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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1392

私の職場では今日もテレビを点けている。司法警察職員である海上保安官は逮捕から3日以内に容疑者を地方検察庁に送検するか釈放するかを決めなければならず、9日には主犯である船長の身柄が那覇地方検察局石垣支部に送検されている。私としてはその後の検察による取り調べの続報を期待しいるのだが相変わらず何も流れていない。わずかに報じられたのは送検事由が「公務執行妨害」であって領海への不法侵入と違法操業や衝突によって巡視船を破損させた器物破損ではないことくらいだった。
「民政党って野党の頃は情報公開を要求していませんでしたっけ」「うん、政府が応じないと『隠蔽体質だ』って批判していたな」「同じことを自民党も言ってやれば良いんですよ」ニュース自体に興味を失っている曹長と1曹は政権与党を揶揄し始めた。本来は特別職国家公務員にあるまじき問題発言だがそれを監督している私も同感なので放置することにした。
その時、画面に字幕が流れた。私はいつの間にか必要になった老眼鏡を外して画面を注視した。すると番組が中断してニュースを読む態勢になっているアナウンサーに画面が切り換わった。
「番組の途中ですが今入ったニュースをお伝えします」国営放送が字幕だけですまさなかったと言うことは大規模な災害や事故、国民に影響を及ぼす重大な事件のはずだ。
「先ほど大阪地方裁判所は偽造公文書作成と同行使の容疑で起訴されていた町木厚子前厚生労働省雇用均等・児童福祉局長に無罪判決を言い渡しました。繰り返します・・・」臨時ニュースと言うことで少し身構えた曹長と1曹は拍子抜けしたように視線を反らした。ところが日頃はテレビを無視している女性事務官は処理中の簿冊に腕を置いてテレビを注視し始めた。
「町木局長は厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長時代に自称障害者団体の倫の会に虚偽の障害者団体証明書を発給し、不当に郵便料金の割引を受けさせ、安価にダイレクトメールを発送させた疑いで告発されていましたが、大阪地裁は検察側の主張を認めず無罪の判決を下したものです」それにしても肩書をここまで正確に紹介する必要があるのだろうか。私も弁護士として国家公務員=官僚が告発されたこの裁判にはある程度の関心を持っていたが、検察のエースが揃っている特別捜査部が敗れた経緯は現在の裁判の参考になるはずだ。国営放送は5分で臨時ニュースを終えたので女性事務官が話し掛けてきた。
「町木さんって逮捕された時に松添厚生労働大臣が『働く女性の希望の星だった』って言っていた人ですよね」「うん、『大変有能な局長で省内の期待を集めていた』とも言ってたな」日本の中央官庁では検察が間違いを犯すことはないと言う前提で容疑の内容や罪の軽重に関係なく逮捕された時点で極悪人と断定され、大臣は口を極めて批判するのが常識だ。ところが松添大臣は容疑者となった官僚を賞賛した。この辺りに今回の無罪判決の伏線があるのかも知れない。
「やっぱり検察は次の裁判に持ち込むんでしょうね」「控訴期限は刑事訴訟法の55条で規定されている14日間と言うことになるけど今回の判決では検察側の立件を全く採用しなかったみたいだから逆転することを前提にした控訴は難しいかも知れないよ」有罪率99パーセント超の日本の裁判の場合、弁護側が控訴することが普通なので逆の立場になった検察の対応にも興味を引かれる。それにしても民政党政権は官僚叩きで国民の支持を集めているのだが、中でも厚生労働省は健康保険や国民年金の問題を全て官僚の不祥事としてサンドバッグにしてきた。それがキャリア官僚の1人である町木局長が悲劇のヒロインになってしまうとこれまで官僚叩きに拍手喝采していた国民の間にも疑問が生じてしまいそうだ。近く内閣の改造があるようだが果たして民政党に大臣を交代させられるだけの人材がいるのだろうか。
「確かにウチらの裁判を見ていても検察の強引な手法にはかなり無理がありますからね」「大阪地検特捜部も似たようなことをやっていたのでしょう」翌日、統合幕僚監部の首席法務官室に集まった滝沢弁護士と牧野弁護士は特別な感情の起伏は見せず、むしろ当然視しているかのような態度だった。尤も牧野弁護士は私の裁判で無罪を勝ち取った実績がある。
「問題は検察が汚名挽回とばかりに無理押ししてくることですが」「それは不可能だな」「下手なことをすれば検察不信を煽り始めたマスコミに同罪扱いされますよ」私の心配は首席法務官と牧野弁護士に不採用にされた。勿論、私自身も同様の状況分析はしており、少し話の流れを乱すために石を投げただけだ。ただし、私はマスコミには何も期待していない。
結局、大阪地方検察庁は9月21日に控訴を断念しただけでなくその日の朝日新聞の朝刊で担当検事の証拠改竄が報じられ、夜には証拠隠滅の容疑で担当検事が逮捕された。さらに10月1日には担当検事の証拠隠滅を知っていながら放置したとして上司に当たる大阪地方検察庁特別捜査部長と副部長が犯人蔵匿の容疑で逮捕され、今まで日本の正義を体現する存在として国民の絶対的な信任を得ていた検察官が犯罪者に堕ちた。
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  1. 2018/12/04(火) 10:28:20|
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