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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ653

資材小屋に着くと2人は抱きついてきた。それにしても月明かりとは言え誰何(すいか)もせずに接近を許すとは戦闘員として甘過ぎるのではないか。
「大尉、遺骸の収容の車両はどうなっているのですか?」無事を確認した感動の儀式を終えると私は真顔になって質問した。
「我が軍の車両は普通のトラックだったため銃声が聞こえたところで引き返した。戦闘が終わったから貴官の無事と敵の遺骸の数が確認できれば何時でもこちらに来るようになっている」モールス大尉は当たり前な顔をしているが、味方が交戦しているのなら支援に駆けつけるべきではないのか。衛生兵であれば戦闘には参加できないのでそのような対応になったのだろう。
「そちらが斃したゲリラの遺骸は?」「遺骸の回収は衛生兵の任務だ」またモールス大尉は平然と答えたが、この若造は士官としての資質が欠けているのではないかと首を傾げたくなる。
「遅くなりました」声をかけ、懐中電灯を点けて小屋の中に入ると男性ジャーナリストの首と胴体、そして阿部真理さんの裸体はそのままになっていた。風通しが良いはずの筵の壁でも血と排出物、そして遺骸の腐敗臭が充満している。私はオランダ軍に引き渡す前に可能な限り同胞の遺骸を整えようと思った。
先ず「すみません」と謝りながら頭を下げ、2人の遺骸の現場写真を撮影する。続いて男性の胴体を仰向けにして寝かせたが既に死後硬直が始まっており、膝は完全には伸びなかった。首をつなぐように置いたものの倒れてしまうため石を頬の支えにした。
次は阿部さんだ。こちらも抱き上げるには身体が固く、バランスを取るのが難しい。それでも冷たく硬くなっている裸の背中に手を差し入れて抱き上げると、首から背中、腰が「バリバリ」「ミシミシ」と嫌な音を立てた。これは腱が無理に伸ばされるため起こる音だ。
「私なんかのお姫さま抱っこでゴメンナサイ」運びながらそんな詫びが口からこぼれた。懐中電灯は同伴者の遺骸のところに置いているが、筵の隙間から差す月明かりで阿部さんの美しい胸が目の前に見える。小さ目の乳頭が佳織を思い出させた。ジャーナリストと自衛官、どちらも女性であれば戦場で野性と化した男たちには獲物以外の何物でもない。だからこそ愛する女性を守り切れなかった同伴者の無念が痛いほど胸に迫ってきた。
阿部さんを寝かせると小屋の中を照らして剥ぎ取られた衣服を探した。するとGパンと切り裂かれたTシャツが隅に落ちていたが下着は見つからない。仕方ないのでTシャツとGパンを掛けて胸と下半身を隠した。
「後回しになってすみませんでした」ここからは阿部さんから依頼があった慰霊の儀式になる。
2人の頭元に線香を2本立てて数珠を揉みながら頭を下げた。そして戒尺を叩きながら「阿弥陀如来根本陀羅尼」と題名を唱えると「ウチは日蓮宗です」と言う阿部さんの声が聞こえた。こうなると念佛では都合が悪い。そこでもう一度、戒尺を叩き直し、妙法蓮華経では厄除けとして暗記している「観世音菩薩普門品偈=いわゆる観音経」を唱えることにした。
「妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈」「世尊妙相具 我今重問彼 佛子何因縁 名為観世音 具足妙相尊 偈答無尽意 汝聴観音行・・・」私自身は妙法蓮華経には気持ちを高揚させる効果があり、弔いには向かないと考えているが、阿部さんの生き方を思うとその根底には日蓮宗の影響があるようにも思えてきた。
「南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経・・・」回向の後は念佛ではなく題目になった。それも村田和上式の大音声なので念佛に比べると妙に疲れてくる。そこへオランダ軍の衛生兵たちが到着してくれた。
「これは酷い・・・」彼らは阿部さんの女性器に突き刺されている鉄の棒を見て声を失った。それでも顔に掛けてある私のハンドタオルをはがすと穏やかな表情になっていた。
藍とも子イメージ画像(藍とも子さん)
  1. 2016/11/28(月) 09:04:04|
  2. 夜の連続小説8
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