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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1406

とりあえず沖縄地方自衛隊情報保全隊の事務所で時間を潰すことにしたが、実際は今後の予定の再検討と組み直しの相談になった。
「今回は飛び込みの特命だったから場当たり的なプランニングになっていて、ここに向かう輸送機の中でようやく落ち着いて考えられたんだ」私の正直な反省の弁に証3佐は苦笑いしながらうなずいた。実際、法務官の承認を受けて関係部署に配布した行動計画も佳織の指摘で変更し、電話で通知するお粗末さだった。
かつての私はどのような事態になっても精神的には拘泥されず客観視できていた。やはりまぐれで当たった弁護士と言う職務が能力の限界一杯で余裕を持てなくなっているようだ。その前に適性がないような気もする。やはり検事向きなのではないだろうか。
「今日は地検に行くんですよね」「うん、アポは取ってあるからこちらからキャンセルするのは失礼に当たるよ。しかし、今思えば状況を傍観してから乗り込むべきだったかも知れないな」那覇地方検察庁への面談の申し込みはその日の夕方に石垣島へ飛ぶ予定だった時に実施したのでこのようなことになった。しかし、石垣島へは水曜日に向かい1泊2日で帰ってくることにしたので今となっては那覇で情報分析と状況判断をする暇(いとま)ができている。
「地検の方からキャンセルを申し入れてこないかな」「はい、政府が焦って何か言ってくればあり得るかも知れません」ここで証3佐は隊長室のテレビを点けたが本土の報道番組の時間に沖縄では地元の行事や買い物、グルメなどの街角情報を流していて状況が判らない。
「相手に再訪問することを了承させれば顔見せも無駄にはならないでしょう。上手くすれば石垣支部の担当者を紹介してもらえるかも知れませんよ」証3佐は随分と楽天的で前向きな性格のようだ。「用意周到」「動脈硬化」の陸上自衛隊では事前に余計なことまで考えて間違いのない範囲でしか行動しない。その点が「スマートで目先が効いて几帳面、負けじ魂これぞ艦乗り(同一の4字熟語なら「伝統墨守」「唯我独尊」)」の海上自衛隊の気質との違いなのかも知れない。それでも私自身は「勇猛果敢」「支離滅裂」の航空自衛隊で育ったはずだ。
「そう言えば給食通報を業務隊に出してないな」給食通報とは他の駐屯地や基地に入校や出張、経由する時の食事を依頼する通知書だ。勿論、事前に連絡しておく必要がある。
「幹部食堂で空自の給養小隊員に渡せば良いでしょう」「うん、そうだな」証3佐の意見に賛同してカバンから茶封筒に入った給食通報を取り出すと表に「那覇駐屯地業務隊長殿」とある。つまり陸上自衛隊那覇駐屯地の業務隊長宛だった。陸上幕僚監部で勤務する選りすぐりの陸曹も余りにも唐突で目的不明な出張で、個別命令の起案や旅費請求、おまけに経験が乏しい輸送機の搭乗申請などが集中すればポカ・ミスが続出しても仕方ない。私の現状も似たようなものだからむしろ同情したいくらいだ。
「駐屯地まで送りましょうか。後で迎えに寄りますよ」「いや、ブルーコーラルかハイビスカスに行くことにしよう」「流石に詳しいですね。元空自だけのことはある」思い掛けないところで自衛隊情報保全隊に私の経歴を把握されていることを確認してしまった。
午後から自衛隊情報保全隊の官用車で那覇地方検察庁に向かった。那覇地検は国際通りから奥武山公園に向かう近道の途中なので梢と何度も前を通ったことがある。
「本日はご多用なところに無理をお願いして申し訳ありませんでした」地検で対応したのは任官して間もないような若い検察官だった。それでも襟には「秋霜烈日(検察官徽章の公式呼称)」を誇らしげに着けている。私も制服の胸の格闘徽章の上に弁護士のヒマワリの徽章を着けてはいるが誇示する気分にはなれない。
「はい、ご存知のように本庁は大変に混乱していますから長い時間はお相手できかねます」検察官はこれ以上ないくらい素っ気なく迷惑であることを説明した。
「それで本日のご用件は何ですか。まさか横浜地検の弱点を探りに来られたとか」ここまであからさまに拒絶されると逆に居座ってやりたくなるのは弁護士化した私の性格だ。
「法廷では法理に基づいての正面勝負しかありませんから検事個人の弱点を介在させる必要はないでしょう」これは完全に綺麗事だが若い検察官は神妙な顔をして軽く頭を下げた。
「本日は弁護士と言うよりも陸上自衛隊の法務幹部として参りました」ここで名刺を差し出しながら来訪の趣旨を説明する。私の名刺は陸上自衛隊、弁護士、坊主の肩書別に3種類あるのだが今回は法曹関係者には珍しく陸上自衛隊の物を渡した。
「率直に言って現政権は近代国家の基本である3権分立が理解できていないようなので、法務大臣が交代すれば司法への介入が懸念されます」こちらが先に禁句を口にすることで相手に気を許させるのは誘導尋問の常套手段だ。案の定、この若い検察官は目の色を変えた。
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  1. 2018/12/18(火) 10:47:55|
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