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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ983(ほぼ事実です)

長野からの聖火リレーは4月26日のことなので阻止に向けた内部工作は緊急を要する。通常であれば礼を尽くして書簡で連絡を取るのだが、今回はその場で返事を聞けるよう電話を掛けるしかない。先ずは相手が話を聞くだけの肩書を用意するところからだ。
「猊下、お久しぶりです」課業時間中に抜け出して允可を賜った管長猊下の自坊(自分の寺)に電話をした。善光寺は天台宗と浄土宗が交代で住職を務めているため浄土宗の元管長の弟子となれば粗略に扱うことはできないはずだ。これまでは管長猊下に迷惑がかかることを懼れては電話をしなかったのだが、ここは利用させてもらうしかないだろう。
「おう、念佛者か。初めて電話をくれたな。お主のことだから用件はチベットの問題と聖火のことだな」「はい、その通りです」やはり猊下も善光寺からの聖火リレーには納得していないようだ。ただし、管長を引退して息子さんに後を譲っているため表舞台に立つことを控えているらしい。
「チベットの暴動は中国軍の兵隊が僧衣を着た偽物なんです」「ワシも元兵隊だ。そんなことは判っておる」やはり見る者が見ればあれが軍隊式の指揮統率の下で行われたことは一目瞭然のようだ。
「それでワシの代わりに善光寺に談判してくれると言うのだな」「はい、お名前をお借りしたいのです」「残念ながら今は天台宗が住職をやっているから余り効き目はないだろうが、上手く使って佛教徒として採るべき態度を判らせてやれ」「はい、身命を賭して遂行します」若し、善光寺からの聖火リレーを阻止できなければ法衣姿で境内にいて山門をくぐる前にランナーからトーチを奪い、隠し持ったガソリンをかぶって聖火で焼身するつもりだった。どうしても発想がそちらへ向かってしまうのは職業病と言いたいが、他の自衛官はそうでもないので私個人の持病のようだ。

「浄土宗の前管長・司馬萬応の徒弟でモリヤニンジンと申しますが上人(住職)さまは御在山ですか」流石は猊下の名前は威力がある。電話の向こうで侍者が姿勢を正したのが判った。
「誠に申し訳ありませんが、住職は他出(外出)しておりまして代わりに寺務担当者がお話しを伺います」「もしもし、代わりました寺務の××です。浄土宗の方なんですね」寺務担当者はこちらが返事をする間もなく電話を替わったが、この口ぶりは「今は天台宗が取り仕切っている。面倒な話は自分たちが担当している時にしろ」と言いたいらしい。
「実は4月26日に行われる北京オリンピックの聖火リレーの件なんですが」「ああ、檀家さんを連れて見学に来られるから宿房を確保したいと言うんですね」やはり寺務=庶務の担当者だけに発想はサービス業になるようだ。しかし、私は真逆の用件を投げつけた。
「ご存知ように中国はチベットで佛教の僧侶を弾圧しました。その中国が開催するオリンピックの聖火リレーに善光寺が使われることは日本の佛教が中国に膝を屈したと言う印象を世界中に発信することになります。どうか拒否して下さい」この強烈な一撃に庶務担当者は絶句してしまった。このような時ば電話口を押さえて周りにいる者と対応を相談するものだが、それもせずに荒い呼吸だけが聞こえてくる。やがてかすれた声で反論を始めた。
「新聞やニュースではあの事件をダライ・ラマの穏健な抵抗運動に不満を持った過激派の僧侶が、中国人が経営する店を破壊して中国人とイスラム教徒を殺害したと言ってるじゃあないですか」これが私にとっては飛んで火に入る夏の虫の答えであることを電話の相手が知る由もない。
「実は私のところ(寺とは言わない)にはタイ、スリランカ、カンボジア、ブータンの僧侶たちから事件の詳細と中国の世論工作の実態を知らせてきているんです。それによると中国は人民解放軍の兵士を僧侶に変装させて暴動を演出したんです」庶務担当者は再び絶句してしまった。その待ち時間に私は缶コーヒーを一口飲んで次の弁論の準備を整える。
「それもチベット側が公開した証拠写真が偽物だったと・・・」「それを公開した人間が中国の工作員だったんです。どちらにしろ世界中が善光寺に視線を注いでいます。共産主義側に立つか佛教側に立つか答えは1つでしょう」流石にここまで追い詰めると相手が哀れになるが生命まで奪わないだけでも幸いとしてもらおう。ところが敵もサル者、引っ搔く者で予想外の粘り腰で喰い下がった。
「県や市からは『この機会に中国からの観光客を誘致したい』と協力要請を受けているんです。我々としても参拜者を増やしてから浄土宗に引き継ぎたいと考えています」事態を全く理解せずにこのような低次元な理由で拒否するのも日本の佛教界の一員としては至極当然な対応だった。
  1. 2017/10/20(金) 09:13:00|
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