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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1385

土曜日の久留米市巡りは先ずノザキ家の墓参からだ。朝食を終えてホテルから7人乗りのワゴン式タクシーで望空寺に向かうと初デートで佳織と訪ねた太刀洗飛行場跡の広大な田園が見えてきた。その一角にある林が望空寺のようだ。
「前川原の時にはあの寺を探さなかったな」私は振り返って日本語で佳織に話しかけた。車内では私が助手席、佳織と志織が中央の2人席、義父母は後部の3人席に座っている。
「だってまだお父さんと仲直りしていなかったから久留米にいても調べようって気にならなかったのよ」こんな告白も夫婦の会話であれば日本語で違和感はないだろう。
「お義父さん、この辺りには帝国陸軍最大の航空基地があったんです。帰りに慰霊碑に寄ってみましょう」続いて後部座席に英語で声をかけた。それを聞いて運転手が驚いたようにこちらを向いた。私は戦前の陸軍を英語ではインペリアル・アーミー(帝国陸軍)と呼ぶようにしている。それが素人には難しい英語を使っているように聞こえるらしい。本当はPKO以来、ジャパン・アーミー(日本陸軍)と呼んでいる陸上自衛隊との区分なのだ。
「それでは携帯で呼んで下さい。帰りもご案内しましょう」義父が関心を示したことをルーム・ミラーで確認した運転手が貸し切り営業を売り込んだ。確かにワゴン式タクシーを呼ぶのは面倒なので悪くはない。話を決めたところに寺の山門が見えてきた。
「頼みましょう」浄土宗の寺院は禅宗と多少構造が違うようで庫裏に玄関があった。夏だからなのか開けっ放しになっている玄関で声をかけた。ところがその前に警報装置が作動したようで奥でチャイムンが鳴っている音が聞こえてきた。
「これはノザキさまで」スリッパの足音で廊下を鳴らしながら出てきた住職は私と同世代で、禅僧とは違い柔和な丸顔に笑ったような目が嬉しくなる。
「はい、こちらがヤスト・ノザキ中佐、こちらが奥さんのミセス・スザンナ・ノザキです」私に続いて玄関に入っていた義父母を紹介すると住職は「中佐」と言う階級に怪訝そうな顔をした。
「ノザキ中佐はアメリカ戦略輸送軍のパイロットなんです」ここまで詳しく説明したのには訳がある。久留米は幹部候補生学校があるので自衛隊には親近感を抱いてもらっているが、太刀洗飛行場への大空襲の被害を受けているため反戦平和運動が盛んな土地でもある。
「これがハワイ移民になられたノザキさんの墓です」本尊さまに拜登し、庫裏で茶話を交わした後、住職の案内で本堂の裏手の墓所の片隅にある野崎家の墓に参った。ハワイに移民して100年近くが経っているはずだが草むらの中に2段造りの小さな石塔が3基立っている。苔むした墓石に夫婦の戒名が並べて彫ってあるのは判るが文字まではハッキリしない。
「檀家からは無縁佛に移動させて新たな墓地として分譲するように言われていたんですが、浮羽町のエリソン・オニヅカさんが墓参された話を聞いて同じように訪ねて来られるかも知れないと思って取り止めました。その勘が的中したようですな」住職は満足そうに笑ったが我々としても有り難い直感だった。しかし、先ほど渡した可漏(金一封)には相見(対面挨拶)としては過分な10万円を入れておいたが、これでは永代供養料になってしまう。
「こちらに残っている野崎家の一族はいないのですか」住職の読経が終わった後、義父の英語の質問を佳織が通訳した。
「元々、野崎家はこの辺りの土豪だったんですが、佐賀の乱と西南戦争で男性が次々に戦死して、残っていた子供たちも日清・日露戦争で戦死したので最後の一家がハワイに移民したと言うのが経緯のようです」住職も前もって下調べをしておいてくれたようだ。それにしても青山寛少将、庄司永之進憲兵の血を引く私以上に義父と佳織のノザキ一族の武門としての系譜は凄い。
「ここが太刀洗飛行場の慰霊碑です」墓参の後、先ほどのワゴン式タクシーを呼んで佳織とも参った太刀洗飛行場の慰霊碑に向かった。あの時は新品同様だった慰霊碑も私たちと同時進行で年月を重ねたのか随分と古びている。あれから20年余りが経過しているのだ。
「貴方、あの時と同じ歌を唄いましょうよ」慰霊碑の前の土に線香を立てて黙祷を捧げようとした時、佳織が提案してきた。しかし、あの時と言われても記憶にない。
「唄えば判るわ。はい、サイレント・プレイ(黙祷)」3人の軍人・自衛官の中では階級が1番上の佳織の号令で参列者は頭を垂れて眼を閉じた。
「海ゆかば 水漬く屍、山ゆかば 草蒸す屍・・・」佳織が口ずさみ始めたのは日本軍や自衛隊の慰霊行事の定番曲「海ゆかば」だった。ここで私も佳織が言う「歌」を思い出したので合唱=デュエットにした。
「・・・大空の果てにて死なむ かえりみはせじ」これは平成になって「大君の辺」で死ぬことが嫌になった私が作った替え歌だ。ただし、陸海空に適用できる秀作ではある。
  1. 2018/11/27(火) 09:40:40|
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