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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1416

翌日は朝一番の便で那覇へ帰ることになっている。秋の観光シーズンの旅行客は短期滞在が多いため石垣空港と那覇空港を往復する便も搭乗率が高く、秋分の日では行動するのに都合が良い時間帯では航空券が取れなかったのだ。
「あれ、モリヤ弁護士じゃあないですか」それでも賑わっている石垣空港の搭乗ロビーでいきなり声をかけられた。沖縄では自衛隊の制服を着ていて声をかけられることはないので戸惑いながら振り返ると沖縄地方検察庁石垣支部で対応してもらった富永検事だった。やはり自衛隊ではなく弁護士と言う肩書で私を理解したらしい。
「昨日はどうもお世話になりました。今日は那覇へ行かれるんですか」「はい、ニュースでも言っていた外務省の説明に同席するように命じられまして、朝一番で行って最終便で戻ります」外務省の官僚も朝の便で東京を立ち那覇へ向かうようだ。こうなると明日の航空自衛隊の定期便で本土へ戻るのが勿体なくなる。
「説明会が終わってからお話を聞けませんかね。地方検察庁の彼でも良いですが」「それなら地検で待っていれば良いですよ。どうせマスコミも入れない密談でしょうからせめて参加者の顔を見てやって下さい」こうなると役者を揃えなければならない。私は搭乗手続きに向かう検察官とは別れてロビーの隅で那覇基地の交換を通じて自衛隊上保全隊当直に電話をかけ、証3佐に私の携帯電話に連絡するように伝言を依頼した。
那覇空港の離島便ターミナルで待っていた証3佐の私有車で那覇地方検察庁に向かうと先日の若い検事の案内で説明会が行われる小会議室を見学した。この狭い部屋で顔を突き合わせて激論が交わされるようだ。証3佐は私が話しかけた一瞬の隙に机の裏の金具の影に盗聴器のマイクを仕掛けた。これで説明会の内容を傍受し、録音できる。
「外務省の木村です。本日は内閣官房長官の承認を受けて今回の事件を巡る日中相互の立場と主張について説明させていただきます」私と証3佐は地方検察庁の小会議室がある階の喫煙ホールのソファーで待っていた。証3佐も私に合わせて制服を着てきているので廊下を行き交うマスコミ関係者に怪しまれないように傍受をイヤホーンで聞きながら談笑を演じていた。
「承認と言ったって実際は命令されて来たんだろう。千石弁護士先生は何て言っているんだ」やはり喧嘩腰になっている検察官がいる。検察官は法廷でディベート式に討論するのが仕事だが、外務官僚は外交交渉が本業だ。どちらも頭脳明晰で雄弁なのは間違いないが毛色が違う。
「我々としても今回の中国の不法な行動には断固たる態度で臨みたいんです。しかし、政府は中国の意のままに収めることしか考えていない。官僚は政治の方針と決定に背くことはできませんから仕方ありません」声しか聞いていないがこの台詞を吐いた外務官僚の苦渋に満ちた顔が浮かんでくる。これもマスコミを立ち会わせなかったから口にできる本音だろう。
「石垣支部から被疑者の証言内容を説明させます」ここで地方検査庁の長である検事正が富永検事を指名したため証3佐がカバンの中で盗聴器に接続している録音機を確認した。
話し合いは昼食も取らずに4時間に及んだ。その間、煙草を吸いに来る取材記者たちが陸と海の制服姿の私たちに声をかけてきたが「知り合いの検察官に法律相談だ」と誤魔化した。
「腹が立ったと言うべきか疲れた言うべきか・・・大変でした」話し合いが終わり、外務官僚と首脳陣が会食に向かった後、会議室に入ると検察官たちは渋い顔をして動かなかった。取材記者たちは外務官僚と首脳陣を囲んでいったのでここは安全なはずだ。
「結局、外務省は中国に擦り寄る政権の意向を呑めと迫ったんですか」話し合いの激しいやり取りは全て聞いていたのだが、あえてとぼけるのも偽装工作だ。その間に証3佐は現場を確認するような顔をしてマイクを回収した。
「外務省も2004年5月に上海領事館の同僚が自殺に追い込まれた事件を忘れていないようだ。そこにこの不法行為だから怒り心頭に達する・・・怒髪天を突く気分らしい」富永検事は私の「髪」がない顔を見てあえて言い直いした。こんなジョークのセンスは外交官向きだ。
「つまりチャイナ・スクール(本来は外交官研修で中国語を専攻した者とその語学閥)は中国の手先と言うのは保守派の時代遅れな先入観と言うことですか」私の理解に富永検事は深くうなずいた。この顔では富永検事も私と同様に時代遅れな先入観を抱いていたようだ。
「後はウチの検事正が検察首脳会議で黙ってうなずけば有罪釈放と言うことだ。ダッカ事件の超法規的処置並みの暴挙だね」富永検事は千石官房長官を日航機をハイジャックした日本赤軍の要求に屈した福田赳夫首相になぞらえて揶揄したが私は賛成できない。ダッカ事件で釈放されたのは服役中の刑法犯6名であり、今回釈放されることになる中国人船長は立件・告訴もされていないのだ。別に千石弁護士先生を擁護するつもりは毛頭ないが私には「毛」がない。
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  1. 2018/12/28(金) 10:43:54|
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