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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1387

最終日は熊本市内の観光だ。この点もレンタカーを移動手段にしたのは正解だった。現在の日本人は九州の中心は福岡市と北九州市と言う人口100万人の大都市を有する福岡県だと思っているが、小倉や門司、戸畑、若松、八幡の各市が合併して九州最初の政令都市・北九州市が成立するまでは熊本市が最大であり、国の出先機関も先ず熊本に設置されていた。
また熊本の領主は加藤清正のイメージが強いが、加藤家は清正の没後21年で改易されており、以降、明治4年に廃藩置県が行われるまでの239年間は細川家の所領だった。尤も、広島も福島正則が19年間、浅野家が252年間にわたって治めていたが、いまだに毛利家を主君と仰いでいる。ただし、こちらは明治以降に毛利藩出身者が握った政治権力のおこぼれを狙った過去の地縁の自己申告に過ぎない。
熊本観光と言えば先ずは熊本城からだ。熊本城には東西南北の4カ所に駐車場があるが宗教観ではなく歴史的暴挙を理由とする神道嫌いとしては東側の熊本城稲荷の駐車場は避けた。
「ここが熊本城です」車を下りて天守閣を指差して説明すると義父母は感動したように仰ぎ見た。義父母も京都から福岡に向かう新幹線から遠目に姫路城と広島城、小倉城、間近に福山城を見ているはずだが、通り過ぎるのと仰ぎ見るのでは印象は全く違うようだ。
「この城の天守閣は西南の役の攻城戦で焼失してしまったんです」「西南の役と言えば我が野崎一族の男子が戦死したはずだ」義父は私の英語の解説に反応した。確かに久留米の住職は太刀洗の土豪だった野崎家は明治以降の西南の役と佐賀の乱に従軍して男子が戦死して家運が傾き、残った子供たちも成長した頃に起こった日清戦争と日露戦争で戦死して義父の一家以外は途絶えてしまったと言っていた。
「西南の役は鹿児島の西郷南洲翁の私軍が攻めて政府軍が立て篭もりましたから野崎家の男子は守備隊側でしょう」これは根拠がない勝手な推察だが、久留米の土豪が下野した西郷南洲翁を慕って鹿児島に開設した私学校に入門したとは考えにくい。とは言え山形で薫さんに案内された酒田市の南洲神社は戊辰戦争の際、敗軍となった庄内藩を西郷南洲が丁重に扱ったことに感激した藩主が藩士の子弟を鹿児島の私学校に入門させたことが由緒とあった。
「つまりここで祖先の魂が私を待っているんだな」義父は表情を引き締めて歩き始めたが、西南の役における最大の激戦地は田原坂であり、敗走する西郷軍を追撃して宮崎県内でも戦闘を繰り広げていた。したがって野崎家の男子がどこで戦死したのかは不明だ。
結局、義父は熊本城と田原坂では先祖の魂に会えなかったようだが非常に満足して帰路についた。
ちなみに熊本観光のもう一つの目玉である阿蘇山は「ハワイでキラウエアを見慣れている」と言う意見で省略したが、カルデラの大きさは阿蘇が南北25キロ、東西18キロなのに対してキラウエアは南北4.7キロ、東西3.1キロとかなり小さい。それでも座席が右側だったため熊本空港を北に向かって飛び立てば眼下に阿蘇山が見えた。
「ダディの先祖のお墓はどこにあるの」佳織と私がそれぞれの官舎に別れる前に寄った横浜のレストランで志織が訊いてきた。3人は明日の飛行機でハワイに帰り、私は勤務なので見送りはできない。今回はこれが最後の父娘の対話になる。
「伊丹のお墓はマミィのお母さんとお祖父さん、お祖母さんが眠っているんでしょう。先祖は姫路のサムライだったって聞いてるわ。私はダディのご先祖さまのお墓にお参りしたことがないよ」今回の来日はかつての人気ドラマ「ルーツ」でアーネスト・ヘイリーが奴隷としてアメリカに連れてこられたクンタ・キンテの出身地であるアフリカのガンビアまで祖先を訪ねたような旅になった。その感動に立ち合った志織が自分のルーツに関心を持つのは当然だ。
「お父さんの祖先は山形県最上郡戸沢村の角川って言うとても綺麗な村に住んでいたんだよ」私の説明に義父母が関心を示したので佳織が通訳した。志織には日本語を忘れないために私たちとは日本語で話すように言ってある。
「お父さんは行ったことがあるの」「うん、お母さんと行ってきたよ」「とても素敵なところだったよ」それは数週間前の話だ。思い掛けない説明に志織が顔を見たので佳織が補足した。
「私が小さい頃、お兄ちゃんと行っていたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは誰なの。お兄ちゃんの結婚式にも雄馬くんと聡馬くんが来てたじゃない」守山で勤務していた頃、私と佳織が入校中に演習があると2人を愛知の実家に預けていた。
「そんな人がいたかなァ。雄馬と聡馬は幼馴染みたいなもんだ」「人間は色々で複雑な出会いと別れを繰り返しながら大人になるものなのよ」佳織は私が誤魔化そうとするのを遮った。今の佳織は梢との交流で両親に人生を踏み躙られてきた私の苦悩を知り、縁を切って憎悪することを避けている真意を理解している。佳織の厳しい目を見て志織も黙ってうなずいた。
13・JunJiHyunイメージ画像
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  1. 2018/11/29(木) 10:18:58|
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