FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1344

自宅についてコンビニの弁当で夕食を始めたところに愛知県の従兄・雄馬からメールが入った。雄馬には茶山邸から白石川で2人が感じた蔵王山=山形県からの不思議な呼びかけについて説明し、祖父に思い当たることがないかを訊いてくれるように頼んでいた。
「兄ちゃんからだ。随分と早いなァ」淳之介は蓋を開けた弁当をそのままにして携帯電話を手に取った。あかりも箸を置いて興味深そうに顔を向けている。
「何々・・・祖父さんのお父さんは山形から婿養子に入ったんだってさ・・・かァ」何も考えずにメールを読み上げるとあかりが驚いたような顔をした。考えてみれば淳之介も安里家に婿養子に入っている。山形県から愛知県に婿養子に入るのと首都圏在住の親の子が沖縄に来るのではどちらが遠距離なのか。地図が頭で描けないあかりには答えが出なかった。
「集団就職で中部電力に入ってそのまま結婚したんだってよ・・・かァ」雄馬のメールは完全に口語体のようだ。この従兄は昔から勉強よりも体育が好きだったので会話を文章化するような面倒なことを期待する方が間違っている。
「山形県でも角川村って言う場所の出身だってさ・・・なるほど」これは父に知らせるべき情報だろう。父には淳之介とあかりが蔵王山に呼びかけられた話はしている。すると父も航空自衛隊に入って以来、曹侯学生基礎課程の区隊長から浜松・第1術科学校の航空機整備電機課程の教官、さらに沖縄の職場の先輩まで山形県出身者ばかりで自然に山形弁を憶えたと言っていた。この情報を伝えれば持ち前の情報網で祖父の没後は音信不通になっているらしい実家を探り当て、親族と連絡を取るはずだ。
「ド田舎から都会の愛知県に逃げて来たんだってよ・・・何だとォ」読み上げておいて淳之介は怒ってしまった。名古屋市の郊外とは言え守山から見れば祖父の家がある宝飯郡一宮町(当時)こそド田舎だった。逆に父はそのド田舎を「この世の物とは思えないくらい酷い土地だ」と言っている。おそらく自分の祖父が山形県出身だと知れば感激して号泣するのではないか。
「祖父さんが急にどうしたって疑って困ったぞ。お詫びに洋酒を送れ・・・てか」オチは謝礼に減税の洋酒の要求になっている。雄馬もハワイで免税の洋酒の値段=原価を知り、沖縄もそこまでではないにしても特例処置で減税になっていることを聞いて以来、機会を見つけては「送れ」と要求してきている。確かに今回は口止め料を兼ねて送るべきかも知れない。淳之介は雄馬から祖父があかりとの結婚に反対していたことを聞いて父に倣って縁を切っているのだ。
「と言うことだ。お待ちどおさま」淳之介は礼の返信は後回しにして携帯の電源を切ると目の前で待っているあかりに声をかけた。
「はい、いただきます」「いただきます」もう一度、手を合わせて弁当に箸をつけた。
「何だかご飯が甘くないように感じる」「うん、歯応えも違うなァ」1口食べたところで2人とも不満を口にしてしまった。確かに東北で食べたご飯は茶山家で奥さんが炊いているものを含めてオカズなしでも食が進むくらい美味しかった。だから父には悪いが東京で食べたご飯もあまり美味く感じなかったのだが沖縄のご飯はさらに落ちる。
「でも何時もはこれを食べて満足してたんだから元に戻りましょうよ」「うん、そうだな」あかりの言葉に淳之介も同意してさらにもう一度、手を合わせてご飯を食べ始めた。
「お手数掛けました。そのうち洋酒を送ります。銘柄は何が良いですか」食後にお礼のメールを送った。沖縄では洋酒は減税になっているが石垣島では沖縄本島から運んでくる輸送料が加算されるため割高になる。だから今年は5月21日の清明(シーミー)で帰った時に送るつもりだ。勿論、義母に頼めば手配してくれるはずだが急ぐ必要はないだろう。祖父と叔母の好悪だけに振り回されているあの家では何も考えないことが処世術なのだ。
「そろそろシャワーを浴びませんか」メールを打ち終わって溜まっていた新聞に目を通しているとあかりが声を掛けてきた。考えてみれば旅行中の5日間はあかりの身体に触れていない(腕枕は除く)。それを思い出すと鼻血が噴き出しそうになった。
「よし、浴びよう。服は俺が脱がしてやるから待ってろ」淳之介は立ち上がるとトイレに向かい、あかりが交代で入っている間に全裸になった。尤も、あかりには見えないのでそこは安心だ。
「はい、お待たせしました」戻ってきたあかりは淡々と淳之介の前に立った。その前に淳之介自身も起っている。以前は恥らった顔が興奮を誘ったが今では日常の出来事になっている。淳之介ははやる気持ちを抑えながら優しくあかりの服を脱がした。
「湯船につかるのって気持ち好いよね」狭い浴室でシャワーの水が温かくなるのを確認しているとあかりが話しかけてきた。あかりは茶山邸で初めて湯船につかり、翌日は大河原の温泉も経験した。あの快感を満喫してしまうとシャワーでは物足りなくなる。
「ババンババンバンバン・・・好い湯だな」淳之介は父に習った入浴の歌を口ずさみ始めた。
スポンサーサイト



  1. 2018/10/17(水) 09:49:04|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<振り向けばイエスタディ1345 | ホーム | 振り向けばイエスタディ1343>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/4953-6ea96deb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)