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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ980

本業の方は年度が替わって気分も新たにしたいところだが、副業の方は追い討ちをかけるような事態が生起した。3月31日に佛教国であるネパールでチベットから亡命してきている僧侶や難民が中国大使館の前で大規模な抗議活動を行ったところ警察部隊が武力による鎮圧を加え、当日に259名、翌日にも96名が拘束されたのだ。私は31日の就寝前のニュースで第1報を見て怒りが心頭に達し、佳織が心配した心臓発作の前に脳卒中になりそうだった。
ネパールの国王が暗愚であり、中国から提供される豪華な献上品に目がくらみ、佛教の理想に基づく理想の国造りを目指しているブータンとは逆に中国に擦り寄っていることは以前から聞いているが、各国の佛教教団が中国に対する抗議とマスコミの誤報を修正させるべく動き始めた直後にこのような暴挙を行えば中国の「僧侶による暴動」と言う世論工作を肯定・助長することになる。
「これではネパールの王家は遠からず倒れるな」出勤しながら買った新聞各紙でこの記事を読み、人徳が欠片もなさそうな国王の顔写真を見て私の中に妙な確信が芽生えた。確かにこの愚王はブータン国王やチベットのダライ・ラマ14世と比べるのが申し訳なくなるような醜悪な顔立ちだ。
それでも大半の新聞はチベットの対応を「チベットでの暴動を受け」と表現し、完全に中国の主張を肯定している。これでは新年度早々に殉職してしまうかも知れない。それを防ぐためささやかな抵抗だが新聞社の編集部に僧侶の肩書で抗議の電話をしておいた。

「チベットに続くネパールの暴挙に日本の佛教界も怒っていることだろう」「我々と一緒に国際社会に向けて抗議の声を上げて欲しい」「我が国でも中国大使館に抗議声明を提出した。日本ではどのような活動を行っているのか」「我々はネパール国王の裏切りを許さない」案の定、ネパールの暴挙を受けて南方佛教の僧侶たちから激烈な手紙が届いた。電話番号を教えていないので手紙ですんでいるが、教えていればベルが鳴りっ放しになって近所に迷惑が掛るところだった。そんな中で日本の実情を熟知しているタイの僧侶の手紙には辛い言葉がつけ加えられている。
「やはり正式な佛戒を受けていない日本の僧侶たちは佛教への弾圧に無関心なのか」確かに日本の僧侶が受けているのは釋尊以来の佛戒ではなく伝教大師が創始した大乗菩薩戒なので、海外では正式な佛教僧とは認められていない。おまけに明治の太政官布告で妻帯、肉食、蓄髪が認められたため、正式以前に僧侶とさえ見られていないのだ。
「これは何とかしないと・・・」そんなどうにもならないことを考えながらようやく閲覧の仕方を覚えたインターネットで佛教徒の抗議行動に関連する記事を見ると衝撃的な画像が掲示されていた。それは第2次インドシナ紛争当時の1963年の6月11日に南ベトナムで熱心なカソリック教徒だったゴ・ディン・ジエム大統領の佛教弾圧に抗議して焼身遷化したティック・クアン・ドック師の画像だった。ドック師は結跏趺座=坐禅の姿勢のままで火に包まれている。
「最早これしかないな。日本の僧侶が焼身遷化すれば海外でも大きく取り上げられるだろう。声明はテレビと新聞社に当日に届くように送ればニュースでも目的を変質されることもない」北キボールPKO以来、私の中で燃え上がることがなかった使命感の炎が噴き上がってきた。やはり武人にとって死処を得ることは無上の慶びであり、存在理由でもある。
「自衛官としては不動の姿勢の方が良いな。立ったままならガソリンをかぶって火を点けるだけだから数秒ですむ・・・なもあみだぶ、なもあみだぶ、なもあみだぶ」整列休めをしている自分が炎を包まれる姿が頭に浮かび、その恍惚の中で自分を弔う念佛が口から出る。覚悟が決まったところで具体的に実施計画を考え始めた。
「問題は警備をしている警察官も外国の佛教界が抗議行動を起こしていることを知っているだろうから大使館前まで近づけるかだな。ガソリンを発見されればその場で身柄拘束だ」まさか法衣姿でガソリンの携行缶を提げて行く訳にはいかないので他の金属製の容器に詰めていくことになるが、職務質問のついでに所持品検査を受ければ一巻の終わりである。
「中国大使館の隣りは消防署だったぞ。つまり消防車が駆けつける前に手がつけられないほど炎上する程度のガソリンとなると少量では駄目だな。するとやっぱり携行缶になるか」これは自ら命を絶つ計画なのだが、本当に冷静で気楽に思考が回転していく。私の中には「死に対する恐怖」と言う感情が存在していないようだ。ところで「熱い」と感じている時間は長いのだろうか。
  1. 2017/10/18(水) 09:11:06|
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