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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ917

「身代金?それが新しい交換条件なんだな」数日後、タリバーンからの電話を受けた外交部の若手外交官は興奮気味に応対していた。先日の電話に岡倉が出て独断で助言を与えたことからペルシャ語ができる2人は手柄を奪われたくない一心で常に電話から離れず、ベルと同時に手を伸ばして奪い取っている。どうやらこれまで固執してきた捕虜と人質の交換と言う条件の変更を申し入れてきたようだ。部下の興奮した大声を聞きながら外交部の代表は軍の代表である中佐と顔を見合わせた。
「うん、うん、韓国軍の撤退も要求すると言うのか、それは・・・」この外交官が何かを言いかけたのを見て横から岡倉が電話を奪った。
「それでこの2つの条件のどちらを優先するつもりだ。うん、軍の撤退だな」岡倉に電話を奪われた外交官は殺意に似た感情を露わにしながら横から睨んでいる。しかし、代表の2名は岡倉の行動の真意を理解して黙って聞き耳を立てていた。
「切れました」そう報告して岡倉が電話を置くのと外交官が肩を掴むのは同時だった。この続きが暴力になるのは間違ない。そんな外交官の興奮に冷水を浴びせるように上司である代表の2人が交互に声をかけた。
「牧村くん、君の適切な対応のおかげで我々は交渉の糸口を掴むことができた。感謝する」「うん、我が軍の撤退を交渉材料にするには秘匿することが第1だ。不用意な告知を防いだ君の反射神経には感心するよ。まるで軍人だな」この言葉に外交官は自分が既に決定している韓国軍の撤退を口にしそうになっていたことに気づき、掴んでいた肩を放すと、きまり悪そうにその場を離れた。
韓国軍は2003年からイラクに600名程度の部隊を派遣していたが、盧武鉉政権はアメリカから要請と言う形の追加派遣命令を受け、翌年にザイトゥーン部隊と言う8000人規模の派遣を実施している。この部隊の規模を維持するためには交代要員を確保しなければならず、アフガニスタンとの2正面への派遣は無理と判断して撤退を決定していた。つまり相手が既に決定している事項を最優先とする交渉材料にしてくれたのだ。
「問題はこの決定事項を外部に漏らさないように保全することと政府首脳が苦悩しているような演技ができるかだ」「主演は大統領秘書室長の文在寅だな」代表同士の雑談的対話で随員たちも状況が掴めてきたようだ。こちらには全く苦痛がない要求を韓国政府が衝撃を受けているかのような迫真の芝居を打ち、苦悩の末に応じる韓流ドラマを演出しなければならない。勿論、その前に決定していた事実を秘匿し、撤退を打診していたアメリカ政府の関係者にも緘口令を敷かなければならないが、実務を取り仕切る文在寅の能力には疑問があった。
「文在寅は第2次南北頂上会談(=首脳会談)には熱心だが、それ以外にはあまり関心を示さないからな」政権への批判を口にしたのは中佐だった。韓国軍は自国政府の管理と在韓米軍の戦時の指揮を受けており、その二元性ゆえに国家に対する忠誠心が弱い面があることは否定できない。

「貴方、良い?」今夜は岡倉とジアエの仮眠時間が重なった。岡倉が男性用宿舎の外で夜風に当たっているとジアエが近づいてきた。カブールは海抜1800メートルの高地であっても北緯34度の低緯度であることから日中の気温は30度近くなる。日没後には20度前後になりヒマラヤから吹いてくる風が心地よいのだ。ジアエはそんな月光に浮かんだ影を夫だと察したらしい。
「お前も眠れないのか」「うん、貴方と一緒に仕事しているとそれだけで安心できるんだけど、我が国の外交官たちの無能ぶりが際立ってしまって絶望的な気分になるの」そう言うとジアエは岡倉の隣りに腰を下ろした。夫婦としては極自然な情景だが、その事実を知らない者が見ればこの上なく奇異な場面だ。男性宿舎にはこの時間、両代表と外交官の1名、さらに領事館職員がいるはずだ。
「外交官たちはプライドばかりが高くてそれが空回りしているようだな」「それに貴方への対抗意識が加わって外交交渉の基本を踏み外しているみたい」そう言うとジアエは月明かりに照らされた顔を向けた。迷彩服が影を集めて顔だけが浮かび上がっている。人目がなければ口づけを交わしたいところだがこの場では控えることにした。その代りに手を握った。
「今まで貴方の実力は成果だけでしか見ることができなかったけれど、今回は目の当たりにすることができて感激しているわ。やはり私の上司と同じ中佐、それ以上のニトーリクサ(2等陸佐)ね」ジアエは人目と言う危険を冒してこのことを言いに来たようだ。
  1. 2017/08/16(水) 09:13:15|
  2. 夜の連続小説8
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