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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ985

4月12日の土曜日に日帰りで長野市へ出かけた。主たる目的は言うまでもなく善光寺参りだ。
善光寺は北陸新幹線の長野駅で下りて長野電鉄に乗り換え、2駅目の善光寺下で下りれば歩いて行ける距離だ。留袖式の略衣(曹洞宗で言うところの改良服)に浄土宗の略威儀を掛けて歩いて行くと山門脇の案内所の若い僧侶が立ち上がって合掌して頭を下げた。
「こんにちは」歩み寄って声をかけると彼は驚いた顔をした。どうやら電話で話した相手らしい。
「善光寺の若い方が聖火リレー反対運動を始めていることはテレビで見ていますよ」「やはり・・・」私が自己紹介の代わりに参詣目的を説明すると彼は黙ってうなずいた。最近、テレビの報道バラエティーでは善光寺の若い僧侶たちが聖火リレーのスタート地点となることを拒否する運動を起こしたことを取り上げ、それを「善光寺決起」と呼んで賛否両論の立場で報じ始めている。さらにチベットでの事件についても海外で飛び交っている情報を紹介するようになり、ようやく国際標準に半歩近づいた感じだ。周囲を見回すと受付に用事がある観光客はいないようなので頭陀袋から大き目の茶封筒を取り出して中の資料を彼の前の台に広げて見せた。
「これは・・・」「南方佛教の仲間たちから届いた資料です。説明は私が日本語に翻訳しました」すると彼はもう一度、周囲の状況を確認した後、資料を手にとって読み始めた。
「酷い、こんなことが行われていたなんて」チベットの僧侶たちの遺骸が山積みになっている写真みて顔を強張らせた後、それが治療に名を借りた薬殺であったことを読み、驚きや怒りを通り越して絶望的な顔になった。
「この写真はチベットの若者が携帯電話で撮影して警官隊に捕縛される前に亡命者の友人に送信したものです。説明については徒歩でヒマラヤを越えて国外へ逃亡したチベット人に写真を見せての証言です」どの資料にも僧侶の悲惨な遺骸と市民への弾圧の写真と証言がつづられており、それを見ている若い僧侶の顔は受付の営業用にはならなくなってくる。すると彼は更にもう一度周囲を確認してから声をひそめて説明を始めた。
「実は寺の幹部たちと私たち納所(雇われている僧侶)の間で聖火リレーに関する意見交換の場がもたれているんです。寺には私たちを支持する書簡や電話が殺到していて幹部たちも県や市の担当者との板挟みになって困り切っているようです」「観光客の獲得と佛教への弾圧を同次元で考えること自体が大間違いでしょう」私の賛同に彼は意を強くしたように頬を引き締めた。
「この資料の他に3月10日からラマ市内で繰り広げられた破壊の時、指揮官役の僧侶が北京語で指示している音声や軍隊式の姿勢で団体行動している様子を撮影した動画のディスクも入っています。意見交換会で幹部の方たちに見せることができれば結論は1つしかなくなるでしょう」そう言って彼の前の資料を茶封筒に納め、中のディスクを取り出して確認させてから手渡した。
すると山門の外が騒がしくなってきた。どうやら右翼団体の街宣車が山門前の参道の入り口に停車して演説を始めたようだ。私は歩いてきた道を逆戻りして街宣車の前に立った。
街宣車は黒塗りの車体に鮮やかな軍艦旗を描き、黄色く太字で大きく「日教組壊滅!」と書き殴ってある。屋根の上には4方向に大きなスピーカーが付いており、街宣車の前でマイクを持って喋っている黒づくめの服装の代表の声が大音響になって噴出している。
「我々は毛沢東によって侵略されたチベットで中国共産党が繰り広げた大虐殺を決して許さない。今回、その中国が開催する北京オリンピックの聖火リレーが当地・長野市から開始されることを日本民族の恥辱と考えていたが、善光寺の僧侶たちがそれを拒否した壮挙に心から喝采を叫びたい」言っていることは私が扇動していることと大差はないが、そもそも右翼団体は国家神道の再現を主張しているので佛教への弾圧は批判の材料にはしていない。しかし、右翼にこれをやられてしまうと平和主義の参詣者たちに逆の感想を与えかねないのではないか。
最近、東京や名古屋では26日の聖火リレーのスタート当日に在日中国人を動員して長野に向かう計画が発令されているとの情報もある。幹部たちが寺をこのような政治問題に巻き込んだ責任を納所たちに押しつけて沈黙させれば、聖火リレーは予定通りに拜殿前からになってしまうだろう。それが日本の佛教界的には「波風が立たず丸く収める」方法なのだ。
それでも4月18日に善光寺はスタート地点の辞退とその時間帯に中国人とチベット人の犠牲者の追悼の法要を行うことを発表した。
  1. 2017/10/22(日) 00:05:42|
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