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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1348

「私は在韓アメリカ海軍のスポークスマンのトミタ少領です。只今、国防部に派遣されているアメリカ海軍の連絡官は青瓦台(大統領府)の調整会議に出席していて不在なので私が質問を受けることになりました」トミタ少佐の韓国語を杉本は初めて聞くが日本語と遜色がない流暢さだ。ここではルテナン・コマンダー=海軍少佐を韓国軍式に「少領」と言っている。
「大衆週刊誌である衝撃スクープの白(パク)です。先ほどの質問は聞いていませんか」流石の雑誌記者も若い女性が相手では口調が多少は紳士的になる。テレビでは他のマスコミ関係者がそれを嘲笑するような声が聞こえてきた。
「ここまで来る間に概略は聞いています。今回の事件の1週間前に鎮海区の基地から出港した我がアメリカ海軍の潜水艦が2週間経過しても帰港していないと言う事実と事件の関連についてでしたね」「はい、それで答えて下さい」トミタ少佐はスポークスマンらしく毅然とした雰囲気を保ちながらも場を和らげるための微笑を浮かべている。会場に居並ぶマスコミ関係者は次に言葉を発する口元を注視し、テレビもそれをアップにしている。
「御承知のように潜水艦の行動は軍事秘密に属しますからこの場で答えることはできません。それは事件との関連の有無についても同様です。むしろ貴方にその情報を漏らした人物を教えてもらいたいものです」この答えに雑誌記者だけでなく期待を裏切られたマスコミ関係者はアメリカで言うブーイングの声を上げた。
「つまり否定はしないと言うことですね。そうなると我々としては政府発表とは別にアメリカ海軍が関与している可能性についても報じることになります。それで良いんですね」雑誌記者はこの回答を利用して自分の雑誌を含むマスコミ各社が政府の公式発表とは別の可能性を報道することの責任をトミタ少佐に押しつけるつもりらしい。
トミタ少佐は会場内のざわめきが収まるのを待っていたが、その間に国防部の担当者が立ち上がって歩み寄るとマイクの電源を切って何かを話しかけ小声での話し合いが始まった。その様子に意識が移ったマスコミ関係者が黙るとトミタ少佐はマイクの電源を入れて口を開いた。
「韓国の憲法でも報道の自由は保障されているようですから貴方が正当な権利を行使することを制限する権限は平時の我々にはありません」これは見事な回避行動だ。マスコミ関係者には「権利の行使」を認めながらもそれが「正当」であることを要求している。しかも国連軍でもある在韓アメリカ軍には戦時おいて報道を統制する権限があることも再確認していた。杉本は前回の逢瀬でトミタ少佐が見せた機知に富んだ受け答えを思い出した。
「アメリカ海軍の潜水艦はハワイで日本の遊漁船に衝突して沈没させているじゃあないか。今回も協同訓練をやっていて衝突したんだろう」トミタ少佐からの痛撃に気色ばんだ雑誌記者は本性を現したが知識不足も露呈させたようだ。2002年2月にハワイ沖で急浮上したアメリカ海軍の潜水艦・グリーンビルが衝突したのは宇和島水産高校の練習船・えひめ丸であり、1988年7月に遊漁船・第1富士丸と衝突したのは海上自衛隊の潜水艦・なだしおなのだ。当然、トミタ少佐はこの誤りを詳細に訂正した。
「ところで貴女は韓国系ではなく日本系ですね」ここで突然、質問が余談に移った。雑誌記者としては自分で掘った墓穴に落ちてしまっては無理にでも話題を変えるしかないのだ。
「それはこの場で行われるべき質疑応答ではないように思いますが」「我々としては在韓アメリカ海軍のスポークスマンが日帝の血を引く人間であるならば少なからぬ違和感を覚えます。我が国国民のアメリカ軍に対する信頼にも影響を与えると思うのですが・・・答えて下さい」この回答者個人の血筋を問題視する暴言は日本であれば即刻中止させられるのだが、韓国では「日帝(イルジェ)」と呼べばそれだけで日本と言う国家だけでなく日本人までも悪役にできる。杉本もテレビに映っているトミタ少佐が平静を装っている姿が痛々しく感じた。
「確かに私は日本人移民の子孫です。しかし、アメリカ海軍の軍人であり、合衆国から海軍少佐の階級を与えられて在韓アメリカ海軍の立場を説明する職務を遂行することを命ぜられているのです。私の存在が韓国国民の信頼に影響を与えると言うのなら韓国の平和を維持するために日本が寄与している役割を正しく認識するべきでしょう」「今回の事件に関する質問はないようですから、これで3月26日に発生した我が国海軍のコルベット・天安沈没事件に関する国防部の記者発表を終了します」トミタ少佐の発言が終わったところで進行役は間髪を入れず終了を宣言し、同時に国防部の担当者は専門家たちの退室を待たずにトミタ少佐を連れ出した。テレビは取り残された記者たちが机の上を片づける様子と一斉に席を立って歩き始めた専門家たちを映しながら「終了」を意味するハングル文字が浮かび上がった。
TamLynTomita0イメージ画像
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  1. 2018/10/21(日) 10:17:55|
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