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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1333

沖縄の朝山3佐の調査は収集がつかなくなっている。沖縄県庁、那覇市役所の幹部職員だけでなくサッカーとトランペットを通じて公立の高校、中学校、小学校の教員にまで知り合いを作ったが、親しくなって酒を酌み交わすようになっても全員が当り前な顔をして反米反日親中を公言するのだ。ただし、「日本からの独立論」は冗談に過ぎず、本音は「このまま金をたかっていれば良い」と言う公務員の発想であり、中でも教員たちは「明治以降の圧政と搾取に対する賠償補償」と理解しているようだ。つまり子供たちにもそのように教えているのだろう。
その一方で「最低でも県外、できれば国外」と雀山首相が選挙公約した時には「アメリカ軍は自分たちが生まれた時から存在した」と諦めていた現実が政権交代によって動き始めると信じて一票を投じたのだが、あれから半年が経っても何も動かない。今では定年退職して本土から移住してきた学生運動の活動家から教師や公務員になった連中の「辺野古への移設を阻止する」と言う反米・反基地闘争に同調することで自己満足している。
「朝山3佐、辺野古に関して興味深い噂があるんだが知っているか」今日もジョギングの途中で沖縄地方情報保全隊に寄ると証3佐が笑顔で迎え入れてそのまま隊長室に連れ込んだ。
証3佐も短パンにTシャツ姿なのを見るとこれからジョギングに出掛けるところだったようだ。それにしても情報保全隊長は運動不足気味のようで鍛え抜いた朝山3佐と同世代とは到底思えない体形だ。勿論、肥満体ではないが筋骨隆々と言う訳でもない。
「いきなり知ってるかと訊かれても判るはずがないだろう。ネタは何なんだ」朝山3佐の反論に証3佐は自分の失敗を苦笑で誤魔化しながら今度は外に出た。
「チョッと待っててくれ。準備運動をするから」そう言いながら証3佐は芝生の上で屈伸を始める。航空自衛隊の那覇基地は移管された頃には米軍時代の青々とした全面の芝生が広がっていて風景はアメリカの郊外のようだったが、歴代の偉い人さんが「殺風景だ」と言って本土から運んできた樹木を植えさせたため随分と狭苦しくなってしまった。それでも運動をするには最高の環境だ。軽い準備運動の後、2人は並んで走りだした。
「実は辺野古周辺の土地を民政党の尾沢一郎が買い漁っていると言うんだ」「尾沢が・・・」その名前を聞いて朝山3佐の神経は逆立った。尾沢一郎は自分が足を引っ張っていた宮沢政権の政治改革が進展しないことを批判して自民党から飛び出すと多くの政党を作って壊した揚げ句に現在では民政党のトロイカ体制の1頭になっている。しかし、朝山3佐にとっては息子を海上自衛隊の一般課程に入隊させながら「元幹部自衛官」と言う海外向けの箔付けだけで退職させたことは息子本人への悪評も加わって絶対に許せなかった。
「それにしても民政党は政権交代の選挙の時、『最低でも県外』と辺野古への移設に反対したんだろう。それがどうして尾沢が辺野古の土地を買うんだ」朝山3佐は興奮すると走る速度が上がる。このため証3佐は息苦しくなったのか返事をしない。そこで少し速度を緩めた。
「そこなんだよ。アイツのことだから反対することで利用価値を失わせれば土地の価格が下がるからそこで買い占める。その後で移設決定となれば価格は跳ね上がる。そこで売りに出せば濡れ手に粟の政治屋丸儲けと言う寸法だ」確かに尾沢の利権漁りは田中角栄・金丸信直伝で仙台防衛施設局にいた同期も大湊や八戸の基地の施設を建設する業者の選定に毎回のように関与してきて非常に悩まされたと言っていた。そのどす黒い政治屋が食指を伸ばしたと言うことは民政党の政権公約である辺野古への移設反対には裏がありそうだ。
「この件は司令部には報告したんだが『担当外だ』と言うことで受けつけてもらえなかった」これは至極当然な回答だ。政権与党の主要幹部の利権に関する疑惑を自衛隊が暴いても何の意味もない。おそらく尾沢は法的には全く問題がない正規の手続きを踏んで土地の買収を進めているはずだ。仮に事実を確認すれば野党に転落した自民党に渡すことで政権を奪還するための道具になるかも知れないが、現在の総裁にはそれだけの闘争心は感じられない。
「それで俺に何をしろと言うんだ。俺は不動産屋に知り合いはいないぞ」実際、朝山3佐には証3佐がこの話を持ち出した真意が判らなかった。単に尾沢が買った土地の現地確認であれば部下の専門家を同行させれば良い。それが司令部に否定された「担当外」になるため命令できなのであれば諦めることだ。証3佐は朝山3佐の秘密の任務を知るはずはないが井上将補からの特別命令には同席していた。つまり「政治的背景の探索と言う特別命令に加えてもらいたい」と言うことのようだ。朝山3佐は返事の代わりに速度を上げた。これでも証3佐がついてくるようなら引き受けることにしよう。すると証3佐は必死になって追いすがってくる。
朝山3佐はイギリスで習った処理方法の中に背後から凶器を突きつけながら走らせて心臓発作を起こさせる手法があったことを思い出した。ここでそうならないために幾分速度を緩めた。
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  1. 2018/10/06(土) 09:42:09|
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