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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1363

田沼元准尉からの返事は思いの外遅かった。いつもなら神田の古書店街で見つけた浄土真宗に関する書籍などを送っても「本当に目を通したのかな」と疑問を感じてしまうくらい即座に礼状が届くのだが今回は半月を要した。それほど時間をかけた取材(?)の成果に期待しながら相変わらず癖のある毛筆の書簡を開いた。
「この度は缶直人首相が山口県出身とのことで祝意の手紙をいただき誠に有り難うございました」田沼元准尉らしい書き出しの挨拶ではあるがこちらとしてはそんなつもりは毛頭ない。単に興味本位な現地情報の収集の一環だ。
「山口県では缶首相が就任した当日にニュースや新聞が『山口県出身としては9人目の内閣総理大臣』と紹介していましたが、インタビューを受けた市民は『そうなんですか。知らなかった』と言う答えが大半でした」やはり山口県での知名度は低いようで3年間しか住んでいなかった私が知らなくても恥じる必要はなさそうだ。
「確かに缶首相は宇部市で生まれ、宇部高校に進学していますが2年の時に父の転勤で東京に転校したそうです」となると宇部市は万々歳しているだろう。矢部晋三首相が就任した時に選挙区の下関市が提灯行列を催したことは都会目線で嘲笑する記事として読んだ。要するに地元出身との認知度が低いため戸惑っているだけでこれから興奮の坩堝(るつぼ)になっていくのではないか。特に長らく冷や飯を喰わされてきた(本来は全国標準になっただけ)県内企業は利権を奪い取ろうと手ぐすねを引く準備を始めているはずだ。
「ところがインタビューを受けた知事が『山口県に縁(ゆかり)がある総理大臣ではあるが、当県出身ではない』と明言したためそれが公式見解になったようです」これは意外な見解だ。山口県は岡山県出身の画僧・雪舟等楊や千葉県出身の作家・国木田独歩を地元で活躍したと言うだけで「郷土の偉人」にしていて、逆に山口出身者は無能な愚将に過ぎない乃木希典を息子2人を戦死させたことで悲劇の名将、飼い主である明治天皇に殉死しただけ軍神に祭り上げて、趣味に過ぎない漢詩の才を人間的魅力にしている。そんな自己顕示欲が強烈な県民の歓喜に知事自ら冷水を浴びせるのはどう言うことなのか。
「新聞の解説では戦前は首相本人の自己申告、戦後は選挙区を出身地とするのが公式な基準なのだそうです。缶首相の選挙区は東京なので山口県出身にはならないようです」「そんな馬鹿なァ」この一節は流石に黙読できなかった。宇部市で生まれ、高校まで育っていればそこが出身地になるのは世間の常識だ。選挙区が出身地と言うのは政治家としての経歴に過ぎない。どこの官僚が決めた基準なのかは判らないが、実際は東京で生まれ育ちながら支持者を歓心を惹くため選挙区を出身地にしたい政治屋の圧力に屈してしまったのではないか。
考えてみれば戦前の総理大臣でも東條英機は加賀の金沢から岩手の南部藩に招聘された能役者の家系だが、本人は父が陸軍大学校の教官をしていた時に生まれたため東京出身と言うことになっている。岩手県は山口県ほどではないが総理大臣を4人も出していて予定外の福田息子の就任で群馬県に追いつかれた時、東條を加えるべきかとの議論があったらしい。流石にA級戦犯の筆頭を受け入れることに賛成する人はいなかったそうだが意外に根深い問題のようだ。
「やはり山口県にとっては矢部首相の復活が悲願なので民政党の政権を歓迎する声は上げられないようです」田沼元准尉はそのような結論で手紙を終えているが私には異論がある。日本共産党の創設期の最高指導者・野坂参三は萩市出身、続く宮本顕治は光市出身の山口県人だ。かつて国会の廊下で野坂と宮本が岸信介と佐藤栄作の兄弟に出会った時、「共産党と自民党のどちらが吉田松陰の教えを受け継いでいるか」の議論になり、佐藤が「尊皇攘夷を実行しているのは自民党だ」と強弁したところ野坂が「攘夷と言うのならその対象は黒船で押し寄せて無理やり開国させたアメリカのはずだ。ならば自民党も反米でなければならない」と反論した話を中退した大学の史学の教授から聞いたことがある。その教授は「下級武士が主導した明治維新はロシア革命に半世紀先駆けた階級闘争=市民革命だ」とも断言していた。やはり山口県出身の政治屋は右左に関係なく吉田松陰の申し子である潜在的亡国の徒なのだ。
「缶直人か・・・」手紙を読み終えてテレビを点けるとニュース解説は缶首相が出席したカナダのハンツビルで開催される主要国首脳会議の分析だった。それにしても前回のイタリアのラクイナ・サミットまでは自民党政権が3年連続で毎回交代、「今回は政権交代した」と言っても2人目の首相だ。これでは現地の報道が日本の首相の顔写真や似顔絵を間違えても仕方ない。
「『尾沢よりは良い』と思ってたが、このババ抜きはババが2枚あったみたいだな」むしろ政権交代選挙の時、民政党が流していた雀山、尾沢。缶の3人が難破船を救うCMを考えればババは3枚、手軽な博打としても参加してはいけないカード・ゲームだった。
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  1. 2018/11/05(月) 10:07:28|
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