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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1318

杉本にはソウルの安楷林(アン・ヘリム)のマンションに帰る前にやるべき仕事があった。引き揚げられたコルベット・天安の艦体に国防部と海軍が発表した通りに外部からの衝撃の痕跡が存在することをこの目で確認しなければならない。
天安はサルベージ船で金浦港内の造船所の乾ドッグに運ばれて今は艦底まで露出している。しかし、そのドッグは韓国海兵隊によって厳重に警備されていて立ち入るどころか迂闊に接近することもできない。こうなると久しぶりに陸上自衛官としての血が騒ぎ出した。
杉本はチェックアウトする前に「金浦市内の全景を撮影したい」とフロントに断り、ホテルの屋上からドッグの方向を確認することにした。このような時にはジェームズから入手したカメラ型の望遠鏡を使う。これは通常の写真撮影用の能力を超えた解像度の望遠レンズが装着されており、夜間用の赤外線機能も有している。ただし、カメラ本体は日本製の改造だ。
「やはりドッグ周辺のビルには狙撃兵が配置されているな」ホテルの屋上もドッグの方向には目隠しのためなのか新たに看板が設置してある。杉本は監視カメラがないことを確認した上で身軽にエレベーターの乗降口の建物によじ登った。するとドッグへの接近経路上にある輸入業社のビルの屋上に人影とライフル銃の銃身が見えた。韓国軍の職務権限では特別警備の任務にある軍人には警備対象を防護するために武器を使用することが許されている。
そこまで秘匿する必要がある艦体は何が何でも確認しなければならない。ここで命を落とせばあの世で再会する予定のチベットで死んだ村田にも胸を張れるはずだ。その一方で自分の手駒に堕としたサンディ・クミコ・トミタ少佐は官能剤の副作用の狂おしい性欲の衝動を解消する手段を失うことになる。昨夜、女性器から官能剤を吸収したクミコはそれまで保っていた恥じらいとためらいを消失し、1匹の女獣と化してよがり狂った。それでも本人は身体に残る快感の余韻以外は記憶していないだろう。
深夜、杉本はドッグから遠く離れたフェンスから金浦港の敷地内に侵入した。スパイ映画などでは海を泳いで侵入するのが見せ場だが、そのような経路は海兵隊も予測しており、桟橋には実弾を装填した小銃を持った兵士が配置されていることは間違いない。車両に隠れて正面ゲートから潜入する方法もあるが映画のように上手くいくはずがない。
杉本はレンズを広角用に替えたカメラを赤外線仕様にした。靴は足音がしないようにスポーツ・シューズにしている。そして建物や設置物の間を小走りで移動しながらドッグに迫った。停止する度にカメラで周囲を確認することは言うでもない。
ドッグの周りにもフェンスが設置されているが問題は赤外線の警報装置だ。杉本がカメラで警報装置の赤外線を確認するとやはりフェンス内には3条の光線が走っているようだ。
ドッグの周囲はコンクリートで固められているため自衛隊の演習で経験したように下を掘って潜り込むことはできない。ペンチで網を切断する荒技もあるが、侵入した痕跡を残すのは素人の仕事だ。杉本は周囲を確認すると助走をつけてフェンスの支柱を蹴り、一番上の有刺鉄線を掴んで内側に身を投げ入れ、支柱を蹴って飛び降りるとそのままドッグに駆け寄った。
コルベットは小型の戦闘艦だけに艦体の高さは6メートル弱しかない(吃水高=水面から甲板までの高さは2.9メートル)。影を見る限り「2つに分離した」と言うのは正に艦橋中央で真っ二つになったようだ。
ドッグは飛び降りるにはかなり高いが階段には歩哨が配置されている可能性が高い。そこで杉本は膝を緩めて飛び降りた。これが空挺出身だった村田なら「1降下、2降下」と数えるところだ。
「やはり側面に魚雷が命中した穴がある。発表通りじゃあないか」傷む膝をさすりながら艦体に辿りついた杉本は赤外線カメラで損傷を確認した。すると吃水の下に50センチほどの穴が開き、中で爆発したらしく舷側に膨張と裂けたような切断部分が判った。どうやら魚雷の爆発で艦橋下部の燃料タンクが誘爆して一瞬のうちに艦体が断裂したようだ。
「これなら国防部は嘘を言っていないんだから一般公開すれば良いじゃあないか。何故、隠すんだろう」そう言って首を傾げた時、トミタ少佐が口にした韓国海軍の評価を思い出した。
「韓国海軍の艦艇はトップ・ヘビー(上部構図物が過重)で復元力が低いため運動性が劣る上、艦体の構造が脆弱だから外洋で行動できるだけの能力がない」トミタ少佐はアメリカ海軍よりも優れた海上自衛隊の艦艇を絶賛した後、韓国海軍を厳しく批判した。それは艦艇に留まらず訓練や規律、上級指揮官の能力も対象になっていた。
「要するに艦体の構造上の欠陥が発覚することを避けたいんだな。日本を合同調査団に加えないのは造船技術の稚拙さを隠蔽する理由もありそうだ」そう推理した時、李明博大統領が建設業の出身だったことを思い出した。この調子で欠陥住宅を建設していたのだろうか。これなら韓国が中国に乗り換えるのを後押しした方が捨てた祖国・日本のためではないか。
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  1. 2018/09/21(金) 09:16:45|
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