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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1390

夜、職場でテレビを見ていると携帯電話に淳之介からメールが入った。私は昼に尖閣諸島の近海で違法操業を行っていた中国漁船が取り締まりのため接近した海上保安庁の巡視船に体当たりしてきたと言うニュースをを見て以来、政府の公式発表や映像の公開を待っているのだが夜まで待っても何も動きはなかった。現在、缶首相は国連総会に出席するため外務大臣と一緒に訪米中なので千石由人官房長官が留守を預かっている。その千石官房長官は事業仕分けを「日本版文化大革命」と呼んではばからない人物なので中国のご意向を窺いながらマスコミが納得する落とし所を探って時間を浪費しているのではないか。
「もしもし、まさかお前も尖閣に行ってたんじゃあないだろうな」事務室には私1人なので自分の席で電話を掛けた。先ずこの唐突なメールで考えられる緊急事態を確認した。
「へッ、何の話」すると淳之介は私の半分以上は冗談の質問自体が判らないような口ぶりだ。
「今日の昼前に尖閣諸島の近海で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたじゃあないか。拿捕された漁船は石垣港に入港したはずだぞ」私の説明に淳之介はしばらく考えた後、思い出したように回答した。
「そう言えば石垣港に帰ってきた時、見覚えがない大型の漁船が海上保安部の岩壁に停泊していたよ」石垣海上保安部の岸壁は離島航路の連絡船が使用する波止場とは別の位置にあるため間近に見ることはできないのは確かだ。
「それでもニュースでやっていたろう。そっちが現場じゃあないか」「ううん、こっちのニュースでは全然やってないよ」淳之介の説明に今度は私の方が唖然としてしまった。沖縄のマスコミが中国に不都合なニュースを一切報じないことは聞いているが、これほど重大な事件まで黙殺するとは呆れ果てるしかない。おそらく尖閣諸島には一般県民の目は届かず、漁船の接近も禁止されているため自分たちが流さなければ知らないまま通り過ぎることができると考えているのだろう。考えてみれば2004年11月10日の漢級原子力潜水艦の領海侵犯事件の時も沖縄県知事は全く抗議せず地元マスコミも本土から問い合わせが入るまで一切報道しなかったらしい。尤もそれは私が殺人犯として収監中の話なので出所後に誰かから聞いただけだ。
「ところで今日は何の用だったんだ」淳之介相手の時事阿呆談に区切りがついたところで話を再起動させた。考えてみれば官舎に電話しても私が帰宅しないため携帯電話にメールしてきたはずだ。そんな緊急の用件の腰を折ってしまって申し訳ないが簡単に折られた淳之介も同罪だ。
「そうだった。実はあかりが妊娠したんだ。今日、病院に行ってきた」「へッ・・・」話題が大きく変わり過ぎている。私は思考が事実に同期できず返事が出てこなくなった。
「今は第5週で予定日は5月6日だって」「・・・」私は美恵子で1回、佳織で1回と2人の妻を妊娠させているが毎度の悪癖で妊娠と出産、育児に関する本や雑誌=たまごくらぶを読み漁っていた。その上、防府では産婦人科医院に勤めていた曹侯基礎課程時代の彼女・律ちゃんを質問責めにしていたが(本当は会話を楽しみたかっただけ)、続く名古屋の病院では「随分と勉強熱心ですね。2人目でしょう」と冷淡にあしらわれただけだった。
「それで梢には連絡したのか」「ううん、先ずはお父さんにって思って」「それは違うぞ。お前は安里淳之介なんだからあちらを尊重するべきだ。支援を受けるにしても先ずはアチラになるんだから掛け直せ・・・ワシは佳織に連絡しておく」そんな訳が判らない理屈で淳之介に電話を掛け直させ、その間に私は佳織に電話を入れた。
「もしもし・・・」「ワシじゃ、とうとうオジイとオバアになったぞ」佳織の声を聞いた途端に私の中で歓喜が爆発した。流石に佳織は私と違って思考の反応が柔軟で幅広い。即座に一方的な連絡の意味を察知して冷静に返事をした。
「あかりが妊娠したのね。それで順調だって」「へッ、それは聞いてないな。ただ出産予定日は5月6日とは言っていたから順調なんだろう」内心では取り乱していた私を佳織は見抜いている。勿論、それが親子の情であることも理解しているはずだ。
「それでも出産から育児までをあかりが1人でやるのは無理ね。淳之介は海に出てしまえば途中では帰ってこられないから何かあっても頼ることはできないでしょう」「だから先ず梢に報告しろって掛け直させたんだ」これでようやく状況が説明できた。
「ウチで面倒を見るとすればハワイでスザンナに頼むしかないけど飛行機での長旅にあかりさんが耐えられるかな」これも想定外の提案だ。佳織の思考は日本に帰ってきて益々大胆で雄大になってきたようだ。それは1佐と2佐の階級や立場ではなく人間としての格の違いだ。
「先ずはおめでとう。グランドダディ」「うん、お祖母ちゃん」本当は別の話題もあったのだが今夜は忘れることにした。
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  1. 2018/12/02(日) 10:25:58|
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