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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1361

「実はお父さんを坊さんと見込んで相談があるんだ」突然、淳之介の声が重くなった。父としては淳之介から「坊主として」と言われたことはなく少し困惑して受話器を握り直した。
「今度の清明(シーミー)の墓参りであかりが死んだ伯父さんと話しをするようになったんだ。そこに伯父さんがいるみたいに普通に会話してるんだよ。それから玉城家の墓でも先祖たちの話し声が聞こえるって言ってた。これってどうしたら良いの」父は「坊主と見込んで」と言われて何かの加持祈祷の依頼かと思っていたが、話はもう少し難易度が高いようだ。それでも専門外ではなく個人的な趣味で研究してきた分野のようだ。
「伯父さんの話をお祖父さんかお祖母さんに聞いてもらったのか」「うん、あかりが通訳してお祖母さんと会話していたよ」それで話しが通じたのならあかりが暗示にかかったのではなさそうだ。こうなるとあかりが霊能者である可能性が高くなってくる。
「それは突然だったのか」「うん、お墓の前で祈っている時だった・・・でも東北に旅行に行った時からそれらしいことはあったんだ」東北と言えば父のところには山形県最上郡戸沢村役場から問い合わせていた祖父・永之進についての回答が届いていた。それによると祖父の旧姓は庄司と言い旧・角川村の実家の住所と電話番号も判明した。おまけに現在、家を守っている前当主の妻とも連絡を取り、「いつでも遊びに来て下さい」との承諾まで得てあった。
「あかりが森の中にいる鹿や猿と話してたんだ。それから蔵王山から白石川を吹いてくる風の中に大自然の声を聞き分けるようになった。俺も何か大きな力を感じていたけど言葉までは判らなかったよ」これで状況は伝わった。父は黙って何かを考え込んだ。淳之介は後ろで聞き耳を立てているあかりを振り返ると受話器を抑えて「考え中」と小声でささやいた。
「あかりには元々普通の人よりも鋭い感性があったんだ。東北のイタコさんにも視覚障害者の人が多いみたいに目で見る表面的な情報に頼らない生活を送っていると声にならない叫びや姿を見せない存在も受け留めることができるようになるんだな」父の理解は伯父が言っていた解説と共通している。やはり父こそ普通ではない坊主だ。
「茶山さんも『イタコになればいい』って言ってたよ」淳之介も本土にいた頃にテレビのオカルト番組でイタコを見たことがあった。その番組では実在しない人物を口寄せさせるなどイタコを嘲笑していたため単なる迷信だと思っていた。しかし、目の前であかりが同様の超常能力を発揮しているのを見ると考えを改めざるを得ない。ところが父は反対の意見を述べた。
「それは止めた方が良いな。あかりに交霊させることは坊主として禁止する」父の「交霊」と言う専門用語は電話では「コーレ―」としか聞こえず淳之介は該当する二字熟語が浮かばなかった。このようなところは生んだ母親の頭のレベルだ。
「東北のイタコは沖縄ではユタになるんだ。沖縄にはノロもいるが知ってるな」こう訊かれてしまっては「知らない」と答えられない。それでも返事の口調で息子の知識不足を察した父は即席宗教講座を始めた。これができるところも並みの坊主ではない。
「ノロは御嶽(うたき)に仕える神官、本土で言う神主みたいなものだ。一方のユタは村に住んでいる霊媒師、北東北のイタコと一緒の役割を果たしている」「役割って死んだ人を呼んで通訳するだけじゃあないの」淳之介の質問で父は息子の理解度を確認したようだ。
「口寄せも要望が多い仕事だが除霊やお告げも大切な役目なんだ。昔は沖縄の葬式はユタがやっていたんだよ」「ふーん、坊さんじゃあないんだね」葬儀を請け負わない坊主の息子の癖に淳之介も本土の固定観念を沖縄にまで持って行っているらしい。
「イタコは江戸幕府の禁令で葬儀はできなくなったがユタはやっていたんだな。ノロの神託もイタコには許されなくなった。今ではお告げとは認めず占いと呼んでいるがな」江戸幕府は葬儀を通じて切支丹の取り締まりを行っていたためそれを担当していた坊主の仕事にしたのだが、その禁令は沖縄にまでは及んでいなかった。
「問題はあかりが死者と関わることで色々な危険が降りかかることなんだ」ここで父は宗教講座から現実の指導に移行した。淳之介も大きく息を吸って耳をそばだてた。
「魂魄は伯父さんや先祖だけじゃない。中には恨みを抱いて死んでいった者もいる。欲望に身を焼きつくして死んだ奴もいる。あかりが魂魄と関わればそんな連中まで取り憑いてくる危険性が高い。ましてやあかりはこれから子供を生むんだろう。女の出産は死と生の境を往復するようなものだ。だから禁止する」この父には珍しい強制も淳之介には素直に納得できた。
「普段はそんなことは忘れて普通に生活することだよ。伯父さんとは場所を決めて相手にすれば良い、実家の佛壇の前が良いな」「はい、あかりにも伝えます」そう言って淳之介は電話を切った。振り返るとあかりも口調で内容を察したらしく何も言う前に静かにうなずいた。
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  1. 2018/11/03(土) 09:55:49|
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