古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ941

夕食の後、台所で食器を洗っていると寝室に入っていた佳織がバスローブを着て出てきた。その後には志織がついている。私は水道を止めるとタオルで手を拭いて向き合った。
「本当は一緒に海へ行って披露しようと思ったんやけど・・・」そう言うとバスローブの腰紐を外し、前を開いて脱ぎ捨て、ビキニ姿の佳織が現れた。
「もうエエ年やから恥ずかしいやけど、志織がどうしてもって言うから」「うん、お父さまの夢をかなえてあげたんだよ」志織は佳織の足元のバスローブを拾いながら説明する。寝室でこの水着ショー=ストリップの練習をしてきたらしい。伊丹駐屯地でのPKOの集合教育の時に見たスポーツ水着の若い肢体も麗しかったが、40歳に差し掛かっても体型を維持している努力への敬意を加えて感激が湧き起こってきた。ここで一物が反応すればメデタシ・メデタシなのだが日本昔話ではないので現実はそこまでは目出度くはない。されでも佳織の前に立って愛おしい肉体を観察する。堪能ではなく観察なのはやはり私の身体の反応の問題だった。
「これは少し早いお年玉かな」「うん、中身は後で見せてあげますよ」佳織は伊丹の時のイケナイ台詞を再現してくれた。

ノザキ家の新年は英語の字幕を入れる関係で1月1日に放送される紅白歌合戦を見ながらの宴になる。佳織とスザンナが腕を奮ったお節(おせち)料理を肴に酒を酌み交わす。沖縄ではオードブルだったが、日系人が祖国の風習を守っているハワイのお節の方が本格的なようだ。
「今年は歌が充実していたな」これが乾杯の後の父の今年の所見だ。その意味が理解できない私が晴れ着(=和服)姿の佳織の顔を見るとスザンナが先回りして説明してくれた。
「佳織の友人のシマダさんがハンド・メイドのスペシャルなCDを送ってくれたのよ。そのおかげでヤスト(義父)も私も持ち歌が倍になったわ」つまり守山で中隊先任だった島田曹長(私の記憶では)が、どう言う経緯かは判らないものの日本の歌を録音したCDを送ってくれたらしい。
「それじゃあ日本でカラオケのCDを買って送りましょうか」「それも送ってくれたよ」今度は義父が答える。ここまで気を遣ってくれたとなると佳織の転属、島田曹長の退官後も親密な交際があったのかも知れない。その点では指揮官としての資質は佳織の方が優れているのだろう。
「おっと始まったな」正面に座っている義父の声で全員が画面を向いたがオープニングは毎度同じだ。しかし、今年は異例な企画が幾つかあると聞いている。
「今年は紅組の司会がSMAPの仲居くんみたいですよ」「男性が紅組の司会なの」「はい、落語家の笑福亭鶴瓶が白組の司会で、ステージの両側に分かれずに掛け合いで進行するんだそうです」これは民放が年末になって紹介していた情報だが、舞台のセットも紅白両組を左右に分けていないようだ。
それからはいつも通りの展開になったが、開始早々、白組の伴奏を聞いて義父が身を乗り出した。
「おッ、この歌はCDに入っていたな」「兄弟船ですね」義父はマイクを持って来て一緒に唄おうとしたが私以外の女性陣が視線で禁じたため小声で合わせていた。
前半の最後は5月に亡くなった坂井泉水を追悼して大阪で行われているZARD のフィルム・コンサートの中継だった。この時、紅組司会の仲居が「紅白初出場です」と説明していたが、本当によく練られた演出だ。
「へーッ、これは綺麗な人だな」その映像を見て義父が感嘆したが、亡くなったことを説明する英語の字幕が流れると顔を曇らせて「勿体ない」と呟いた。全く同感である。
今回は全員で戯れるアトラクションや応援合戦などがなく、歌だけを楽しむことができて中々の企画・演出だった。その中で今度は佳織がマイクを持って来たそうな顔になった曲がある。それはクールファイブの「そして神戸」だ。
「神戸 泣いてどうなるのか 捨てられた我が身が 惨めになるだけ・・・」確かに佳織の故郷を歌った名曲だが、それでも娘の情操教育にはあまり好ましくはないようだ。
「へ―ッ、阿久悠が死んだんだ」「阿久悠ってソングライター(作詞家)の」「はい、戦後のヒット曲のほとんどは阿久悠の作品です」最後は8月に亡くなった阿久悠の追悼コーナーで和田アキ子、森進一、石川さゆり、五木ひろしが作品を披露した。するとスザンナがマイクを持ってきて唄った。
「上野発の夜行列車 下りた時から・・・」この「津軽海峡・冬景色」は持ち歌なのだそうだ。
ん・鈴木京香イメージ画像
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  1. 2017/09/09(土) 09:50:04|
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