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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1041

沖縄では岡倉が目標=北朝鮮の工作員の特定に懸命になっていた。この日も那覇市内の映画館で在沖縄米軍キャンプ内にあるDIA(国防情報局)の支局長と会っている。沖縄では米軍基地やキャンプには反対派が常に監視の目を光らせているため迂闊に訪ねることはできないのだ。
「ルテナン・カーノー(2佐)、君の地道な探索が効果を発揮したようだ」那覇市内の映画館で前後の席に座って小声で話し始めると支局長はいきなり本題に入った。平日の昼間に上映されている洋画では観客は少なく周囲に人はいないからこれも許されるようだ。
「先日、那覇市内から中国の対外工作機関に向けての発信電波が確認された」映画の台詞の音声に合わせて話をするため途切れ途切れの説明を頭の中で編集しなければならない。
「口頭での暗号は隠語の組み合わせだから翻訳は簡単だった」これは支局長が自分の手柄を伝えようとしているらしい。イギリスのジェームズやイリアにはこのようなところはない。それだけアメリカ軍の諜報要員は「甘い」と言えるのかも知れない。
「それによると那覇市内に韓国の工作員が潜入した。対処を頼むと訴えていた」それはおそらくコンビニエンス・ストアでキムチを買っていた吊り目の男だろう。あの夜、路地の入口に立っていた男は恐ろしい程の殺気を発していた。その殺気は自分を守るための自己防衛本能の強さでもある。
「一方、中国の混乱ぶりはお笑いだった」今回の台詞は意外に短かったため話は途中で切れた。それで出演者たちが互いの心情を語り合う場面を待って話を再開した。
「始めは沖縄県警に不法入国者として逮捕させると言って県首脳に命令を送ったんだが、それでは北朝鮮の殺し屋も見つかってしまうから取り止めた」思わず苦笑してしまいそうな失敗談だが、会話をしている訳ではないので画面に集中しているふりを続けた。
「次は見つけ次第、殺害しろと命じたのだが、那覇市内で殺人事件を起こせば同じことになるからと県首脳が反対した」その殺害されるのが自分であるかと思うとアメリカ人の無神経さに怒る前に呆れてしまった。
「結局、韓国政府内の政治工作員に事情を確認するから待てと言うことで保留になった」こうなると岡倉としてはジアエに連絡を取って韓国側の動きを探りたいところがまだ産休中だった。
「それで電波の発信位置は特定できたのか」次の台詞では岡倉が話した。しかし、前の席では声が後ろに届きにくいので少し音量を上げなければならない。そこで携帯電話を取り出して日本語の独り言として話した。
「うん、場所については地図を君の座席の下に置いて先に帰る」ここで岡倉は支局長の独り言が耳障りだったかのように振り返って睨みつけた。これは対話を終える合図だった。

「やはりあのコンビニに徒歩で行ける距離だな」地図には何も目印が付いていなかったが、アメリカで使用している特殊なライトで照らすと4カ所のビルに星のマークが印してあった。どうやらこのビルの屋上で中国に連絡を入れ、返信もここで受けたようだ。吊り目の男と接触してからはあの地域には立ち入らないようにしているが、数棟の空きビルが建ち並んでいる場所であることは判る。おそらく最初に感知した電波で那覇市内に潜伏している同士に連絡したのを追跡し、応答した電波も把握したことで4人全員の所在地を特定したのだ。
「中国の連中はアメリカ軍の通信傍受能力を舐めていちゃあいけないな」岡倉は中国が県首脳に命令を送った件を思い出し、冷やかに笑った。日本軍はアメリカ軍の通信傍受と暗号解読によってミッドウェイ作戦の失敗や山本五十六連合艦隊司令長官の待ち伏せなどの苦杯を飲ませられている。敗戦後、新たに設立された海上警備隊は同盟軍として情報を共有するようになり、戦時中にアメリカ軍が解読していた帝国海軍の通信文を見せられて愕然とした。それは完全に筒抜けであり、唯一、有効に機能していたのは鹿児島出身の通信員を配置して文章を鹿児島弁にしたことくらいだった。
「後はこのビル付近で目標が確認できれば俺の仕事は終わりだ」今回の任務では杉本はイギリスへ行き対テロ要員の実技講習に立ち合っている。自分も経験した目標の抹殺処理を名前や顔、氏名や所属も知らない同僚たちが経験しているのだ。
「帰りは聖也(セインヤ)の顔を見に寄りたいよ」岡倉は陰鬱になっていく自分の気持ちを救うため叶うはずもない願いを呟いてみた。
  1. 2017/12/17(日) 00:15:28|
  2. 夜の連続小説8
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