古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

9月10日・明治用水を建設しようとした都築弥厚の命日

天保4(1834)年の明日9月10日(太陰暦)は広大な荒野であった安城ヶ原に用水を引き、豊穣の大地にする大事業を起こした都築弥厚(つづきやこう)さんの命日です。
野僧の小学校では児童に郷土史を大変念入りに学ばせていたため、隣りの安城市を大農業地帯に生まれ変わらせた偉人である都築さんについては肖像画や挿絵の情景が今でも目に浮かぶほど何度も教えられました。
安城ヶ原は海抜が矢作川流域よりも高いため水理が悪く、広大な平地であっても水田にはできず桶で水を運びながらの畑にしかなりませんでした。
明和2(1765)年に都築さんはそんな安城ヶ原でも比較的農業に適した碧海郡和泉村の大豪農で、酒造業も営む悠福な名門家庭に生まれました。
文化10(1813)年に領主である旗本・松平家から代官に任ぜられた頃から「広大な洪積台地に水を引くことができれば豊穣の大地に生まれ変わらせることができる」と考えるようになり知人の学者たちに相談を持ちかけ、やがて安城ヶ原よりも海抜が高い矢作川の上流を水源として、台地の上を流れるように用水を引けば潅漑ができるとの結論に達し、私財を投げうって測量を始めたのです。しかし、この計画が噂として流れると農民たちの間では低地である矢作川流域で頻発していた氾濫が安城ヶ原でも起こると言う根も葉もない杞憂を呼び、測量中の都築さんたちに投石などの妨害をするようになったため夜陰に紛れて、然も提灯が使えないため月夜に人目を避けながら作業を続けたのです。そんな弥厚さんを村人たちは「夜光(やこう=弥厚)狐に騙されて、安城ヶ原に水はコンコン」と言う囃し歌を作って馬鹿にしました。
こうして5年の歳月を要して文政9(1826)年に測量は完成し、翌年に詳細な実測図面を添えた「三河国碧海郡新開計画」として水源の領主である岡崎藩を通じて幕府に提出されたのです。それから7年後の天保4(1834)年に計画のうち五ヶ野原などへの着工が許可されましたが、その年の明日に都築さんは69歳で亡くなったため計画は頓挫していましました。
その後は反対していた村人のたち間で「水神の怒りに触れた」との風説が広まったため、意志を受け継ぐ者もないまま17年が経過したのですが、嘉永4(1851)年になって水源地に近い粟寺村の庄屋であった伊与田与八郎さんから岡崎藩に用排水計画が提出され、続いて明治元(1868)年に都築さんの管轄地の農民だった岡本兵八さんから「都築さんの計画の実現によって畑地を水田に変えたい」との要望が新政府に提出されたのです。しかし、その頃は政変の混乱が収まっておらず地方組織が頻繁に変わっていたため許可権者も決まらないまま棚上げにされていたのですが、ようやく現在の道府県(都はなかった)に近い形に落ち着いた明治7(1875)年になって両者の計画を一本化=都築さんの計画に近い形で正式に申請して明治11(1879)年から本流の工事が始まりました。
こうして明治22(1890)年に本流が完成すると同時に支流(筋と呼んでいる)の工事が開始され、翌年には全て完成しています。最終的には本流が88キロ、支流は計342キロに及ぶこの用水によって広大な安城ヶ原は7千ヘクタールの美田になり10万石もの収穫を上げるようになりました(岡崎藩の石高は5万石だった)。
その一方で安城の人たちは「日本のデンマーク」と自称していますがその共通点が理解できず困りました。強いて言えば平坦な地形を開拓した歴史を有することくらいですが、デンマークには血に塗られた暗黒の歴史があるのであまり賛成はできません。
それにしても明治用水は江戸時代に都築さんが私財を投じながら測量して設計図を引き、建設費の大半は地元の豪農の賛同者が提供しています。したがって「明治」などと言う年号を冠せられる理由は何もないのですが、新政府の成り上がり者どもが偉業を横取りしたのでしょう。尤も、俳人でもあった都築さんには「木枯らしも まつに移れば 松の風」の句がありますから「大事業 時代が移れば 明治用水」と言うことで納得されているのかも知れません。
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  1. 2017/09/06(水) 09:39:32|
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