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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1381

感激の連続だった山形旅行を終えて東京に戻り、都会での日常生活を2週間過ごすと今度は愛しい娘と義父母が太平洋を越えてやってきた。これは佳織の夏季休暇に合わせているのだが私の方も公判の状況を見ながら1日単位で年次休暇を取得する予定でいる。
「ダディ、マミィ」土曜日の午後、佳織と2人で成田空港の到着ロビーで待っていると真っ先に志織が出てきた。志織もハイ・スクースの1学年を終えて少し大人びてきたように見える。
「おかえり。元気そうだな」「ハイ・スクールの単位は取れてるの」出迎えた両親は掛ける言葉が違う。やはり本当のエリート・コースを歩み続けている佳織と本来は叩き上げの中級幹部として一段ずつ階級を上がっていくべき私では娘に向ける意識にも差があるのかも知れない。
「うん、元気で頑張っているよ。単位は全てトップ・クラスで取得しました」志織が両親に異なった報告を終えたところにノザキ夫妻が出てきた。ハワイではアロハとムームー、軍服とドレスしか見たことがない義理の両親も今日はポロシャツと地味目のワンピースで日本の標準的高齢者夫婦になっている。志織が前を開けたので私と佳織は姿勢を正して出迎えた。
「ロングタイム ノー シ―(ご無沙汰しています)。シオリ イズ インデブテンド(志織がお世話になっています)」「ダディ、ようこそ。スザンナは初めての長旅で疲れていない」私の挨拶は日本式の直訳なので佳織のように自然な会話になっていない。久居の頃は佳織の指揮幕僚課程の同期の留学生との交流があったため英語力が維持できて、そのまま北キボールのPKOにも行けたのだが、拘置所生活と現在の陸上幕僚監部法務官室での勤務では英語を使う機会がほとんどなく年齢による頭脳の衰えも加わって退化するばかりだ。
その一方で私は今回の旅行で今まで聞いたことがなかった祖父の人間像を知り、ようやく自分に流れる血を肯定できたような気がしていた。私が自衛官になったのも母方の曾祖父である青山寛少将の血統と言うよりも応召して憲兵に選抜された庄司永之進がそのまま軍に留まった場合の人生を孫が再現しているように思われていた。おそらく私の前世である沖縄戦で戦死した海軍陸戦隊の中尉も海軍兵学校出のエリートではなく叩き上げの特務士官だったのだろう。
「息子よ。ボンヤリしてどうした」ノザキ夫妻が佳織と志織の母子と談笑を始めている横で黙っている私にノザキ中佐が声を掛けてきた。確かに日頃は人の6倍喋る「六口(むくち)な奴」、喋りが制御できない「逆口下手」と呼ばれている私が会話に参加しないのは珍しい。
「この人は色々な出来事があって頭が少し飽和状態なの」佳織の説明にノザキ夫妻と志織のハワイの家族は顔を見合わせてから「珍しいこともあるもんだ」と言って歩き始めた。
旅行中、ノザキ夫妻と志織はホテルに泊まる旅行以外は久里浜の佳織の官舎に滞在することになる。今回は私も同行してスケジュールの打ち合わせと九州で墓参するために必要な情報を収集することにした。一応、京都と久留米、天草のホテルは予約してあるが別に希望があれば早急に変更しなければならない。
「今回の来日ではお2人のご先祖の墓に参ることを中心に考えて良いんですね」佳織の官舎で人心地ついたところで私が会議を招集した。
「うん、それが子孫としての務めだな」義父の返事に今の私は心の中で大きくうなずいた。
「墓がある寺を探しますから何か知っていることがあれば教えて下さい」「その前にスザンナの旧姓を教えて」今度は横から佳織が質問を補足した。確かに寺に電話してハワイの移民になった檀家がいないかを確認するにも姓が判らなければ手掛かりがない。
「私の実家は・・・キカイって言ったのよ」スザンナは何故かためらった後に説明した。
「キカイってどんな字を書くか判る」私はスザンナの何かを恐れるているような顔を見て深入りを避けたが佳織は事務的に確認した。
「うん・・・デーモンズ シー(鬼の海)と書くって聞いているわ」「ふーん、不思議な苗字ね。それならすぐに見つかるかも知れないわ」佳織は日常会話でもあまり感情を介在させない。そんな日本人的には冷淡な反応にスザンナは安心したように「イエス」と答えた。
「実家の宗旨なんかは判りませんか」私の知識では天草の寺は曹洞宗と浄土宗だけのはずだったが、その後、調べてみると浄土真宗と日蓮宗の寺が増えていてかなりの数になっていた。
「いいえ、祖父母はハワイでカソリックの洗礼を受けたんだけど、すぐに病気で死んでしまったから両親が佛教に戻したのよ。でもあの頃はまだ日本の佛教寺院があまりなかったから頼めるところにお願いしたみたい」この話は佳織も初耳だったようだが私としては天草と言う土地柄から「実際は隠れキリシタンだったのではないか」と推察した。
「判りました。皆さんが出発するまでに調べてみます」そうは言ったが流石の私も自信はない。
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