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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1329

アメリカに帰った杉本は不可解な職場の雰囲気に困惑を通り越して混乱していた。昨日、工藤と一緒にワシントンで防衛駐在官・諸西将補に韓国の現状と日本の現政権に対する認識を報告したのだが、工藤はそのまま留まって今後の活動方針を話し合っている。一方、杉本はこの時間を利用して同僚たちに不在間の出来事を説明させることにした。
杉本も韓国から出発する直前に安楷林(アン・ヘリム)からニューヨークで開かれた核セキュリティ・サミットに出席した雀山首相がオバマ大統領との非公式な10分間の立ち話しでイランへのイランへの制裁を支持することを表明したにも関わらず「キャン・アイ・トラスト・ユー(私は貴方を信用できるのか)」と不信を投げ掛けられたことは聞いている。
ところがこの現場に岡倉と松本がアメリカ側の取材陣として立ち合っていて実際は漏れ伝わっている以上の痛烈なやり取りだったことを説明した。
「アメリカ側は在沖縄アメリカ軍を通じて民政党政権が相変わらず辺野古移転を阻止する方向で行動していることを把握しているんです」岡倉の説明に韓国の問題に掛かり切りになっていた杉本は先ず困惑の表情をした。そこで松本が補足説明した。
「3月に辺野古を管轄する名護市の市長選挙が行われたんですが、民政党は移設反対派の候補を擁立して賛成派の公明党を破って当選させたんです。その選挙では与党になっている社人党の党首などが大挙して応援に駆けつけて『移設阻止は雀山内閣の政権公約だ』と宣言したんですからオバマ政権が不信感以上の裏切りと考えたのは当然でしょう」韓国国内で日本を見捨てて中国に乗り換えようとする動きが出たこともこれで納得できる。韓国は大統領の任期である5年間は政権交代がないのでその感覚で見れば日米同盟の崩壊には十分な時間だ。
「日本のマスコミはオバマの言葉を柔らかく変質させて漏洩しましたが、私が聞いたのは『アイ・キャント・トラスト・ユー(私は貴方を信用できない)』でした。私たちの周りには中国や韓国の記者がいましたから母国にはこちらで報告したのでしょう」岡倉は説明し終えて手に持っていたマグカップのコーヒーをすすった。現政権の外務大臣は日本有数の大手スーパー・マーケットの創業者の息子だが本人は東京大学卒の元通商産業省の官僚で中小企業対策を担当していたらしい。その意味では国内内向きの政治経験しか持っておらず、そんな人物を御輿に担ぐ外務官僚は一日の大半を大臣への説明に追われ外交どころではないはずだ。
「韓国でも日本側が漏洩した情報が伝わっていたけどな」「韓国の記者は朝日新聞の顔で日本側にも紛れ込めるんですよ。見た目は似たようなものだから片言でも日本語を話していればセキュリティも気がつかない」今回は朝日新聞と韓国のマスコミが一心同体であることについて説明を受けてきたが、それが海外でも行われていることを今更ながら認識した。
「それにしても外務省の緘口令を記者連中がよく呑んだな。自民党政権だったら言論封殺だってその場で騒ぎ出しそうなものだが」「その点は粗探しの反対の良いとこ探しに懸命だったから・・・やっぱり自分たちが作り出した大事な総理大臣を傷つけるようなことは書けないんでしょう。今田(本間の偽名)、嫁の方の説明をしろ」ここで岡倉が自分の席でチャイナ・タウンで買ってきた香港の中文(=中国語)新聞を読んでいる本間に声を掛けた。実は本間自身は今回の韓国への同行を拒否されたことに不満を抱いている。勿論、杉本の韓国での活動を思えば一応は女に分類される本間を同行することはできないのだがそれを説明するはずはない。
「今回、私が雀山の妻である辛(かのと)の随行取材を担当しました」この口調は完全に業務報告だ。杉本が本間に接する態度は最近アメリカでは問題になり始めたパワハラそのものなのでこれも仕方ない。ところが杉本はこんな本間の率直な感情表現に妙な愛らしさを覚えた。
「雀山の妻は使いものにならなかった端役とは言え元宝ジャンヌだろう。そんなスターの卵の片鱗くらいは見えたのか」珍しく杉本の方から質問をした。それを聞いて岡倉と松本は驚いたように顔を見合わせたが、本間は表情を変えずに説明を再開した。
「スターの素養は片鱗どころか微塵もないんですが、本人は芸能人風の馬鹿丸出しで公式行事を荒らしまくっていたのでアメリカ側の取材陣からは侮蔑の失笑が起こっていました。それでも日本側は芸能レポーターのような女性記者ばかりでスター気取りのファッションや常識外れの派手な立ち振る舞いだとかを賞賛しながら質問していたんです」「夫はアメリカ大統領に不信を突きつけられて脂汗をかいている時に妻は芸能人ごっこかァ。話にならんな」杉本が切って捨てたところに本間が重要な情報を話し始めた。
「実は雀山辛に中国人の記者が単独で接触を謀っているのを目撃したんです」岡倉と松本は既に聞いているため平然としているが杉本は驚いて飲みかけたコーヒーをマグカップの中に吐き戻してしまった。海外情報要員の状況説明としてはこれを最優先するべきなのだが、本間郁子3佐の感覚はやはりどこかずれているようだ。
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  1. 2018/10/02(火) 10:44:03|
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