古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ965

ジェームズは僧衣を着た暴徒たちを追っていた。中国人が経営する店舗を破壊し、数人の店主を殺害するところをイギリス人のマスコミ関係に撮影させた後、本物の僧侶たちが近づくのと入れ替わるように現場から立ち去り、今は大通り沿いにも立ち並ぶ中国人の店の裏手にある倉庫に入っている。ジェームズは自分の容貌が典型的なイギリス人であることを利用して怪しまれることなく動き回り、望遠レンズで僧衣を着た暴徒たち全員の顔写真を撮影していた。そんな暴徒たちがこの倉庫でやっているのは早急に服装を改め、犯行を繰り広げた僧侶の存在を消し去ることしかない。
ジェームズは望遠レンズを遠距離用に交換すると気づかれない距離から倉庫の出入り口にピントを合わせて待っていた。やがて興奮気味に話しながら人民解放軍の軍服を着た兵士たちが出てきたのでその顔を逃さず撮影した。狙いは言うまでもなく僧衣と軍服の人物の照合である。
おそらくBJFは僧侶たちの集会の模様に続いて、その周辺にいた僧衣を着た人間たちが罵声を上げ始め、やがては投石し、店内に乱入して店主を殺害する場面を撮影していたはずだ。この両者をつなげれば視聴者には集会に参加していた僧侶による暴動に映り、宣伝の仕方によっては中国政府によるチベット佛教への弾圧にも正当性が認められる可能性がある。
それを暴くにはその暴徒たちの正体を明らかにしてBJFの報道自体の虚偽を世界に周知させるしかないだろう。勿論、イギリス国内での中国共産党の工作員とBJFの記者の接触についてはMI5(イギリス国内の防諜組織)が捜索している。
これが共産党の宣伝媒体である中国の国営放送が国際社会での信用を得られないことに対する打開策として逆に最も信用度が高いイギリスのジャーナリストを狙ったのだとすれば情報戦略として見事と言うしかない。
この陰謀が記者個人と中国の関係によって画策されたものなのか、イギリスの労働党政権も関与しているのかはMI5の調査を待たなければならないが、不正はあくまでも処断しなければならない。問題はジェームズが無事に中国から脱出できるかだ。

「シュポサォ(起歩走=前へ進め)」軍服に着替えた兵士たちは隊列を組んで歩き始めたがパレード用のグース・ステップではなく普通の歩調だ。ジェームズが距離を置きながらついて行くと人民解放軍の敷地内にある長い2階建ての建物についた。
「リーティー(立定=止まれ)」行進の指揮は次級者が執っているようで、部隊を停止させると左に向けて自分が右端に立った。
「さて、お前たちの労をねぎらうためにもう1つ作業を命じる」指揮官の下士官は横隊に並んだ兵士たちの中央で前置き口上を述べ始めた。しかし、兵士たちはこの施設の使用目的が判っているようで目を血走らせながら鼻息を荒くしている。
「以上、順番を守って任務を遂行せよ」「チェイ(就位=気をつけ)」兵士たちの顔を見て短めに切り上げた指揮官の指示が終わると次級者が号令をかけて敬礼した。
ここで兵士たちが命じられた作業とは「民族浄化」だった。中国共産党はチベット民族をこの世から消すために生理が始まったばかりの少女たちを駐留している人民解放軍の兵士たちに犯させて妊娠させている。こうすることによってチベットには半分は漢民族の血が流れる子供しかいなくなり、それを繰り返していけば遠からず純粋なチベット民族は消滅するのだ。チベットの男性たちは子供を抱えた女性しかいないので、それを受け容れなければ結婚ができない。そして、「1人っ子政策」で効果は決定的になる。これは決して表沙汰にはならないチベット民族の悲劇だった。
ジェームズは辺りが薄暗くなるのを待って外柵を乗り越えて建物の傍に近づき中の様子を窺った。
「嫌、許して」「止めて、お願い」「お父さん、助けて」灯りが点いた部屋の窓からは少女たちの懇願の声が漏れてくる。兵士たちに褒美として与えられた「民族浄化」の作業が始まったらしい。一方、兵士たちの雄叫びは暴動を演じて同胞を殺した時と同じだった。おそらく党と国家に捧げられた生贄を屠る(ほふる)恍惚の表情をしているのだろう。
間もなくどの部屋からも身体の一部を引き裂かれ、純潔を奪われた少女たちの断末魔のような悲鳴が響き出した。その後は兵士の獣のような息遣いと寝台がきしむ音、そして少女たちの泣き声が続く。
「これがオリンピックを開催する近代国家なのか」ジェームズの身体はヒマーラヤの寒気ではなく沸き起こる怒りで震えだした。
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  1. 2017/10/03(火) 09:12:48|
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