古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ968

チベット民族蜂起記念日から4日目に始まったラサ市内での「廃佛毀釋」の嵐はBJFを通じて世界に配信された自作自演の暴動の映像に対する各国の反応を見極めるまで台風の目に入っている。それでも中国当局は事件を知って取材を始めた各国のマスコミに暴動の凶悪さを印象づけるための演出に抜かりがなかった。翌15日は土曜日であり、先進国の多くの職場では休日である。家でテレビを見ている視聴者にその残虐さを見せつければダライ・ラマ14世に代表されるチベット佛教への同情は裏切りによる嫌悪と憤怒に変わるはずだ。
そのため現場となった店舗は何も手をつけることなく公開し、商品の破片が飛び散っている床には殺害された店主の血痕が広がっている。
「・・・」そこでは遺族になった犠牲者の妻子たちが沈痛な面持ちで弔っていた。線香を上げて手を合わせているところを見ると佛教式だが、経文や念佛は唱えていない。これは「僧侶は佛教徒の中国人も殺した」「もう佛教は信じられない」と言う演出のようだ。
「ワダフゥ(我が夫)」「パァパ(お父さん)」おまけに店ごとに泣き崩れる妻、怒りに震える息子、抱き合って泣き叫ぶ母と娘などの様々な舞台が開演されており、ご丁寧に家族写真や故人との思い出の品まで持ち込まれている。これを先進国では「インテンショナル(わざとらしい)」と言うのだが、中国の大道芸ではお涙頂戴の場面らしい。
半ば呆れた顔で各店舗を撮影して回っているマスコミ関係者に案内の中国人の役人は怒りを露わにした口調で熱弁を奮っている。酒を呑んだように顔まで紅潮しているようだ。
「我々にとって3月10日はチベット民族が暴動を起こした忌むべき日なのですが、同じ中国人民になっている以上、民族としての特別な感情に配慮して集会を黙認しました。ところが1日では飽き足らず連日のように集会を繰り返し、市内の漢民族が経営する店舗に投石するようになり、次第に集会の規模も拡大してこの暴動に発展したのです」これが中国共産党の公式見解のようだ。
「14日に我々をホテルに監禁したのは、この暴動を取材されては困ることがあったのではないか」アメリカの記者の質問はここでも容赦がない。ラサ市内に到着して以来、外では常に尾行され、ホテルの部屋もルーム・サービスを演じた無断で荷物を開けていることは小型の留守番カメラで撮影している。しかし、それは帰国後の特集番組で使う予定だ。
「それはあくまでも皆さんの安全を確保するためです。先ほど説明したように集会の規模が拡大し、過激な行動が目立つようになっていたための止むを得ない処置でした」「それでも窓に近づくなと言う命令はやり過ぎだろう」「それも投石による被害を防止するためです」このアメリカ人の記者は中国の古典「戦国策」を読んでいないようだ。中国では有史以来、論戦に勝利する屁理屈の巧者は時の権力者たちに重宝がられており、弁が立つことは世に出るための才能の1つだ。
「それにしてはBJRだけは取材していたようだがそれはどう言う理由なのか」「イギリスの労働党政権と密約があったのだろう」今度はヨーロッパの記者たちが気色ばんで質問を投げつけてきた。アメリカのマスコミは全社がスクープを逃しているので優劣はないが、ヨーロッパではイギリスのBJRだけが暴動の現場を撮影していたことで本社から激しい叱責を受けていた。
「BJRの取材陣は早朝にホテルを出ていたので外出禁止の指示が間に合わなかったんです。当局としては安全確保のため行方を探しましたが、すでに集会の現場で撮影を始めていました」「要するに取り逃がしたと言うことだな」「はい、ホテルの責任者には党中央から懲戒処分を与えています」これでは事件現場の取材ではなく案内人へのインタビューになってしまうため、記者たちは質問を終えてそれぞれの中継場所を探しながら歩き始めた。

その頃、郊外の荒野では「廃佛毀釋」の炎が燃え上がっていた。広場に転がされていた僧侶たちの遺骸を人民解放軍のトラックで運び、荼毘に伏せたのだ。
チベットでは釋尊以来、火葬の風習がある佛教の伝統とは別に鳥葬が一般的である。これは遺骸を荒野に放置して肉体を鳥や獣に与えることで最期の施しの功徳を積ませるものだ。つまり僧侶たちはその功徳の機会さえも奪われたことになる。
当初は広場で民衆が見ている目の前で火葬にして佛教者としての理想を否定する予定だったのだが、遺骸を人前に晒すことを嫌う欧米人の目を避けて人知れず屈辱を与えることになった。
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  1. 2017/10/06(金) 09:40:31|
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