FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1411

久しぶりのカレーを食べ終えてビルを出ると本土に比べて日没が遅い沖縄でも暗くなっていた。考えてみれば明後日は秋分の日なのだ。こうなると昨日と同様に飲みに行くしかない。ただし、自衛隊の制服で行ける店となると選択が難しい。
実は玉城家の義母の家系の女たちが受け継いできた小料理屋、今はスナックになっている「カッチン」は日航ビルと58号線を挟んで向かい合わせになる。今日はここに決めた。
「いらっしゃいませ」ドアを開けて店内に入ると聞き覚えがある声が聞こえてきた。声はカウンターの中からではないのでボックス席に客がいるようだ。
「淳之介の伯母さん、ご無沙汰しています」カウンターとドアを遮っている壁を抜けて顔を出すと制服姿に困惑している夕紀子に声をかけた。
「モリヤねェ、本当に久しぶりさァ」夕紀子は相手をしている客に断ってから立ち上がると営業用に少し親近感を加えた笑顔で答えた。私に続いて梢が店内に入り、夕紀子に会釈をした。
「こちらは淳之介の嫁さんのお母さんねェ。どうもご無沙汰しています」今度はあらたまって挨拶をした。夕紀子は私や梢と同じ年齢だが三者三様に老けてはいるようだ。
「貴方たちはカウンターで良いでしょう」夕紀子は手で席を勧めると再び客に断ってから中に入った。この礼儀と節度が妹とは違う。
「あの時、松真が入れたボトルは残っているのかな」「あの子が帰ってきて飲んでしまったさァ」どうやら予定していたボトルは当てが外れたようだ。
「それじゃあ松真と淳之介用にボトルをキープしよう。スィヴァ―ス・リーグルゥをよろしく」「はい、1万5千円です」この辺りの呼吸は孝子ママに近く妙に懐かしくなった。
夕紀子は奥からシーバース・リーガルを持ってくると棚の隅の釘に掛けてあった松真の札を掛けて栓を開けると水割りを2杯作った。そうして小さくお辞儀をするとカウンターを出てボックス席に戻っていった。
それから1時間後、夕紀子はボックス席の客が帰るとようやくカウンターに戻ってきた。ただし、私たちも話が弾んでいたから「大歓迎」とは言い難い。
「今日は淳之介の嫁さんのお母さんと一緒ってことは・・・」「安里梢です」夕紀子がややこしい呼び方をするので梢が自己紹介した。2人が会ったのはハワイでの結婚式だけだから記憶に残っていないのは仕方ない。
「うん、ワシが沖縄出張で来たから最愛の女性と再会したと言う訳だ」私は夕紀子に詮索される前に自白した。実は先ほどもボックス席の客たちに私との関係を訊かれて答えに困っていたのが聞こえていた。確かに「(前のママである)妹の別れた夫」とは言いにくかったはずだ。
「へーッ、嫁さんに言いつけてやろう」夕紀子の意地悪そうな顔を見て私は苦笑した。今回の逢瀬は佳織の黙認どころか半ば命令なのだ。
「それにしてもこんなに素敵な彼女がいたのにどうしてウチの馬鹿な妹になんか乗り換えたんねェ」やはり中年女になっている夕紀子は妄想を暴走させた。玉城家の3姉妹の中では二女らしく冷めて鋭いところがある娘だと思っていたが随分と鈍っているようだ。
「親に引き裂かれたところにオタクの妹さんから遠慮のない集中攻撃を受けたんだ。典型的な押し掛け女房だったじゃあないか」ここまで説明して美恵子とつき合い始めた頃、この店で夕紀子の面接試験を受けたことを思い出した。
「あんな妹を押しつけてしまってワッサイだったね」ここで久しぶりのシマグチ(沖縄方言)を聞いた。「ワッサイ」とは正確には「ワッサイビーン」で「スミマセン」と言う意味だ。
ここで夕紀子が目で「飲みたい」と訴えたのでうなずくとグラスに水割りを作って一口飲んだ。
「美恵子は贔屓客と寝ていたみたいで交代した私にも同じことを言ってくる客がいたのさァ」このおぞまし過ぎる暴露に流石に梢も顔をしかめた。
「だから小料理屋だった頃からの常連客は来なくなって変な連中が集まる店になってたのよ」それを夕紀子が建て直したと言うことだ。やはり冷めて鋭い二女らしい。
「あの頃、美恵子は離婚して独身だったから倫理的な問題はないけど、枕営業は一般的にヤクザ屋が経営している店の雇われママがやるものでこの店では関係ないだろう」「結局、美恵子も男が欲しくなったのさァ」これは私ではなく略奪して快楽に溺れさせた矢田の責任だ。
「淳之介もそのことで悩んでいた時期があったのよ。あの母親の血が流れているって・・・」これは初耳だ。私は唇を噛んでいる梢の横で夕紀子とカウンター越しに睨めっこを始めた。その時、別の客が来店した。平日でもこの客足ならなるほど繁盛しているようだ。
0・桑江知子イメージ画像
スポンサーサイト



  1. 2018/12/23(日) 10:48:07|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<振り向けばイエスタディ1412 | ホーム | 12月23日・日本共産党スパイ査問事件=党員殺害事件が起こった。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5090-890b79ba
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)