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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1319

突然、杉本の背中に戦慄が走り、反射神経が身を伏せさせた。その時、カメラがコンクリートに当たり音を立てた。その固い金属音が密封空間になっているドッグに響いた。
杉本はそのままウェスト・ポーチを背中に回すと第4匍匐で艦体を50センチほど浮かせている盤木(ばんぎ=支え)の下へ前進して身をひそめた。
盤木から覗くと先ほどまで自分が立っていた位置に兵士の軍靴が見える。巡回に回ってきたようだ。艦体の確認に気を取られていれば発見されるところだった、
「確かに物音がしたんだが・・・」兵士が呟いている独り言が聞こえる。ここで無線連絡されれば拙い。むしろ潜入取材したマスコミ関係者として拘束され、謝罪して釈放を待つべきかも知れないが身元調査されると怪しい点は山ほどある。かと言って日本の在韓国防衛駐在官の特別命令と申告する訳にはいかないのは当然だ。
「下手に応援を呼んで何もなかったじゃあ文句を言われるだけだな。確認だけして気のせいと言うことにしておこう」かつては強さではイスラエルの空挺旅団と双璧と評されていた韓国海兵隊の士気も随分と落ちたものだ。これでは古巣と大差がないのではないか。
杉本がそんなことを考えている間に兵士は這って艦体の下に入ってきた。ここで発見されれば第1案は潜入取材のマスコミを演じる。第2案は・・・杉本は腰に回していたウェスト・ポーチの中から糖尿病患者用のインスリン注射器セットを取り出した。そして注射器に針を装着すると試し射ちをした。これもジェームズから入手した世界最強の毒蛇・マンバから抽出した毒薬注射だ。この薬が体内に注入されれば数秒で心臓麻痺に似た症状で死亡する。遺骸は艦体の脇まで引き出して前向きに倒しておけば巡回中に心臓麻痺を起こして死んだことにできる。杉本は第2案を選択した。
「おやッ、こんなところに大きなボルトが落ちてるぞ。これが下に落ちて音を立てたんだな。全く紛らわしい。」杉本が上から襲いかかり背中に注射器を突き差す準備を終えて待ち構えていると兵士は2メートル手前で勝手に納得して引き揚げていった。取り敢えず若い兵士の生命は救われ、杉本も目的を達して引き揚げることができる。
翌朝、ソウルに戻った杉本は韓国大使館に直行した。その前に駅のトイレでスーツに着替え、身嗜みを整えるのは取材を装うための手順だ。
「駐在官、ウィクリー・ジャパン誌の韓国特派員の金田さんが面会に来られています」大使館では陸上自衛隊・1等陸尉の制服を着た在外公館警備官が秘書のように案内した。
「おう、久しぶりだね。コーヒーを頼む」防衛駐在官の立林1佐は報告文書を作成していたようでパソコンに向かっていたが、在外公館警備官に接遇を指示するとマウスを操作して電源を落とし、立ち上がってソファーを勧めた。2人がソファーに腰を下ろすのを待ったかのように中年の女性事務官がコーヒーを運んできた。
「それで今日は報告だね」「はい、天安の引き揚げが終わりました。1つの区切りがつきましたから一度帰国します」立林1佐は事務官が退室するのを待って会話を始めた。
「夜間、天安の艦体を確認しましたが外部からの衝撃、ハッキリ言えば魚雷が命中したことは間違いないようです」「それでは韓国海軍の発表に嘘はないと言うことだな。それにしても君が無事で好かった」立林1佐は安堵したような表情を浮かべてコーヒーを口に運んだ。
「嘘はないのですが隠していることもあるようです」そこに杉本が水を差したので立林1佐は飲みかけたコーヒーにむせそうになった。
「隠蔽していると言うと沈没原因は外部からの衝撃だけじゃあないってことかね。弾薬か燃料が誘爆したんじゃあないのか」立林1佐は陸上自衛官だけに艦の構造となると専門外のようで渋い顔をしてコーヒーの続きを飲んだ。
「直接的な原因としては外部からの衝撃と誘爆ですが、あれほど簡単に沈没したのは艦体の構造に問題があったようです」答え合わせをしながら杉本も酸味が強いコーヒーを口にした。
「国産の艦艇の構造の脆弱性と復元力の弱さが露呈することになるので韓国政府は艦体を一般公開せず、日本の関与を拒否しているんでしょう」「やはり君も韓国政府の変心には気づいているようだな」立林1佐は報告とは別の反応をした。つまり韓国が軍事上の弱点を秘匿するのは日本を敵視していることを意味する。立林1佐は前回の報告の時、杉本がさりげなく対馬奪還作戦に触れたのには反応しなかったが、やはり気に留めていたようだ。
「それを含めて防衛省に報告したいんだが大使の決済を受けないと公式電文にはできない。帰国したなら君たちのルートでアメリカから報告して欲しい」これが杉本を呼んだ立林1佐の真意だったらしい。しかし、日本の雀山政権と外務省はそれどころではなかった。
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  1. 2018/09/22(土) 09:22:31|
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