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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1353

「私は政治屋ではないので知っていることは皆さんと大差はありませんよ。特別に知っていることと言えばアメリカ国民の日本への信頼感は急激に低下していて『アジアで協力すべき国』と言うアンケートでは25年ぶりに中国に逆転されたそうです」これは外務省がアメリカで実施した意識調査の結果で、まだ日本では報じられていないが私は外務省人脈で聞いていた。PKOは外務省が所管するためその任務中の出来事で裁判にかけられ、1年以上も拘束された私に対する負い目を抱いてくれているようで個人的に交流を保っている。
「ふーん、それは問題ですね。そうなると雀山政権としてもアメリカ側に歩み寄るしかない訳だ」自衛官と言う立場では日米同盟は我が国の安全保障上の基盤であり「歩み寄る」と言う感覚はないのだが民間人はアメリカの圧力に屈したように受け留めるようだ。
「それでも沖縄県民に期待を抱かせておいて裏切ったんですから支持率は急落するでょうね」「と朝日新聞は警告していましたね」この答えは2紙を読み比べた成果だ。すると男性は「どうぞ」と席を譲って立ち上がった。車内を見回すと立っていた乗客たちもこの駅で下りるようなので私も座ることにした。
「勉強になりました。ニュースを見ながら家族に教えてやりますわ」そう言って笑顔で会釈した男性は多くの乗客と一緒に下車していった。席に座ってようやく落ち着いた私は前もって「私的発言」と断ってはおいたが内容の自己診断を始めた。最近はマスコミの取材でなくてもインターネットなる情報共有媒体に他人の会話の内容を書き込む輩が急増しているらしいので「私的発言」と言う保険も意味を失くしている。
「すみません。お2人の会話を聞いてしまいました」私が反省を始めたところに隣りの席のもう少し若い男性が声を掛けてきた。この男性もスーツにネクタイなのでサラリーマンのようだ。
「はァ、あれは全て個人的見解です」今回は相手に判る用語に変更した。すると男性はうなずきながら迷惑な要望を口にした。
「私も質問させてもらっても良いですか」ここは「間もなく下りる」と嘘を言っても拒否したいところだが久里浜駅にはまだしばらくある。仕方ないので渋々と言う顔で応じることにした。
「これからの発言も全て個人的見解ですよ」「はい、判っています」私としては無駄とは判っていても保険を掛けざるを得ない。男性はもう一度うなずいてから話を切り出した。
「私は横須賀の海兵隊員の友人がいるんですが非常に真面目な連中で、同じ海兵隊員が沖縄で犯罪を繰り返していることが信じられないんです」これは意外に安心できる相手かも知れない。それでも油断することなく回答した。
「横須賀の海兵隊は大型艦内の保安業務を担当していますから特に規律心が厳格なんです。それでも沖縄には約15000人の海兵隊員がいるんですから犯罪の発生率は他の業種と比べても極めて低いんです。むしろ観光客が起こす凶悪犯罪の方が圧倒的に多いんですがマスコミは全く報道しません」これは現在の職務から言えば専門分野だ。本当は具体的な数字を上げて説明しても良いのだが余計なことは控えておく。
「それで納得できました。本土でも自衛官の軽い事件や事故を大々的に取り上げますからね。沖縄のマスコミならやりたい放題でしょう」「あそこには2大紙しかありませんから互いに反米報道を競い合っているんです。だからどちらもブレーキが効かないでアメリカ軍の粗探しにばかり力を入れている。困ったものです」これは政権批判ではないので多少は言い過ぎても問題にはならないはずだ。それでも私としてはかなりブレーキを効かせているのではないか。
「今日の閣議決定に反対した社人党の徳島水子が大臣を罷免されたでしょう。貴方たちには敵だから喜んでいるんではないですか」突然、反対側の席の男性から話し掛けられた。こちらの男性は私よりも年長で着ているサマ―・スーツには高級感がある。それでも電車通勤していると言うことは企業の重役ではないのだろう。この質問には罠の危険を感じた。
「政治的な立場で政策に関する見解が分かれることは民主主義の基本ですからそれで敵だ、味方だと言うつもりはありません」これは自分でも呆れるほどの綺麗事だ。しかし、徳島水子はPKOの任務中に遭遇した敵対者を殺害した私を殺人者として告発したことは政治見解に基づく行動だとしてもその影響で性的能力を喪失したことには私怨がある。佳織との夫婦生活の快感=悦楽=至福はもう戻ってこないのだ。
「どうやら私は警戒されてしまったようですね。質問が拙かったのかな」そう言うと年配の男性は反対側を向いて黙ってしまった。このように相手の心理を読めるのはそれなりの部下を扱っている管理職であることは間違いない。それを見て続きを求めた男性も口ごもった。ようやく静かな時間を過ごせるようになったものの今回の帰宅は妙に気疲れしてしまった。
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  1. 2018/10/26(金) 09:25:35|
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