UNTANK司令部は願いを込めて「ピース」だ。
「ディス イズ ピース、キツネ ホールド ミー オーバー」一度の呼び出しでUNTANK司令部が出た。その声には聞き覚えがある。
「千光寺です。今の話は傍受していました」やはり若手外交官だった。これで手間が省けたので2体の遺骸と2人の同僚が待つ現場に向かった。経路は先ほどと一緒だが、久しぶりに「中隊長のお告げ」を感じて溝の底を歩いて行った。
間もなく小屋につくから土手に上ろうと思った時、お告げの意味を得心させる光景が目に入ってきた。50メートルほど前で1人の男が溝の中から小屋の方向に小銃を構えているのだ。
男の銃はAKー74、一方、私の銃はMー6だ。AKー74の5・45ミリ小銃弾とMー6の9ミリ拳銃弾では射程距離や威力がまるで違う。つまり銃撃戦になっては勝ち目がない。そこで私はためらうことなく銃を構え、引き金を絞った。
「パパパ・・・」驚くほど軽く乾いた銃声が続き、驚いてこちらを見た男は銃を向ける暇(いとま)もなく胸から血煙りを上げながら仰け反って倒れた。
「バババ・・・」「パパパ・・・」その銃声を聞いて交戦が始まったのか溝の上ではAKー74と私と同じ9ミリ拳銃弾の連続した発砲音が響き始めた。溝の上にも何発もの銃弾が通過して弾丸の後に生じる真空が土を吸い上げていく。
AKー74の銃声の方向から考えると小屋を包囲して一斉に銃撃するつもりだったようだ。
私は銃弾が通過しなくなったところで土手を這って上り、次の目標を探した。すると畑の向こうでソーブ(白く長いアラブの民族衣装)を着た男が1名、モロヘイヤの葉の間から立ち上がって走り出した。距離から言えばMー6の拳銃弾では遠過ぎる。
「パパパ・・・」「パパパ・・・」すると小屋の方向からオランダ軍のMP5の銃声が重なって響き、男はソーブの袖を振り回すようにしながら倒れた。
「無事だったか」私はこの銃声で2人の生存を確認して溜め息をついた。
急に耕作地帯が不思議な静けさに包まれた。先ほど動画で確認した犯人は5名、阿部さんと同伴者に代わる代わる小銃を突きつけていた。つまりまだ3名の武装した敵がいることになる。
その時、目の前に続く野菜の波の影から男が立ち上がって溝に向かって走り出した。私は土手から頭と肩だけを出して銃を構えているため視界が利かず、相手が伏せていると発見が困難なのだ。一方、男は立っているため私に気がつき、懐から手榴弾を取り出してピンを外して投げようとした。私は条件反射で引き金を絞った。
「パパパ・・・」男は前から突き倒されたように倒れる。同時に頭からアガール(輪っか)が飛び、ゴトラ(白い布)が宙を舞って男の上に落ちた。手榴弾が前に転がったのを見た私は溝へ滑り下り、一呼吸置いた後に手榴弾が破裂し、空気を引き裂いて鉄片が飛散した。残る敵は2名だ。数だけで言えばこちらが優勢になった。
「ストップ(止まれ!)」私が再び土手を這って上ると突然、モールス大尉の大声が聞こえてきた。その発音は英語の「スタァップ」よりも日本語式英語に近く、逃亡していく敵に停止を命じていることが判る。敵は劣勢を覚り、逃亡を図ることにしたのだろう。
「パパパ・・・」小屋の方向からMP5の銃声が響いた。逃亡する敵に向かって発砲したのは判るが射程距離から言って弾丸の浪費なのは明らかだ。
  1. 2016/11/25(金) 09:18:23|
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